| 来るらしい。来ちゃうらしい。 ………誰がって、うんまぁ。 第13話 お子様ランチが懐かしいどうしようどうしようと思いつつ、黙々の目の前の作業に順守するしか私の思考が守られる術はない。マジでない。はっはぁ、ハンバーグこねこねだぜこねこねー!! とテンションを上げたあとに、フライパンにてぐつぐつ温度を上昇させていくと、ピンポーン 「うお!」 きやがったー!! どうするオイラのフライパンが火をふいてるぜ! な状況だがしかし、お待たせすることはオイラのトンファーが火をふくぜ! な状況を意味している。しかししかししかしながら、こげこげハンバーグなどお出しすれば、かりとられる。首とか命とか。 (どっちにしろ死亡フラグってかぁー!!) オーマイゴット! 天は我を見放したァー! がちゃがちゃバタリ。つかつかつか。 「勝手に入ったけど」 そんなセリフを飄々といってのける恭弥くんの右手には、銀色の鈍い輝きを放つ鍵のわっかがくるりと回る。(合鍵常備っすか……) 漂う香ばしい匂いに、一瞬何故だか泣きたい気分になった。なんでお前持ってんだよ。 現在黒髪委員長はお箸をちょいちょいと綺麗に持ち、もぐもぐと口の中にハンバーグを咀嚼していらっしゃる。 「どうしたの、座りなよ」と指さされた正面の席に「あ、失礼……」とちょこんと座らせて頂いたが、いったいなにをどうすればいいか分からない。食事も喉に通らないとはこのことだろうか。だってこいつ誰よ。いやまぁ恭弥くんよ。でも違うよ。 いやぁ実物はカッコいいなぁ、と考える反面、心の底で何だか萎えているような気分があった。ない、だってないない。だってこの人さ、恭弥くんじゃなくて、(雲雀さんだよ) 何だか気持ちの中の感覚が、一歩後ろに戻ってしまった。けれども、彼は目の前で食物を摂取し、呼吸をし、動き、生きている。なんだか納得いかない、こんなに生々しい彼は納得できない、なんか違う、この人は違う。ちっちゃな恭弥くんじゃなく、別の、 「」「ヘイ!」 まるで私の思考を見透かしたように、お箸を持ったまま、彼はこちらをじっと見つめた。うっすらと細めた目つきに、ぞわりと毛が逆立ち、嫌な汗が背中を流れる。「食べないの」「……た、食べます」 指が震えて上手く動かすことができない。ぶっちゃけ、怖い。雲雀さんが怖いのかもしれない、けれどもそれ以上に、誰とも知らない相手と向き合っていることが怖かった。こいつだれだ。さっさと食べ終われ、お願いだから出ていってくれ、現実見させないでくれ、勘弁してくれ。(ちっちゃかったときは、よかったのに) ふいに、彼が立ちあがった。ぬっと私の前に立ちはばかるような仕草に、ごくんと生唾を飲み込み、カラン、と指からお箸が落ちた。やっべ。落ちたお箸は机の上から勢いを殺さず地面へともう一度、カラン。 のしっ。 雲雀さんが、一歩足を踏み出して、私に近づく。怖い。固まった体のまま、彼を見つめると、彼は私を一瞥した。やられる。殺される。腕を動かす。 ふい、と動かした腕は、地面に転がった箸を拾い上げ、机へと、おいた。 そして勝手知ったる我が家のように、なんの躊躇いもなく歩き冷蔵庫を開けた彼はオレンジジュースとコップを持ち、席へと戻った。とっとっとっと。コップの中にオレンジの液体を満たし、それを飲む。 食事のお供にジュースとは、どこの子どもだ。「お茶の方がいいんじゃない」 言った瞬間、物凄く後悔した。雲雀さんに、天下の風紀委員長に意見するとは何事だ、何を考えておるのだうち首だ。ひいいいいい、と脳内で死刑宣告が行われることに、ぎゅっと目をつむってみても、何の反応もなく、恐る恐る目を開いたそこには、「そう」と短い返事と共にお茶をとりに行く、雲雀さんの姿があった。 なんだこの人、意外と素直なんだろうか、意外とかわいいんじゃないだろうか。「恭弥くんみたいだ」ふいに、呟いてしまった言葉に、雲雀さんは、ほんの少し眉をひそめて、「やめてよ、その呼び方は」 まるで、昔は私がそう呼んでいたみたいな言い方だ。 あんまり、怖くない。それどころか、ちょっとかわいい。 あれ、これって恭弥くん? そんなことを思いながら落としたお箸を交換しに、よっこらせ、と私は腰を上げた。食事も喉を通りそうだ。 翌日早朝校門にてふたたび服装検査が行われた。「ネクタイがない!」と叫ばれた生徒はこの間と同じくずるずる風紀委員達にひっぱられ、遠く聞こえる悲鳴に、たまたまかち合った沢田が「雲雀さんこえええ……」と静かに呟いた言葉に、思わず深く頷いた。やっぱこええわ、委員長。 ← ■ → 2009.08.26 |