第18話  ご飯は重要なんだぜ!?



「お前、付き合ってんの?」

唐突に訊かれた言葉に、「うん?」と私は首を傾げた。「付き合っていると言えば付き合っているかな。沢田の宿題に」「ううう、さんごめん……」「いいんす十代目は気にしなくって! っつーか馴れ馴れしく沢田って呼んでんじゃねえ!」 十代目って呼べー!!!

ビシィッと沢田に指をさす獄寺に、当の本人は「いいいやいいよちょっと獄寺くんちょっと!!!」と片手は必死にシャーペンを、もう片方の手は全力でバタバタ左右に振られている。忙しい。「はいはい十代目、そこ間違っておられますぜ」「お前ごときが十代目を十代目と気安く呼ぶな!!!」「えっ、さすがにそれは理不尽!」 


言った本人も、さすがにちょっと無理かと思ったのか、ぷいっと顔を背けた後、「ってちげーよ」と一人でごちて、眉をひそめながら「だからボケ女、お前付き合ってんのかよ」「……覚えがないんだけど、どちらさんと?」 さすがに最初は冗談である。獄寺とキャッキャウフフな恋話トークをする自分が想像出来なかったので適当にごまかしてみたのだけれど、駄目だったらしい。オウマイガット。そんなにお姉さんとコイバナしたかったかい! いや冗談だけど。

だから、と彼はじろっと私を睨んだ後、「あのクソ雀だ、雀」「うん? えー?」 一瞬誰のこと? と思ったのだけれど、ああ、と頷いた。恭弥くんだ。「なんでまた。違うけど」「こないだ、お前とあいつが一緒にいるとこ見たんだけど?」

うん? と言うように、沢田が顔を上げてこっちを見上げた。私はその頭をガッとひっつかみ下に向かせながら、「さわださわださわだホラホラホラ必死に書き書きしないと間に合わないよまままにあわないよ!!!???」「いたい!!! さんいたいいたい激しくいたい首がもげるううううう!!!」「てめええええええ!!!」


オウ! すまない! と両手を話して、アメリカ人ぶりに肩の横に両手を置いて、くいくい、と首を振ってみると、獄寺が妙に疑わしい目でこっちを見つめてきた。

「お前、何必死にごまかして」
「なにそれなにそれ!? さん全然わっかんない。わっかんない! わかった獄寺、きみも一緒に遊びたくてすねちゃったんだね、そうなんだね!?」
「なんでそんなトンチンカンなイコールに結びつくんだよこのタコ」
「やっだーあ、獄寺ったらぁ」

タコなのは、君の髪型でしょーお? ツンツンッ★

人差し指でおでこを弾く私を見て、獄寺はひどく冷たい目でこちらを見つめていた。「て、てへ……」 ぎゅ、と片方の拳を握って、口元に当てて、そっちを窺う。はー、と獄寺はとても長いため息をついた。見合った瞳にわざとらしく私が微笑むと、彼は迷うことなく拳を振り下ろした。ぼこっ
「ひでぶ」




獄寺にボコッとやられたおでこをさすさす撫でながら、考えた。
自分自身、ごまかしてしまったなぁ、という自覚があるのだ。というか、思いっきりごまかそうとした。(み、見られたか……) もしやそれって、よしよしと、頭をなでられちゃったときとか、そんな。っていうか、多分、そうだろう。なんてこった。

家に帰って、制服を脱いで、ガクッと床に膝をつく。通学路を帰っている最中にも定期的にやってきた発作なのだけれど、さすがに道端でするとただの変人であるので、必死に我慢した。自室にて、心置きなくオーティーゼットなポーズを作りながら、じわじわっと耳元が熱くなってくるのを感じる。

「お、お、うおおおおおおおおお」

両手で顔を覆ってごろごろしてみた。ごろごろごろごろごろ、がつっ。
壁にぶつかって終了した。「お、おおおお、お……」 なんなんだ。なんなんだ。(なんでこんな……)
思い出すと、胸が辛くなってくる。認めるのが辛い。ものすごく辛い。(こ、これは) ごろんと転がりながら、ぎゅっと自分の胸辺りを握った。
ときめいている。

思いだして、ものすごくときめいている。(いやいやいや、そんな) そんなそんな。
恭弥くんなのに。ちっちゃくって、ランドセルを背負っていて、いや、それ以前に、紙の向こう側の人だったじゃないか。それなのに、今はこんなに思いだして、ぎゅっと胸が痛い。

「…………なんちゅう、罪作りな……」 なんだか泣きたくなった。
違う違う、絶対違うから、と思っているのに、ふとしたときに思いだして、うおおお、と頭を丸めて抱え込む。
私、何をやってるか。



ガチャ、と開いた扉の主は、想像通りに恭弥くんであった。「おかえりなさい……」「ああ、うん」 彼はごろんと大の字で床に転がっている私を見て、さすがにちょっと怪訝な表情をした後、テーブルの上に食べ終えたお弁当箱を置いた。そして、暫くそのお弁当箱を見つめていた後、もう一度持ち上げ、今度はそっと私のおでこの上に置いた。
何がしたい。

「夕ごはんは」「言うに!! ことかいて!!! それですか!!!」 このやろう!!! とあっちから見れば意味なくキレる私を見て、彼は不思議そうな顔をした後、ポチッとテレビの電源をつける。「相手してよー!!」 バタバタバタ、と両手両足を泳がすと、恭弥くんはピピッとテレビのチャンネルを変えた。激しく無視であった。

なんだかどんどん悲しくなってきた。気にしているのは私ばかりで、あっちは常にフリーダムだ。どうせどうせ、と体を小さくさせて、ソファーで膝をくんで、図体ばかり大きくなってしまった恭弥くんを恨みがまし気に睨んだ。「どうせ私は、先輩にとって、ご飯を作る女という価値しかないんですよ……」 へへへ、と暗い台詞をつぶやくと、恭弥くんはチラッとこっちを流し見して、「そんなことないけど」

でしょ。
「えっ」と顔を見上げたとき、恭弥くんは素知らぬフリをしながら、「、ご飯」「そればっかかー!!」

こんにゃろー、とぶつぶつ言いながら、よっこいせと腰を起こす自分は、なんだかこの年で大きな息子さんを持ったような気分だった。




    その日私は、小さな日記帳を見つけた。





  

2011.11.21