恭弥くんが大きくなっていた第10話 ある日始まる事もあるおはよう、。恭弥くんあるまじき笑顔で、にっこりと微笑まれた。今までの私だったのなら、「ひひひひひ雲雀さんが微笑んでる、ちょ、ヤメテ!」とか思わずぞわっ、と背筋が寒くなってしまうのだろうけれども、(けれどもそれはそれでアリだ!)ちびひば君で耐性がついたのか、一瞬ふらりと体のバランスを崩してしまう程度ですんだのだ。 おはよう、。もう一度優しく(なのだろうか!)といかけて、す、と私に手を伸ばした。あれれ、これは一体十年バスーカ? ぼやぼやとした頭の中で、はっきりとした輪郭を描く少年を、じっと見る。違う、ほんの少し前に見た彼は、このサイズよりも、もう少し大きかった。もう少し、声も低かった。 まるでそうだこれは、私が、私が、しっかりとした知識で、知っている、彼なんじゃないだろうか。 ゆるゆるゆる。伸ばした腕が、ぺったりと私の頬へと当たる。(あれ、) 思わずぎゅ、と目を瞑ったというのに、何の感覚もない。ああそうだ、これは、 布団から飛び起きた。 大きくなった恭弥くんに触られた場所を、思わず自分の手のひらでべたべたっ、と触ってみたけれど、特に何の問題もない。両頬を引っ張って、のっぺりとした顔になってしまっている以外何の問題もない。「………あああああ」 ぐいぐいぐい。もう一回、ほっぺたを引っ張ってみる。「恥ずかしすぎる………」 朝から、ちょっとテンション落ちそうだ。 しゃこしゃこしゃこ。口の中に歯ブラシを突っ込んで、ぐしぐしぐし。寝ぼけ眼な自分の顔を、じーっと見詰めて、何だかふと思い出した。「そういやここ、リボーンの世界だった」 この頃の私といったら、すっかり馴染んでしまって、え? 私? 元々ここの住人ですよう。え? 高校生だったのにいつの間にか中学生になっていた? なんの冗談ですか? なんて素でいえてしまいそうだ。 ぶっちゃけ私も、朝、恭弥くんもどきを見るまで、すっかりはっきり忘れてしまっていたのだ(それもどうかと思うけど自分) ぐしぐしぐし。無心に歯ブラシを上下さけながら、ほんの少し、思う。(あれって、中学生、恭弥くんじゃないかなぁ) ぺっ! ごくごく、ガラガラガラ! 「うん、多分」 忘れ去ってしまっていた記憶が、何かの拍子で飛び出してしまったのだろうか。それにしては随分、欲求がストレートに現れてしまっていた夢だと思う。ものすごく恥ずかしい。 そういえば、ちょっと前まで、幼少時の雲雀のお世話をして、ついでに雲雀を先輩といって、お隣の家から一緒に登校したい、だなんて、随分無理な夢を持っていた(気がする) ぶっちゃけ、今はもうこれで十分満足しているんだけれども。 ペシペシ、とタオルで顔を拭いて、よっしゃと一気に制服を着込んだ。今の私は雲雀恭弥のお隣のお姉さんで、並盛中の中学二年生なのだ。(ん? 並盛中の、二年生?)何故だかほんの少し、頭の中で妙な予感が、ぴこーん! と通り過ぎたけれども、気のせいか、とドアノブへと手をかけた。 「おはよう、」 聞こえてきた声は、低かった。いやいや、怒っているとか、そんな訳ではなく、予想をしていた、姉ちゃん、と可愛らしい声が頭に響く中、しっかりとした声変わりに、予想よりも、大きな身長。 今まで私の腰元へとあった視線は、すらりとした長い足しか分からない。ゆるゆるゆる。おそるおそる。視線を、上へと、あげて、 「…………きょうや、くん?」 取りあえず、自分にしか聞こえない声で、呟いてみた。にこり、とまではいかないけれども、ほんの少し目尻が優しくて、口元も、くいっ、と上がっていて、パチパチ、と私が二、三度瞬きをした後に、もう一度、「おはよう、」 ぐらり。体のバランスが崩れそうになったけれども、しっかりと足で踏みとどまった。(あれ? 恭弥くんってこんな大きかったっけ。いやいやそんな訳ない、これはどうみても、どうみても、これは) (いやいやいや、そんなまさか!) 手に握りしめた鞄が、随分重い。ぺちん、と額を叩くと、恭弥くんもどきが、じゃあ行こうか、とやっぱり予想よりも低めな声で、すいっと前を歩く。 ぐるぐるぐる。私の恭弥くんはどこいった。あの可愛かった恭弥くんはどこいった。そしてなんだ、この人、雲雀さんにしては、妙に態度が柔らかくないか。雲雀さんってったら、もっと、こう、(ギラリ、とした感じの) 「どうしたの?」 振り返って、ほんの少し不思議そうに、彼は目を細めたのだ。ぐ、と唾を飲み込む。「な、なんでも、」「なんでも?」 もう一回、唾を飲んだ。 「なんでもないです、雲雀先輩」 そう、と特に気にした風もなく、やっぱりスタスタと前をあるく彼を見て、ああやっぱり先輩なのか、とがっくり地面に膝をついてしまいたい気分になった。 (くそう愛しの恭弥くんを返してくれ!) ← ■ → 2008.05.22 |