| おべんきょしましょう 第2話 図書室にて。 私は実はこっそり、図書室は好きだ。静かな空間で、自然と考えはまとまってくるし、思わず「ほふう」と息をついてしまうような、紙の匂いが落ち着く。人がいっぱいいるのに、とっても静かな不思議空間は、きっとここでしか味わえないと思う。 (………いろいろ、考えたい事があるんだい) お勉強の事とか。身長が中々伸びない事とか。我が弟に、なんだか私ちょっとなめられてない? とか思っちゃう事とか。 あとはほら、山口くんの、事とか。 想像しただけで、頭がぐわんぐわんとなってくらくらしてしまうけれど、私はなんと、彼のお尻を触ってしまった。いやいや、別に好きこのんで痴漢行為を働いた訳じゃなくて、たまたまばんざーい! と私が手を伸ばしたときに、丁度彼のお尻をこう、ぺろりん!(くあああ) それだけでも大問題なのだけれど、一番の、一番の、とっても一番の問題は、私が彼を好きだって事だ。 随分前から、半分一目惚れのようなものをして、弟の平馬に手伝わせて、ナイスなセッティングで、一番最初にご挨拶してみせよう! と意気込んでいたというのに、悲しすぎて涙が出る。ぽろぽろぽろ。そして彼は、何でだろうか 「あれ、ちゃんも、図書室で勉強なのか?」 「………や、やまぐちくん……」 私の事を、年下の女の子だと思っているらしい。 向かい合った机は、もの凄くドキドキする。顔をひょいと上へ上げてしまえば、端正な山口くんの顔がアップで映し出されてしまうし、そもそもあっちからも、こっちがアップなのだ。耐えられない。恥ずかしすぎる。「うぐぐ」変な声まで出た。 そんな私を、山口くんは、「なに、その問題そんなの難しいの?」と私の数学の問題集を指さしながら、質問する。そんなところです。実はもっと難しい問題があるのですが。 (平馬ー! たすけてー!) 心の中の叫びは、我が愚弟には聞こえていないに違いない。くしゃみの一つでもしてくれてるかな。 そもそもここは、喜ぶべき場面なのだ。好きな人と、向かい合ってお勉強。どっきりタイム。大きな声は駄目だけど、こしょこしょ話までなら、きっと大丈夫だと思う。 カリカリと無心に鉛筆を動かすフリをして、私は凄く凄く、山口くんに何を話しかけようか、考えていた。どうしよう。消しゴム忘れちゃったふりでもしようかな。それとも、問題が分からないから教えてくれないかな、とかいってみようかな。 何度か息を吸い込んで、話しかけようとしたけれど、やっぱり直前で、ぴたりと思考が止まってしまう。私は、一発本番に弱いのだ。何度もリハーサルしないと、実力を発揮できない凡人さんなのだ! 「ううう」 「ちゃん、やっぱりそれ難しいの」 「え、あ、はぁなんとなく」 「教えてあげよっか。俺数学得意だし」 「えっ」 是非! と問題集を彼へと向けたときに、はっとした。いやいや私、これ三年生の問題じゃん。二年生じゃん山口くん「や、やっぱり、だめ!」 けれどもやっぱりもう遅い。しっかりと彼の瞳の中へと映り込んでしまった問題を、不思議そうな顔をして、彼は首を傾げた。「あれ」 ああやっぱり、さっさと訂正しとけばよかった。なんとなく流れるままに今のままになってしまってて、否定するのも今更だし、どう切り出せばいいんだともそもそ考えてるままじゃ、駄目だったのだ。耳が熱い。恥ずかしい。さっさと、(さっさといっとけばよかった) 山口くん、私平馬のお姉ちゃんだよ、敬語とかいらないし、今のままでいいよ山口くん! 頭の中で言葉をリハーサルして、すうっ、と息を吸い込む。 彼が、口を開いた。 「うわー、この頃の一年生って、難しい問題してんだな。俺全然分かんねぇや」 あんまりにも当たり前のように、「ちゃんすげぇなー」とぐしぐし頭を撫でられて、リハーサルの台詞も頭からぬけて、いやいやちょっとまって山口くん、山口くん、 「それでいいのか山口けーすけ!」 「え、なにが」 1000のお題 【77 誤解を招く】 BACK TOP NEXT 2008.09.15 |