| 「誠二と敵チーム。つまんないんじゃない?」 いわれた笠井の言葉に、一体何のことなんだ、と思ったのはつかの間。 第3話 お前だれだよといってみな 2 暇だった。俺は超暇だった。ピピーッ! となったホイッスルの音で、俺は我先にとなるべくボールが来ないところに(学生生活で培った、ちょっとした芸当だな)いそいそと移動する。ある程度のポイントといえば、ぼーっとつったってるだけじゃ授業点数が引かれちまうので(じょーだんじゃねぇ!)ほんの少し移動しつつ、ボールと一定の距離を保つ。 ついでに人がいなさそうなところへと出されたキラーパス(もどき)にちょいと足を出して、ぱっかーん! これだけでなんか俺、普通に体育を参加してるっぽく見てる(はずだ)。よし俺すごい! ……なんだけど。なんだけど。 「恐ろしいほど、暇だな」 思わずいつもの発音を忘れちまうほど、ナチュラルに口から言葉がもれた。ぱかっと開いた口からボロボロと言葉が出て行くかんじだ。 もっかいいう。暇だ、俺。 同じゼッケンの色のヤツからのパスも、違うゼッケンからのミスパスも。一つもないまま開始10分。時々くるくると舞う風と土に、あ、そういえば俺グラウンドにいたんだった。とか本気で思った。 「ちっくしょー! 笠井がんばれー!!」 「藤代パスまわせパスー!」 「もうゴールくんなー!」 男臭い叫び声を背中に、俺はぼけっとボールのありかを見ていた。泣きぼくろの野生児(だと俺は思ってる)はなんとも見事なドリブルでくるくると俺と同じ色のゼッケン達を翻弄している。敢えていうならソレに唯一対抗する猫目少年が、後一歩といったところで、スパッ! と抜かれてしまった。「「「あああああー」」」思わずの落胆の声が、こだました。 そのまま得意の(かどうかしんないけど)インステップキックで振り上げた右足の後に、バシーン! と見事にジャストミートする音が聞こえる。「ぎゃあああ!」「ちょ、キーパーよけんなよーつまんねー」「ふざけんじゃねー藤代ーお前かえれェェエエエ!!!」 手も足も出ないってのはこのことなのかもしれない、とぽつんと思った。思わずぐるりと身をかがめてしまったGKは「誰かここかわれー!」かーいそーに。ちょろりと避けられた視線が痛々しい。 (俺としては、超らく) だな。と思って、また真ん中へと持って行かれたボールは、ピピーッ! というホイッスルの音と共に、ばしこん! と蹴られた。ボールはくるくると敵陣のチームでの中で回る。………そろそろ、(授業の)得点稼ぎに行こうかな、とたったった、と駆けだした。よしよし今のうち。藤代くんなよ。くんじゃねぇぞ! 丁度いいとこに飛んできたボールを、くるっと体を回転させて上から靴で押しつける。そのまま弾いてやろうかと思ったのに、ドドドドド! ……妙な音が聞こえる。 ズサーッ! と砂の上を滑る音と一緒に、にかっと妙に嬉しそうな顔をした藤代が、俺の前へと向き直っていた。ちっ、と軽く舌打ちをしながら、無視してそのまま蹴り上げようとすると、「ほいっ」とマヌケな声と一緒に藤代の足が俺の前につっこまれた。 「ややわぁ藤代くん。どいてぇな?」 「俺からにげれるかなー!」 「(聞いてねぇし。うぜー)俺あんま得意ちゃうねんな、サッカー」 せやから手加減よろしゅうな? と若干ゆるめにボールに足を伸ばす。ぶっちゃけ、さっさとボールとってどっか行けよ近いんだようぜーんだよ触っちまったらどうすんだよ、みたいな。けれどもまたにかっと笑った犬は、「しょーぶしょーぶ!」……なにこれなんで俺コイツになつかれてんの? 意味わっかんね! またまた二回目の舌打ちを、藤代に聞こえないようにチッ! くっそ適当に終わらせてやる、とボールをくるくる体の周りに回す。とれよーほらほらーとれよー俺乱闘とかできんわけ。触っちゃうのやなわけ! そんとき気づいてしまった。なんか妙にチクチク突き刺さる視線。超視線。誰だよお前ら! と思ったらなんと全員だった。この場にいる、全員ね! (ちょ、お前ら見てんじゃねぇヨォオォォオオォ!!!) しかもなんか心なしか目がきらきらしてる! やってくれるよなら! 調子こいてる藤代をぬけて、ゴールを決めてくれる! みたいな。何ソレ何ソレいつの間に俺はお前らのヒーローに昇格してんだよオイ。いってみろォ!! チックショウ! とか思っている間に、藤代はナイスフットワークで俺の右足にズザザッ!と地面を削り取るように蹴り上げやがった! 思わず昔取った杵柄ってやつで足のウチっかわを使ってぽんっとボールを弾く。きょとん、とした藤代の顔を見て思った おおおおお! って男らしい声が幾十にも重なってうぜー本気うぜー超うぜーチクショウ! このままゴールへ走ってやるさ! 俺実はちょっと足速い! 蹴り上げた地面とそのままほんの少しずつつま先でボールを蹴り上げながら進む感覚に、うわすっげ久しぶり、と思った。ドキッとする感覚に、俺ってまだ忘れてなかったのか、と本気で思う。すげぇ、懐かしい。何年ぶりだろう。 ぶっちゃけ俺は、誰かへさっさとパスしたかった。ぽんっぽんっ、といい感じで進むボールの目の前に、俺と違うゼッケンの色がバタバタとはためく。数人が、ががっと横に並んでいる様を見て、ボールを弾いた。「………お、おれー!?」 わるい、名も無きクラスメイト! そのまま俺は、怪しまれないようにくるりと反転。オッケ。今日の授業点はこれでバッチリだ。多分。「ああああムリムリムリ!」名も無きクラスメイトの声が聞こえる。「ぎゃー! とられちまったー!」まじでか。名も無きクラスメイト。 また反転したように進むボールの勢いに、俺は正直興味なんてない。おお、進む進む! そんな感じ。いつの間にかとなりを走ってる笠井が、ぼそっと言葉を呟く「……、お前誠二に目、つけられたよ」………なんのこと? 見上げると、時計の針は、あと少しで授業終了の合図をうつ。よしよし今日も平穏無事だ。俺サイコー! 「うりゃうりゃうりゃー!! ! もっかいしょーぶしょーぶ!」 なんか、聞こえるぞ。 ありえない、とちょっと思った。めんどくせぇ。超思った。マジで嬉しそうな顔の藤代になにコイツ意味わっかんねんだけど。と思った。藤代の足下には見事にボールが転がってるし、頼みの綱の笠井は「俺DFだから」とかいってゴール前へと移動している。いやいやいや、今が本領発揮なはずだよ笠井くん! 「おっれっをー、ぬけるかなー!」 「(うぜー)」 ぶっちゃけそうだよこのままチャイムがなるまで待っときゃいい。特に構えたポーズに力を入れずに、ぼけっとほんの少しずつ大きくなる藤代の影を見て思った。アイツの目の前に立ちふさがる俺と同じゼッケンの色のヤツは、くるくるといいかんじに吹き飛ばされる(や、比喩だけどさ)そうだよ俺もあんな感じにすれば ピーン、と俺の中で、何かのスイッチが入った。あんだけうるさかった周りとか、あんだけ気になった時計の針も、今じゃ全然気にならない。まっすぐ。まっすぐ進む藤代だけが、真っ黒な俺の視界の中へと入り込んでいく。………おい筋肉教師、いったセリフはまもりやがれよォ! 俺は走った。藤代めがけて。真面目に久しぶりな感覚に、ほんの少し追いつかない体。ぐっ、と足を動かして、アイツの前へとぶつかるように走る(んなの、ホント、久しぶりだ) ぱくぱくっ、と藤代の口が動いた。うん、多分あれ「」といった気がする。真っ白と、真っ黒だ。何もきこえない。(そういえば、俺は昔から、集中すると、音が聞こえなくなるんだ) 真っ直ぐ、足を伸ばした。軽く左右に動かす藤代の体をすりぬけるように、するり。 足はボールをすくうように、ゆったりと。まっすぐ。何もない音の中で、ぽーん。と一つ、音がした。まっすぐに伸ばした軸足はずれないように。 そのまま、そのまま、振り抜く 「ピピー! 試合、終了ー!」 ぶっちゃけ、点数の差は明らかだった。雲泥の差だった。珍しく体育でかいた汗を体操服の端っこでぎゅ、とふく。口々に聞こえる、、すげー! おうおうありがとうよ。頑張ったかいがあったってもんだ。「!!」………なんだわんころ そのとき、ぎゅ、と藤代に手を掴まれた。 (あ、) 「ああもうお前なにすっげすっげ俺あんなキレーに抜かれたのはじめてだー!」 ピシッ、と脳みその中で、何かがはじける音がした。ぶううん、とまるで昔の機械のような音が流れて、視界がぶれる。ノイズだ。灰色の線が入るたびに、見える。 『すごいわ私誠二がぬかれたところなんて初めてみた!』 「なんでなぁなぁなんでサッカー部じゃねぇの!?」 (………なんか、きこえる) 小さな、女の子のような声だ。キンキン響く独特の声に、一瞬耳を覆いそうになって、ゆっくりと灰色の線が何本も入っている部分を、見た。藤代の隣に、誰か、いる。 『なにアンタサッカー部じゃないんだって! どういうことよそれー』 「、お前絶対運動部入った方がいいって、なぁサッカー部はいらね?」 はっきりと、ほんの少しずつ、見えてきた。左右にぎゅ、とくくった真っ黒な髪。愛嬌のある大きな瞳。こどもだ。間違いなく。すっげー、こどもだ。 『「とにかくすっげー!」』 「(………声がだぶってる)」 なんかコイツらおもしれぇな。とちょっと思った。けれどもいつまでも手を掴まれてる訳にゃいかない。ぞわぞわとやってくる背筋からの寒気に思わずぎゅ、と顔に力をいれてしまった。……俺は基本的に、誰かに触られるのは、だいきらい、なんだ。 「……藤代くん、放してくれへんかな?(声、ふるえんじゃねぇよ)」 「んー? わりーわりー」 にかっ、と何の悪気もないように笑う藤代が、ほんの少し羨ましい。(……やっぱダメだ、こんなバカ俺は嫌だ)はぁ、とため息をついて、自分よりもほんの下へと顔を向けたとき、パチリ、と目が、あってしまったのだ。 『…………あんた、もしかして、見えてる?』 …………見ないふりした方が得策だろうか。 ひょい、と視線を遠くにして、やー教室に帰ろうかいなー! とわざとらしくいってみた。やっべ、ちょっと本気でわざとらしすぎた! 『ちょ、ちょっと何知らんぷりしてるのよ、見えてんでしょ、ぜーったい見えてんでしょ!』 (やっぱダメか!) 取りあえず、最後の抵抗として、ちいさな声で「……見えてへんよ」『見えてんじゃん!』(ちっ!) その小さな女の子は、俺の方を見て微妙に首を傾げている犬っころを、ちょいちょいと親指でさして、いったのだ。 『初めまして、あたし、誠二の姉よ』 ………誰も聞いてないんだけど。 ← ■ → 2007.10.27 |