第8話   文化祭 前日






体育祭の次の、大きな行事に、みんな慌てふためきながら3学年が一団となって、ウオオオオ! と妙なオーラが飛び出て見えた。大丈夫だろうか、間に合うんだろうか、とカレンダーを見つめながら、ぺけぺけついていく黒いマジックの印。ま、間に合うんだろうか!

「ダイジョーブダイジョーブ」


何の根拠があるのか、山口くんはけらけらと笑いながら、教室のイスへと反対に座り、背もたれへと手を伸ばしていた。あとは確認チェックだけだ。黒いカーテンを覆いように別けられた教室の内部で、「きゃあー!」と聞こえる女生徒の声が耳に響く。なんだかこっちまでドキドキする。

「いや、だいじょうぶって、いっても、その」
「まぁ、ちゃんが不安になるのもわかるけど。今まで、自分たちのクラスだけでやってたもんな。他の学年と共同なんて知らない人間だらけだし」


俺なんてまだ名前も覚えてない人がいるよ、と困ったように笑う彼は、なんだか可愛かった。へにょりとした眉にドキドキして、もう一度見つめるとやっぱりカッコいい。一瞬恋する乙女思考へと奪われそうになり、ぶんぶんぶん、と思いっきり頭をふりながら、黒のカーテンギリギリへと体をよせ、小さく体育座をした。

正直、今でもちょっとの衝撃で、下手なことを口走りそうな自分が怖い。
山口くんに嫌われてしまうぐらいなら、延々と口をつぐんでいる方がまだましだ!


けれどもとろりと流れる時間に、無性に幸せな気分になってしまって、自分のほっぺたをべちりと掴む。落ち着け。落ち着くんだ。無心になれ。


ちゃん」
「ふえい!」
「(ふえい?)」
「(し、しまった無心になりすぎた!)……なに、山口くん」
「うん、あのさ」


見上げた顔の先の彼は、イスにもたれかかったまま、ぴくりとも動かない表情で、彼は私を見つめていた。ぱちり、と繰り返された瞬きに、私もパチパチと瞼を動かし、あれ、なんだか妙な空気だぞ、となんとなく肌で感じる。

ずるずるずる、となんとなく山口くんから離れるように、円を回りつつ体を動かして、「なに、山口くん」とゆっくりと言葉を選ぶように口を開く。
山口くんは静かに私を見つめたまま、「うん、ちゃんあのさ、」


キャーーーーー!!!!


あんまりにもタイミングよく、女の子の悲鳴が聞こえた。

ぱっくりと口を開けたまま、山口くんは表情をとめ、思わずお互い声の主の元へと顔を向け、また瞳をかち合わせた。何故だかぷっと笑ってしまい、ひーひーと笑う肩が揺れ、ひざの間へと突っ込んだ、顔の耳が熱い。ぱんぱんぱん、と山口くんが自分の膝を叩くように片手で顔を押さえ、ぐぐっと声をひそめ笑う声が聞こえる。

「なに、山口くん」と呟いた三回目のセリフに、彼は朗らかな顔のまま、「うん、まぁなんていうか」 とポリポリと頭をひっかく。彼は誤魔化すように表情を緩ませ、腰を上げた。

「そろそろ俺の出番だし、こんにゃくの準備しとく」
「こんにゃく……」

じゃあね、と私の隣を通って、カーテンを広げようとした瞬間、「ちゃん、明日一緒に回ろうよ」
彼が呟いた言葉と一緒に、ぽん、とほんの一瞬、短く頭へと手を置かれた。やんわりとした勢いで、彼はそのままするりと通り抜け、私は茫然とした後に、山口くんのセリフが、頭の中でリフレインした。



「うあー!!!」
うるさい」

家の台所で思いっきり頭を打ちつけながら、今夜は眠れないに違いない……! もう幸せすぎてですけどね! とぶんぶんと頭を振りつつ、柔らかい言葉が、耳の奥で響いた。「ちゃん、明日」「うああああー!!!」




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2009/02/24
1000のお題【308 腰砕け】