今日は学校が創立記念日なのだ。第8話 すでにダメだったらしいちみっこつまり何がいいたいかというと、他のみなさんがあくせく働いてる中、堂々とお休みできるということ。学生の身でありながらも平日にふらふらとお外に出てもいいということ。そして最大の点は、 「………恭弥くんと武くんがいない…」 当たり前だ。お休みなのはうちの中学だけで、小学生は、ちゃんと学校に行かなければならない。 朝、いつものように、顔を合わせた彼に、「いってらっしゃい恭弥くん……っ!」とランドセルを見詰めながら涙をのんだ。 取りあえずやる事もないまま、ふらふらと出歩いてしまっているけれども、ぱたぱたと手を振って送った彼が、じっとこっちを見詰めて「姉ちゃん、変な事しちゃダメだよ」といっていた事を思い出した。変なことってなんだ! ポケットの中につっこんだ財布の中身を思い出して、よし久しぶりに本屋でも、と足をたんたん、と動かして、「うぶっ」 どすん、と小さな衝撃が、腰元に一つ。一緒に聞こえた妙な声に、なんだなんだと視線を下にそらせてみると、見事に真っ茶色で、つんつんとした髪の毛の、小さな男の子が、「くうう」と頭を押さえ込んでいるじゃないか! 「うっわごめん僕大丈夫?」 「う、うう」 「わー、泣くな泣くなー!」 見るからにうるうるとしてきた少年を、よしよしと頭をなでて、そのツンツン髪が、指の間から、ぴんぴんと飛び跳ねる。よしよしよし。(お、案外柔らかいな)「落ち着いたー?」 なんだかもう既にちみっこ達に慣れつつある自分に、とても微妙な気分になったけれど、同じ目線に腰を折って、にこっ、と笑いかけてみれば、ためらいがちに、ほんの少し、にこり。 やっぱり眉毛は八の字のままだったけれど。 「きみ、どーしたの、学校は。遅刻?」 てくてくと歩きだした少年の隣に、一緒にならんでてくてくてく。遅刻? というフレーズの部分でその子は首をふりふりと振った。「じゃあ、学校お休みしたの?」 ふりふり。 (………じゃあなんなんだ…?) ううん、と振り絞った頭で、ちらりと少年をまた見てみた。ランドセルもなしに、てくてくてく。「……学校、抜け出して来ちゃった?」 びくり 「ち、ちがう、おれ、お腹いたくて、家にかえるって、せんせいに」 「へえー……」 思わず疑いのまなざしを向けてしまうと、少年はちらり、とこっちを見つつ、道の端っこの方にうずくまって、「ううう、お腹いたい……」なんだその可愛らしい棒読み具合は。 彼の年齢は、きっと武くんや恭弥くんとそう変わらない、と思う。うむ、それなのに抜けだしとは、随分いっちょまえじゃないか。 未だにお腹を押さえたままのジェスチャーにふー、と息を吐いて、「お母さん、家にいるの?」 お腹が痛いジェスチャーはどこにいったのか、「え」と小さく吐き出した声と、こくん、と首を横に曲げて、「いまは、いない」「なんで?」「買い物の、じかん」 「 うん、と大きく頷いた私を見て、少年は、じゃあおれ、もう行く。とぱたん、と立ち上がった。バイバイ、と振るその手を、がしっ、と掴んで「うぎゃああああ」「はいはい暴れなーい」 そのまま米俵みたいに肩へと載せて、半泣きのようにばたつかせる足をべしっと叩く。 「並小までこっから近いし、送ってってあげる」 「おろしてぇえええ」と涙ながらの声に、ちょっとこれやりすぎたな、と一瞬後悔してしまったけれど、ここまできたら最後まで面倒みてやろうじゃないか。 「はなしてえええ」 「やーだ」 「学校おれやだあああ」 「それでもやーだ」 ぶっちゃけ、もったいないのだ。こんなちっさい年で、抜け出すだなんてすっごいことやってみせる彼の根性が(私だったら絶対ズル休みするね) たんたんたんっ、と一歩ずつ、目的地へと近づいていく。ほんの少し米俵になった彼が思いけれど、そこまで気にかける程でもない。 茶色いレンガに積まれた道の並木が、ざーっ、と通り過ぎた。「もっとさぁ、その根性、他の事に使えばいいのに」 呟いた私の独り言が、彼に聞こえたかは分からないけれど(こんだけ近かったら聞こえたかな)暴れる事をやめて、ぴくん、と微かに動いた口元と、やっとこさほんの少し開かれた瞼を見た。 「おれ、根性なんて、ない」 「あるよ、すっごく」 「……ない」 「諦めるな」 「諦めるのはいつだってできんだから」 だから、今は諦めるな よいしょ、と肩から、小さな彼をおろして、とんとん、ともう一回、その髪の毛を撫でた。 ほら。と背中をとんと押す。反動で一歩踏み出した彼は、くるりと、やっぱり八の字眉毛のまま、私を見て。 「あきらめんな、ちみっこ」 小さく、手を振った。 ← ■ → 2008.03.24 |