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山口くんと一緒に、ぶ、文化祭を回るのだ! 第9話 文化祭 本番 「………列に並んでくださーい、二列でおねがいしまーす」 と、思ったのだけれど。 私はやる気のない声のまま、教室前でぱたぱたと両手を動かしながら、列を整理していた。楽しそうな女の子たちの声が、少々恨めしい。テンションが上がりすぎて、眠れなかった瞳を誤魔化すようにごしごしと手の甲でさすり、同じセリフを繰り返す。「並んでくださーい」 このう。こんちくしょう。 クラスにて、欠員が出てしまった。その穴を埋めるために、自由時間を削っているのだけれど、休んだ子を恨んだって仕方がない。本人だって好きで休んだ訳じゃないだろう。(………でも、) 残念だなぁ、と思うのだって、きっと仕方ない。 朝、山口くんと顔を合わせたときに、「ごめんなさい、時間がなくなったので、文化祭回れません」と私は端的に説明しながら、ぺこりと頭を下げた。彼がどんな顔をしていたのかはわからないけれども、「そっか、じゃあしょうがないね」と簡単に、彼はそういった。 (…………なんか) むずむずする。 納得がいかない、と自分自身、考えているのかもしれない。本当は、山口くんに、ちょっとだけ、「えー、なんだそれ」くらい、言って欲しかったのかもしれない。そんなことを言われたら、返答に困ることぐらい分かっていたのだけれども、私の気持ちは、簡単に満足しただろう。最悪だ。 どうせ、山口くんと、二人にでもなったら、また変なことばっかりと言い出すに決まっているのだ。妙なボロを出すよりも、こっちの方がずっといい。きっと、ずっといい。むずむずするけれども。 「部屋の中が暗いので、足元に気をつけてくださいね」 二人一緒にお化け屋敷の中へと入っていく、わくわくしてたまらない、というような顔の、男の子と女の子が、やっぱりちょっと羨ましかった。(………ちょっとぐらい、ごねてくれたって) 気分が重い。 お昼時になるにつれて、少なくなる人に、溜息をついて、私は廊下の壁へともたれた。じっと教室の入口を見つめ、そのまま小さく体育座をする。「あれっ、横山のいもーとちゃん」 ふいに聞こえた声に顔を上げると、山口くんと、平馬のクラスで何度か見かけた男の子だった。オツカレサマ、と人の好い笑みで私へと視線を合わせ、私もあわてて「お、お疲れさまです!」「うん」 「入ってみたら?」 にかっと笑ったまま、彼は親指を、きゅいっと入口に向けた。「え」 言われた意味を考えた後に、いやいやいや、と思いっきり首を振る。「な、なんでですか」 そもそも、私はお化け屋敷自体があまり好きではないのだ。丁重にご遠慮願いたい! と心の中で叫んでいると、にやにやと笑った男の子は、「せっかくなんだしさぁ、入っちゃいなよ」と私の背中をぐいぐいと押した。 気づけば、列に並んでいた最後の女の子が、教室の中へと入っている。 「い、いや、ちょっと!」 「午前の部は、妹ちゃんで終了ってことで!」 どすり。 思いっきり押された背中がとっても痛い。無理やり入れられた後に、ガラリと勢いよくドアを絞められてしまい、私は慌てて振り返り、扉を開けようとしても、向こうで押さえているのか、ぴくりともしない。なんてこった。簡便してくれ、最悪だ。 暗い教室には、一足先に、ぼんやりと光る懐中電灯しか見えないし、どろどろと流れる効果音が、思いっきり耳をふさいでしまいたいぐらい、背筋がぶるりとしてしまう。 こうなったら、進むしかない。すみません、とお化け役の人にでも声をかけて、一緒に回ってもらったらいいのだ。 「すみません、誰か、」 掛けようとした声は、そこでぷっつりと途絶えてしまった。 べろり。 何かに舐められたような感覚が首筋にあたり、嫌な汗が全身に流れ、「ひぎい!」と妙な悲鳴が口から溢れる。 誰かに、舐められた、舐められた! 半泣きな顔で、右手で首元を押さえながら、左手をばたばたと暴れさせると、「うわ!」 誰かに、ばちりと手のひらが当たる。「ちょ、ちゃん、こんにゃく、こんにゃく!」 聞き覚えのある声は、「いたいいたいいたい」と私がひっぱった髪の毛を僅かに頭をかがませながら放させようと必死に動き、私も思いっきり混乱していたものだから、無言のままに、正確にいえば、声を出すことも出来ないまでにひっぱる。ひっぱる。思いっきり。 無言の攻防戦に、「こらあ!」と叫ばれた台詞に、私はうわっと床へと、腰をへたりつかせた。 半泣きのように、彼は自分の頭を撫で、「なんでちゃんがいるんだよ」と右手のこんにゃくをぶらぶらとさせる。 「や、やまぐちく」 「はいなんですかー」 超痛い、俺。と吐き出された声に、何がどうなったんだ、とぐるぐるとしてしまい、それでも残った理性でごめんなさい、と頭を下げると彼は呆れたように溜息をつき、視線をぶらぶらさせた かと思うと、しょうがないなぁ、と私の前へと、ゆっくりと手を差し出した。 なんだこれは、とパチパチ瞬きをしていれば、手のひらを上下に動かし、「ほら」 のばされた手のひらを、ぎゅっと握りしめ、腰を起こすと、「しょうがないなぁ」と彼はまた繰り返す。 「行くよ」 ぽつりと台詞を呟いて、彼は前を歩いた。「しょうがないなぁ、もう」 そんな彼の三回目のセリフに、少し前のもやもやは吹き飛んで、ぎゅっと強く手のひらを握った。山口くんも、気のせいかさっきよりも、僅かに強く、手のひらを握った。 文化祭は、あっけなく終了してしまった。 BACK TOP NEXT 2009/03/08 1000のお題【841 案内人】 |