「おめでとう」
「はいおめでとう」


第12話  クリスマス







玄関にて、にかっと笑う山口くんが、みかんの袋片手に、ひょいっと持ち上げた。ころころと袋の中で転がるみかんを見て、「うちのみかん、おいしいよ」と彼は言った。誕生日おめでとう、という言葉に、平馬は面倒くさそうに瞳を細めて、「小学生じゃないんだから」と呟いた声は照れ隠しなのかもしれない。

練習は午後からになるらしい。
クリスマスまで大変だなぁ、と思いつつ、ケーキ屋さんへと自転車を飛ばしたケーキを箱から取り出して、テーブルの上にぽこんとおく。


『平馬のお誕生日祝う』『じゃあ俺も交じっていい?』
間髪入れずにはじき出された言葉に思わずびっくりして、パチパチ瞬きと一緒に、うんと頷いたわけなのだけれど、まさか本当に来るとは思わなかった。

山口くんが、家に上がるのは、随分久しぶりになるんだろうけれど、なんだか昨日のことのように思い出せる。そうだ、確かその日私は、山口くんのお尻を触ってしまって、鼻水をたらしながらやっちまった! とマジ泣きしたのだ。消え去ってほしい過去だ。消しゴムがほしい。


丸いテーブルを囲むようにちょこんと三人座り、じっと茶色いチョコケーキを見つめる。ショートケーキよりもこっちの方がいいという平馬の主張に乗っ取ってみたのだけれど、やっぱりここは王道にすべきだったかな、とどうでもいいことを考えた。

お父さんとお母さんは学生の私たちと違い、残念ながらお仕事だ。山口くんからもらったみかんが、ころりとテーブルの上をころがっていく。「お」 ぱしり、と猫の手のように平馬はそれを受け止めて、「お、お」 なんだか楽しそうだ。



用意されたオレンジジュースのペットボトルを指差しながら山口くんがいい? と訊いたので頷くと、ぶち、と蓋がすりきれる音がして、ガラスのコップに三つ分、とぷとぷとジュースを注ぐ。何かがたりない。「おお」 手のひらぽこんっ。

ろうそくだ。
十四本、と腰を上げたとき、山口くんが、ん? と首を傾げながら手伝おうか、と同じく腰をふいっと浮かした。

「え、いや、いい」
「あ、うんそっか」

なんだか言葉を出しづらい。
(おかしいなぁ)
どこか、空気が重いような気がする。


こんなんだったかな、と首を傾げた。
もっと楽しみだったんじゃなかったかな、確か。平馬、山口くんいつくるの、ともっと周囲がきらきらしてたような気がする。
そのときと同じはずなのに、なんだか重い。


(冷めた) 違う。
(現実を知った) またまた違う。

一番最初、山口くんを見たとき、かっこいいなぁ、と思ったのだ。気になるなぁ、話してみたいかも、木端微塵になって、あ、恋だったかも、なんて思って、初めて話した。やっぱりカッコいい男の子だった。けれど、
(………なんか、違う)
最初山口くんと話したときと、何かが違う。私が違うんじゃない。


山口くんが、違うのだ。


ちゃん」

気付くと、大きな影が私の上からぬっとはえていて、台所の引き出しを開けたままぽかんとしていた私を不思議そうに見下ろしていた。
慌ててなんでもない、と首をぶんぶんと振った後、そっか、とはにかんだ表情を見て、ふわふわと舞う空気が、やっぱり違うなぁ、と思う。重い。少し言葉が違う気がする。でも、重い。嫌な重さじゃない。ぐっと大地を踏しめたような重さだ。


ちゃんの誕生日さ、なんかやるよ、何がいい」
「い、いらない」
「いやそう言わずに」

ぼんやりとした空気が頬をかすめる。



何が違うんだろうか。
(わかりそうな、わからなさそうな)





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1000のお題 【509 メビウスの輪】
2009/03/26