第15話  ヒットマンに狙われた



このごろ、なんだか慣れてきたかもしれない。とにかく、恭弥くんの晩御飯担当は私のお仕事らしい。なので毎日二人分の食事を準備して、恭弥くんを待つ。遅くなるときは恭弥くんから電話がかかってくる。多少がくがくしつつも応対して、テーブルにご飯をならべて、マダカナマダカナー

ピーマンも小刻みに入れて、「これピーマン入ってるからね」と事前に言っておけば、彼は無言で頷いてもごもご口の中に入れる。特にその表情は変わっていないようにみえるけれど、よくよく見れば眉と眉の間に皺ができているのだ。そんなのいやなのだろうか。


ご飯を食べ終わったら一緒に無言でテレビを見て、私が芸人につっこんでいる間、彼はとくに会話をすることなく隣のソファーに座っている。このごろ気づいたんだけれど、恭弥くんはマンツーマンになると結構無口だ。最初はびくびくしていたけれど、別に怒っているというわけではないらしい。テレビを見て、ついでに時間があればお風呂に入って、それじゃあねと自分の家に寝るためだけに帰って行く。
私は彼を玄関で見送った。にこにこ笑って手を振った。パタン、と扉が閉まる。その瞬間、心の中に潜んでいたセリフを力の限り解き放した。

「どこの新婚さんやねん…………!!!」

関西弁になってしまったのは先ほどまでお笑い番組を見ていた所為だろう。げらげら笑っている私のとなりで無表情の恭弥くんは中々にシュールだったけれどそれはいい。それはもういい。「どこのアツアツカップルやー!!!」叫んだ。

なんで恭弥くんこんなにべったりなの。どういうことなの。多少幼馴染とは言えど、こんなに(学校内の時間を除いて)四十六時間一緒にいるものなの! ご飯も作るものなの!

瞬間、私は恐ろしいようなありえないような考えが頭をよぎった。
    もしかして私、恭弥くんと付き合ってたりする?


なんてったって、気が付いたら恭弥くんは中学生になっていて、私の先輩になっていたのだ。その期間の記憶が、こっちはパーなのである。…………もしや。

そう考えた後、「いやいや、そんな、いやいやいや」と一人玄関で手のひらを振った。それはなくね。マジでなくね。いや、でも、ちょっと待って、そういう素振りもないし、いっしょにいるだけだし。ホントないって、うんホント。違う違う。勝手に顔が赤くなった。

こんなアレな元おたくと、天下無敵の雲雀様がそれとは、彼に失礼というものである。「ないないなーい、ないないナイアガラ」 意味が分からない独り言をぶつぶつ言いながら私はお布団の中に入った。いやほんと。ないない。ナイアガラー





朝は別に一緒に登校するわけじゃない。恭弥くんの方が学校に行かなければいけない時間が早いのだ。とりあえず玄関前でおはようのあいさつをして、彼のバイクを見送りながら自転車のサドルを握ったとき、ふと違和感に襲われた。
そういえば私、恭弥くんのお母さんをしばらく見ていない気がする。

恭弥くんのお母さんがお仕事をしていたかどうかはわからないけれど、週に何回かはゴミだしでおはようございますの挨拶をしたものだ。それなのに、このところそれがめっきりない。おかしいなぁ、と思うのに、なんとなく恭弥くんには聞きづらかった。
お母さんがいるはずなのに、ご飯を食べるのはいつも私と一緒、というところがなんともおかしい。……おかしいよね?


なんだか頭のどこかがくらくらする。違和感がある。気持ちが悪い。「うーん……」 考えても仕方がないことは、考えないのが持論だ。「よし、妙な気分を払しょくするためにも、教室で獄寺をからかいまくるぞ、えいえい、おー!」

ぐっと拳を突き出した先には、黒い服をまとった赤ん坊がいた。



赤ん坊は私に立ちふさがるようにこっちを見上げていて、私は拳を突き出したまま、固まった。彼はニヤッと笑った。こっちは思わず叫んでしまった。「リボーンさん!?」 そういった後に、やべえ、と気づいたのは後の祭りだ。私は即座に自転車に飛び乗り、しゃかしゃか本気でペダルをこいだ。リボーンに会ったことがないのに、彼の名前を知っているなんて明らかにおかしい。

「ヨォ、なんでお前、俺の名前しってんだ?」
「え……あれ、ぎゃああああ!!!」

ギギギギー、と力の限りブレーキを踏んだ。
いつの間にか自転車の前かごにちょこんと乗っていたリボーンはトレードマークの帽子をくいっとあげて、口元もあげる。いやいや、どうやって。どうやってそこにいらっしゃいますの。私あなた様を無視して死ぬ気の限りペダルをこいだじゃありませんの。


私が口をもごもごさせていたことに苛立ったのか(でも無表情っぽいので実際のところはよくわからない)彼はどこぞから銃を取り出した。人間、死ぬ気のピンチになると頭のまわりがよくなるらしい。自分でも知らないうちに叫んでいた。「リボーンさんは有名ですので!! それでお名前を存じ上げていたのです!!」 力の限り敬語だった。死にたくないし。


いやいや、この言い訳もどうよ。有名って、どこに有名よ。殺し屋の中かいな。それだったら私は自分で敵認定を出してしまったんでしょうかどうするガクブル。と自転車は足で固定したまま両手をサッと肩よりも高くあげた。

いったい、リボーンがどう納得してくれたのかはわからないけれど、彼は「なるほどな」と言いながら銃口で帽子を持ち上げて、ニヤッと笑う。「人気者はつらいぜ」「で、ですよねぇ!」 長いものにまかれろというごとく、相槌をうっといた。死にたくないし。


彼は相変わらず私の前かごに入ったまんま、「おいお前、名前は?」「ええ……名前……わ、わすれちゃったナー」「んなわけねーだろ。名前はなんだ、」「も、モロバレ!」

名乗るまでもなんですが、っていうか何故私の名前が! すでにチェック済みなのでしょうか!
リボーンはしばらくもったいぶったようにニヤニヤしていたかと思うと、「ファミリーのことなら、チェック済みだからな。今日も様子見だ」

しばらく何の事だか分らなかったけれど、ああ、なるほどー、と私は手を打った。ファミリーってのは、もちろん私のことじゃなくて、恭弥くんのことだろう。もしくは山本だ。彼らの幼馴染だから、私のことを知っていたのだろう。

私が納得したことに満足したのか、リボーンはひょーんとかごの中から飛び降りた。そして振り返ってニヤッともう一回笑い、「なるほどな、ちょっと興味がわいたぜ、それじゃあな」


ああはい……ばいばーい……と手を振って、ぶほあっと噴出す。たまたま隣を通っていた獄寺が、「きたねぇ!」と叫んだ。こっちはそれどころではない。
興味がわいたて。興味がわいたて。そんな乙女ゲーのフラグのようなセリフをはかれましたが、実際立ったのは死亡フラグじゃないですか。

刻々と自身の寿命が縮まる音を感じながら、私はとぼとぼ自転車で学校に向かった。

「おいボケ女、なんでお前、自転車なのに歩いてんだよ」
「人生には色々あるんだよ……」
「お前なんで疲れ切った顔してんだよ。だ、大丈夫かよ」

なんか獄寺にまで心配された。




  

2011.07.26