「うーん、忍者かー」


忍者と体育




久しぶりにお母さんに絵本を読んで貰った時の事を思い出した。今じゃ聞く事も出来なくなった忍者の真実に、ううん、と私は頭を傾げてしまう。………勘違いしないで欲しいのは、私のお母さんはしっかりと健在だ。病気その他なんのその。ただ単に、「ねぇお母さん、忍者が守ってくれてるって、昔いってたよね」と、ちょいちょいと彼女のエプロンのさきっちょを引っ張って確認してみても、「あらあらったら何のこと?」と妙に演劇がかった台詞でひょいとかわされてしまうのだ。

「ううん、忍者、かぁ」

こっそり、こっそりと私に隠れて守ってくれる忍者さん。影の中に、ひょいと潜んですいすいと身軽に動き回る、忍者さん(例えばそれは、今もだったりして)そんな事を考えていると、まるで自分がおとぎ話の主人公のような、なんだかくすぐったい気分になる。(忍者さん、聞こえてますかー)
くすくすくす、なんちゃって。

ひゅんっと目の前に風が通り過ぎた。







(………勘弁してくれ)
正直俺は頭が痛くなった。俺は忍者だ、を、いいや家を、先祖代々護り続けている忍者だ。あまりにも危険に遭遇する可能性の高い彼らを、こっそりとばれないように、影から護り続ける、それが任務なのだけれど、今の状況には流石に頭が痛くなった。


照りつける太陽のグラウンドに、真っ白い砂の煙がもくもくと立ちこめる。じりじりと肌を焼き付ける太陽光線は、健康のためと運動場でのドッジボールなんてなんのその、不健康になるために俺たちはこんな事をしているのかと疑いたくもなる。
じりじり、じりじり、じりじりじり。

半袖半パンで、真っ白な流石の体操服にもこんな光を跳ね返す作用は薄れてしまうらしい。

ひゅんっとボールが目の前を通った。オレンジ色の、バスケットボールにも見てとれるソレは、正直俺には止まって見える程度のスピードだ。眠すぎて蠅がとまれるぜ、ってのはこのことなんじゃないだろうか、とふと思う。
けれどもそんな状況は俺一人な訳で、クラス全員誰を当てるか誰からさけるかの駆け引きバトルの火花が散ってる。あいつをのぞいて。

同じコートだったらよかったものの、反対側のコートでぼけーっと空を見詰めたままのを見て、俺は本気で頭が痛くなった。
なんでアイツはこんなに注意力散漫なんだ。家が危機的状況に陥りやすいなんてのは真っ赤な嘘で、唯あの家系が、ぼけーっとしやすい性格な一家なんじゃないかと疑ってしまう。いや寧ろコレが本質なのかもしれない。

けれどもそんな事をいっている場合ではないわけで、ぼけっとしているアイツめがけて、そらみたことか! といいたくなるぐらい、真っ直ぐ、へと向かうボールを見た。
俺はちっ、と小さな舌打ちに、コートの足下へとぽとりと落ちている小石を二、三個さっと拾って、クラスメートが誰も見ていない事を確認しながら、ぶんっ、と石をボールへと投げつけた。

そのほんの小さな固まりは、コンコンコン、とボールに当たって、のぼけっとしていた顔面一歩手前すれすれに軌道修正される。ひゅっ 顔の隣へと通ったボールを、「おお」と小さな声でが感動したのか何なのか、呟いている声が聞こえた。おおって何だ、おおって。

ちょっと男子顔狙わないでよね! と聞こえる女子のリーダーらしき声が聞こえる。本当に、寧ろを狙わないでほしい。アイツの場合、打ち所が悪くてピーポーピーポーと赤ライトという可能性だってあるのだから。

(なんでアイツはもっとしっかりしてくれないんだ)

そしたら絶対、俺の苦労だって減る気がするのに。
聞こえたため息が、妙に遠くへ響いた。



1000のお題 【788 しのぎを削る】




  


2008.04.28