『ねぇねぇ、アンタってなんなの?』


第4話   なつかれた。パート2 1




「……いや、何って聞かれてもなぁ」

自分の自室のベッドのごろんと転がって天井(つっても二段ベッドの下だから木の目しか見えないけど)を見つめていたはずが、にゅるりとどっからか進入した幼女一人に、俺の癒しの空間は形をかえた。気のせいか後ろがうっすらとすける体をくるくる動かして俺の部屋の中を走り回る。足音一つないのが妙に不気味で、ちょ、なんでだよと思って見てみるた。………うわ、微妙に浮いてる(お前はド○えもんか)

とりあえずこの子の至極まともな質問に、俺は俺自身で首をかしげた。……何って、聞かれても?

「人間やね」
『うそねー! だって今まで、私の事見えた人間なんていないもん!』
「へぇーへぇーへぇー」
『なんかむかつく!』

むきー! といいながら左右にくくる髪をバタバタと動かす少女は、なんていうかうん、ホント藤代の姉って感じだ。テンションが似てる。(つか姉ってより、妹?)『アンタいましつれーな事考えたでしょ』「うんにゃ全然」

あっそ。とぷいとそっぽをむく彼女を見て、俺は思った。なんていうか今までナチュラルすぎてつっこめなかったけど、俺は思ったのだ。


「っていうかなんでお前ここにおんねん」
『お前っていうなアンタより年上よ』
「すんまっせーんオネエチャン。なあ藤代は。藤代のトコいかんでええん」
『いいの。あの子ももう子どもじゃないんだから』
「(……こどもにこどもといわれる藤代)ぷっ」
『アンタまたなんか考えたでしょ』

うん鋭いな。思わずにやっとしてしまったら、オネエチャンに『きもっ』っていわれた。え、ちょっと酷くない。くん案外ナイーブなのに。
なんかもう色々とどうでもよくなって、もそもそと布団のシーツをひっぱって顔を埋めた。ひんやりと冷えた上布団ごと、顔の上にばさりと重ねてなんていうの? 俺もう寝るよめんどくさいし。
『こらこらこらこらー!』

ずぼっ にゅるーり


「……こらこらオネエチャン。顔だけ布団の中に入れへんの」
すりぬけてるすりぬけてる

それがどうしたっていうのよちょっと人の話聞いてる! と耳じゃなくて、直接脳髄にきーんと響くような声を叫ばれた。ぐわんぐわんとなる音が、まるで寺の鐘を連打した後の反響音みたいだ(アアアアア!)
「オネエチャン、ちょお静かに……」『バーカバーカのバーカ!』「あ、頭にひびくんやって……」『何アンタ酒でも飲んでんの? サイテー』「……ちゃいますがな(お前の声響くんだよ)」

アンタ枕元に立ってやるからね。なんて恨みのこもった言葉を聞かされて、たまったもんじゃない。何ソレやだよ呪詛じみてるよ。
(……ここは、退こう)と、俺は思った。いいか。ガキと話すときは適当なはぐらかしと適当な諦めが必要だ。へへ、ともう一回布団の中で(諦めたように)にやついて、埋めていた顔をもそもそ出してみた。俺の枕元辺りに(ちょ、マジで!)ナチュラルに立っていたオネエチャンは『あら起きた』……あらじゃねぇよあらじゃ。


「で、何」
『へ』
「何が聞きたいねん」

あれ! 教えてくれるんだ! なんて目がキラリーン。俺はポリポリと自分の頭をひっかいて思った。……別に俺はもったいぶってた訳じゃないし、話したくなかった訳でもない。ただ藤代みたいなテンションについていけなかっただけだ。ついていきたくなかっただけだ。

オネエチャンはふわり、と体を浮かせて、宙でくるりと回る。あ、パンツ見えた。
くるくると空気中に藤代とそっくりな真っ黒い髪をばさばさとゆらせて『うーん、そうだなぁ』 俺ねていい?


『そうだなぁ、は、私みたいなのが見えるの?』

ぴたっ、とほんの少しからだがナナメっている状態で、俺をじっと見つめてくる。お前よく酔わないな、とちょっと思った。

「見えるっちゃ見えるわな」
『歯切れが悪いなぁ』
「人間に触ると、時々や。そいつの後ろにいるヤツが見える」
『へぇ。じゃあこんなことも、いつもなんだ』

いつもってなんの事だ? と首を傾げると、オネエチャンも首を傾げて、ああ、と頷いた後に、なんていったらいいのかなぁ、とボソボソ呟いて、口元に指先をおいた後に、ぽんっと手を打った。『こんなふうに、私たちと話すこと!』

俺は布団をバフバフ何回か叩いた。ただでさえしわくちゃなシーツには、増えた皺なんてわかりゃしない。
そんな皺を身ながらちょっと考えて、俺は首をふった。「見えることはあるで。けど、声まで聞こえたのはオネエチャンが初めてやわ     だいたい、こんなん特例やし」
何が特例なのよ、とオネエチャンの目が動く。きょろきょろと動くそれは、昔飼ってたハムスターを思い出しそうだ(そう思うと、案外可愛くみえるかもしれないな?)

「俺は、人に触るとそいつの未来とか、過去がみえんねん」
たまに、やけどな


実際、この事を口にしたのは初めてだった。案外するりと出てしまった言葉を頭の中で反芻して、咀嚼する。へぇ、なにそれスゴイ! と聞こえる声に、違う。と首をふった。そんなんじゃない。そんなんじゃない。もっと、これは       「…多分、やけど。そいつのトラウマとか、触れられたくないトコとかが、見えるんやと思う」………このことも、口にしたのは初めてだ。


空中でピタリと止まっていたオネエチャンが、じっとこっちをみた。そのまま、ドスンッ! と壁へと落ちる。いや、ドスンッってのは俺の中での音なのであって、実際には静かなものだ。ただ何かが間違ったと思うことは、そのドスンッ! と落ちたオネエチャンの体が、するすると床下まで半分すりぬけてる。……ちょ、ちょっとなにしてんのお前! ヒイ!

『………わー、もうビックリしたー! 体の力抜けちゃったじゃん』
「ビックリしたのはこっちやわ!」

『だからか!』 いや何が。 『なるほどだからかー!』 だからなにがだよオイオイオイ。
座ったベッドがギシギシなる。はぁ、とため息をついて、目の前のオネエチャンを見てみた。何度も何度も、なるほどー、と呟いて、最後に一つ、なるほど! と叫んでいる。お前なに。何したいのいったい。追い出すよホント追い出すよ今すぐ。


『だから変なヤツだったんだ』


どうしよう俺ケンカうられてる。



「よしそのケンカ買ってやろるわ。なんぼや。オニーチャン奮発したる。いってみ」
『いやいやいやジョーダンジョーダン   
本音入ってるけど
「最後の部分をハッキリいわんかい!」

くるんっと振り回した拳はオネエチャンの顔面をつきぬけて、隣の部屋の壁に当たった。ゴンッ とした音と、俺の腕の確かなしびれに、そういやコイツ。とか思い出した。多分俺はバカだ。『ちょ、ちょっと当たったらどうすんのよ』「あたるかボケェ!」


『ああもう前々から思ってたのよね! なーんか教室の中でういてるヤツいんなーってサ! なんか関西弁だし! 前髪ぼさぼさだし! 後ろ髪ながいしー!』
「うっさいわ! もうなんちゅうんソレは個性ってヤツや認めたりー!」
『そんで私おもったのよもうピンときた! こいつは変なヤツだ!』
「繰り返すなや!」

ズビシッとさされた指をひっつかんでやろうか! と思って握りしめようとしたら、またまたすかっと通り抜けた。それでもオネエチャンはちょっとビックリしたらしく、びくびくっと小さく肩をすくめて自分のその(小さな!)ムネんトコにぎゅ、と手を押し込める。

『なによなによ! なんかすっごいつきあい悪いし! こにゃもう完全に人間嫌いとかかしらとか思ったのよ! けど』

くっそコンチクショウ、と今度は回し蹴りだの勢いで足をぶんまわすと『ギャアー!』とかいいながら天井にぴたっとくっつく。……とどかねぇ。いい判断だ(降りてこいゴラァ!)

『時々、聞こえてくんのよ、アンタの中の声。へらへらした、妙なイントネーションじゃなくて、はっきりした、』
「なんやねん」
『なにそれ、わざと? まるでラインね、それ』
「だからなんやねん」


ふんっ、とお互い鼻で笑い合って、『私はアンタより年上ってってんでしょ!』敬語の一つぐらいつかいなさいよ! アホかなんでお前みたいなちんくしゃにそんなん使わなあかんねんボケ! キイイイイムカツクムカツクムーカーツークー!

ガンッ さっきのもまた、俺の頭の中のイメージだ。
オネエチャンの拳が、壁を力一杯叩いたイメージだ。実際はすりぬけてるけど。


「バッカみたい!」


そんだけいうと、隣の部屋にするりと通り抜けてしまった「あ、テメッいい逃げかよ!」(あ、思わず関西弁ぬけちまった!)
ぐああ、チクショウ、と頭を抱えていると、壁の中から、顔だけ、にゅるり。

『あっかん、べー』



……………………ぷっちん


「ふざけんなこのチンクシャがーーーーーー!!!!!」


ガッツーン!
ちょっと手は痛いけど気にしない俺、よし俺! もういっぱつなぐっとけ俺!
せぇの! と手を振り上げた。丁度そのとき、頭の上にぼとりと何かがのっかる。


視界の端に見えた尻尾はちょっと黒ずんだ緑っぽい感じ。頭をぶらぶらと左右にゆらして、もう慣れてしまったこの重さが憎らしい「……ジョセフィーヌ。お前また天井でも散歩してたわけ」

特に返事のないソレに、なんていうか、もう、俺いったい何に怒ってたんだっけ。と、ちょっと思った。

 




  



2007.10.28