「あああああ」
こんちくしょう俺のばか


第4話   オネーチャンで結構 3




こっそりと、ほんの少し黒ずんだ、校舎の裏で頭をひっかいて「コンチクショウコンチクショウコンチクショウ」
ついさっき、思わず素で出てしまった言葉を思い返して、ホントにどっか穴の中に入ってしまいたい気分になる(触んなって、俺ぇえぇぇえ)
たまたま、タイミングが悪かっただけなんだ。いつもだったら、ほんの少し俺の体がビクついて声がうわずってしまうけれど、それだけだ(なにも、あんな)

    ホンマは、奨学金っちゅうん? うちのガッコの特待生やねん

「ほんっと、バカだ、俺」


確かに、それの所為で、俺が部活に入る事はないだろうけど、他人にペラペラと話す内容でもなかった。ほんの数十分前の事なのに、随分昔の事に思える、とはこの事だろうか。
ずるりと座り込んだ校舎の地面は随分ボロボロで、ブレザーにちょこちょこと土がついた。洗濯が面倒くさい、とは思ったけれど、まぁいいか、とそのままごろんと寝転がる。
綺麗に光が反射するお天道様を見て、思わず目を細めた。
(この後、どんな顔して彼奴らに会えってか?)(イヤでも教室で会うのに!)


『見つけたわよ』

やっぱり頭の中に直接響くような子どもの声に、ほんの少し眉を寄せてしまったらしい。オネーチャンは、『なんなのよ』とほんの少し不機嫌そうな声を出して、左右にくくった髪の毛を、揺らしながらいった。



「オネーチャン、よーわかったねぇ、俺がここにおるって」
『なんとなく、アンタの場所わかっちゃうのよね』
「いややん、プライバシーゼロやわソレ」
『そんな事はどうでもいいの』

相変わらず、オネーチャンはふわりと地面から浮いたまま、俺をじーっと見た。「なんなん」 なんなん、じゃない。この子は、藤代といつでも一緒にいるのだ。思わず、俺は、ぎゅ、と拳を握って、

『誠二、ちょっとビックリしてたけど、あんまり気にしてないよ。アンタも気にしない方がいい』


頭の中で、おしかりの言葉を受けるものだと思っていたもんで、覚悟をと、固めておいた体が、へなへなと力がぬけていく感じが分かった。(なんだっての、お前)

「オネーチャン、そんだけいいにきたん?」
『そうよ、悪い』
「いや、わるぅなんてあらへんけど」

ごろりと、転がったままの体を起こして、「よっこらせ」 左腕につけた時計を確認した。もう少しで授業が始まる時間だ。遅刻なんてする気もないし、する必要もない(サボる、なんて論外だな)

「ありがとぉなオネーチャン、ちょい気ぃ楽になったわ」
口元をにかっと笑ってみせると、オネーチャンは、フンっ、と鼻で小さく笑って、『アンタが気にしてちゃ、誠二も気にするじゃん』 ……うん、なるほど、中々のシスコンだ。「なぁオネーチャン」『なによ』「オネーチャンの名前、なんていうん」

ふと、思った事を、何ともなしに訊いてみただけなのに、オネーチャンはううん、と少し考える素振りをする。俺は訊いちゃいけない事を訊いたんだろうか、とふと思ったけれど、オネーチャン特にバツの悪い表情をした訳じゃなかったので、まぁいいか、と思ったときに、随分おもむろに、口を開いた。
『ないわよ、そんなモン。あたしはずっとお母さんのお腹の中にいたから』


(そりゃ、つまり)
考えようとした思考を、オネーチャンが人差し指をぴしっとたてて、静止する。
『だから。あたしは藤代誠二のオネーチャンで結構よ』

随分勝ち気に、にやりと少女は笑った。







  


2007.01.31