第17話  なんだかちょっと、変わってく




お弁当というのは、案外中身を考えさせられるものである。自分のことならともかく、人様のものを作るとなっては、色々と気を遣うし、そのうちレパートリーもきれてくる。うーん、うーん、と頭を悩ませていると、中々楽しい。(……うん) 楽しい。なんだか、この頃恭弥くんのことばっかり考えているような。
いや正確にいうと、恭弥くんのお弁当と、晩ご飯ばっかり考えているような。
主婦か。



「山本ってお弁当に何入ってたら嬉しい?」
「え? なに、作ってくれんの」

え、なになに。と机に片手を乗せて、にこーっとする男の考えは未だに読めない。「はいはい」「え、マジで?」 ぎょっと目を見開く幼なじみ(らしい)の顔を見て、そこまでビックリすることか。失礼な。と思いながら、「ちがいまっすーぅ」「えーなんだー」

期待させるよーなこと言うなよぉー、と台詞がガッカリしているのに、顔だけ見ればいつもどおりニコニコしている。わからん。「ま、そうだな……俺なら、寿司とか嬉しいな!」「参考にすらならない!」

あ、やっぱり、と山本は自分でも薄々気づいていたのか、ポリポリと頭をひっかいた。「あーでも、ホントにが弁当とか作ってくれたら、うれしーんだけど」「山本はおじさんにお寿司の弁当頼んだらいいよ」「夏は厳しいじゃん」 夏以外もちょっと厳しくないですか。

「おれさー、のこと好きなんだけど」
「はいはい」
「うわー、まったく信じてねー」

いいけどさぁ、と呻く山本の声を聞きながら、どうしたもんかなぁ、と考えた。
とりあえず、今日のお夕飯。




ふらふらスーパーに寄って、両手に抱える袋がごそっと重い。「う、ぐ、欲張るんじゃ……なかっ、た!」 いちいち買い物に行くのって、めんどくさいよねぇ、という若者にありがちな短絡的思考の元、本能の赴くままにかごに詰めた結果がこれだよ。「家まで……」 なんふん、と時間を考えて、げっそりした。学校帰りにそのまま寄ったものだから、背中にがっつり食い込む鞄に殺意がわく。

「都合よく、誰かに会ったりとか……」

きょろきょろきょろ、と辺りを見回し、私はパチッと瞬いた。「会ったよ」 ぶんぶんぶん、と聞こえるバイクの音が、どんどん近くなる。あちらもこちらに気づいたらしい。ハンドルをきゅっと握って、学生服をはためかせながら、くるりと体を反転させ、隣にキキキ、とバイクを止めた。「やあ」「きょ、きょーや先輩……」 今おかえりですか。


誰かに会えばいいなぁ、と思ったけれど、それは私の荷物持ちをしてくれそうなどなたかに会いたいのであり、さすがにここで恭弥くんをパシるような度胸は私にはない。確かに彼は話してみると案外普通だし、嫌いなご飯を食べてはくれるが、それでも天下の風紀委員長。しめるとこはキチッとしめてる(に、違いない)

ははは、と私が苦笑いすると、「そういえば」と、恭弥くんは珍しく背負っていた鞄のチャックをひょいと開けた。「あげる」 一瞬ドキッとしたものの、渡されたのはお弁当箱であった。(……荷物が、増えた!!!) 「ごちそうさま」「おそまつ……さまです……」

真顔のままなものだから、恭弥くんが何を考えているのか、まったくもって分からないが、家に帰ってから渡すとか、それくらいの気遣いが欲しかったなと、ちょっぴり涙しそうになったが仕方ない。「おいしかった?」 半分やけっぱちで訊くと、彼はきょとんと瞬いた。おいしくありませんでしたか、そりゃあすんませんなぁ、とやさぐれた顔で、ぷいっと顔を背けると、にゅっと何かが伸びた。よしよし。恭弥くんの手のひらだ。「おいしかった」

(…………うぶおっ!?)
頭をなでられている、と気づいたときには、すでにすっと手のひらは元に戻っていて、ついでとばかりに持っていた袋もとられ、恭弥くんのバイクのハンドルにかかっていた。あ、危なくない? と声を掛ける前に、ぶいん、と彼はエンジンを入れ、そのまま颯爽と消えていく。来るときもいきなりだけど、帰るときもいきなりだ。


ぽけっとお弁当箱を手のひらに乗せている自分に気づいたとき、ぼぼっと顔が赤くなった。「い、いやいやいや」 恭弥くんだし。
子どものときから知ってるし。
いや、いきなり成長したけど。

混乱したように自分の前髪を触って、気のせいか、口元か痛い。どうした、とぺたぺた確認してみた。笑ってる。(うおう!?) ものすごく、笑ってる。
こういうの、耐性がないんだよう、からかわないでくれよう、と口元は笑っているのに涙目になるだなんて、一人器用な表情で、ぼんやり道端に立っていた。






  

2011.11.20