守衛室でゼブロさんとずるずる茶をすすっていると、 「あんたも昔は血の気が多かったねぇ」と微笑まれた。 そうッスかねぇ。 >>俺の可愛いクソガキさま 人間全部くさってやがると考えてた。 昔から力だけはバカ強くて、刃向かうヤツは片っ端からぶんなぐっていけばなんとかなると考えていたけれども、ある日ケンカを売っちまったのがこれまたハンターなんてアコギな商売をしている軍団だったらしく、簡単にぶっとんだ俺の奥歯二本はその場所からだらだらと血が流れて、「伊達男にしてやるよ」とニヤニヤと呟かれながらぶん殴られた鼻骨からは鼻血が止まらない。 「おいおいちんぴら苛めて楽しいかよ」と仲間内で笑い合う声に無性に腹が立ち、「今から俺たちゾルディック家の奴らをぶっ殺しに行くんだ。後で自慢できるぜサインやろうか」いらねぇよクソハンターどもがと呟かれた声も自分で何をいってるかわかんねぇ。 ぽいと投げ捨てられた道ばたに、ちらちら見られる視線が鬱陶しくて、「見てんじゃねぇよ!」と叫ぶ俺の声は、また視線を集めた。 ちくしょうちくしょうと何の恨み言か呟きながら、足を引きずり、着いた先のククルーマウンテンでは、大勢の男達がでっかい壁に向かって力一杯押していた。何やってんだアイツらバカじゃねぇの。吐いたため息は嘲笑と共に、折れた鼻も気にならない。くっくと笑うたびにボトボトと地面に血が染みこんで俺の姿を主張するのも気にならない。 いつまでクックと笑っていただろうか。そのデカイ壁が、ぴくりと動いた。ガラガラと動いた。 壁じゃねぇのかよ、と思ったとき、「急げ!」という声と共に、大勢の男達がその中へと入っていく。一気に皆が手を放した瞬間、バタンとでかすぎる音と振動を立てて、その門はしまった。 「なんだありゃ」 やっぱ駄目だ。このゾルディックってやつらも人間バカにしてやがる。正気の沙汰じゃねぇ。何考えてんだハンターども。たった数人やそこらの人間に、あんだけ大勢集めて恥ずかしくねぇのか。恥ずかしくねぇのかよ。 イライラとした気持ちのまま、いつの間にか俺は門へと手を添えていた。先ほど彼らにぼこられてヒビでも入ってんのかパキパキイヤな音がしたが、それでも俺は右手と左手をそえて、門を押した。それでも駄目なら体の向きを無理矢理に変えて、体全体で押した。 「ちょっとアンタ、何やってんの大丈夫かい」 鼻下にちょこんとでっかい黒子を付けた禿げたオッサンが、俺の肩へと手をおいた。「うっせぇジジイ触んじゃねぇよ!」叫んだ俺は踏んじばっていた右足をオッサンへと向けて、思いっきり蹴ってやろうかと思ったが、瞬間にバランスが崩れてずるずると地面に滑り込んだ。 「やめなよアンタ、ほら血が出てんじゃないか。絆創膏くらい分けてやるさ」 そのオッサンの妙な気遣いにまた腹が立って、俺はまた立ち上がった。体重を掛ける。ずるり、と地面に俺の足跡がついて、土が盛り上がる。それと同時にほんの少しずつ扉が開く。ガリガリガリ。一体何で出来てんだこの扉。おめぇよ、すっげぇおめぇよ。 それでもほんの少しずつ扉は開いた。ザマァミロハンターども。お前らが束で集まったもんが、俺は一人で開けられる。お前らは俺より格下で、足下にもおよばねぇ。 ずるずる、ずるずる、ずるずる。体重を掛けるたびに体が沈むけれど、そのたびにオッサンが口うるさく何かをいうけれども、とうとう全て開いた扉に、俺は体を投げ込んだ。 バシン、としたたかに体を地面にぶちつけて、いつの間にか鼻血が止まっている事に気づいたけれど、その代わりに体重を掛けていた部分が死ぬほど痛い。いてぇよ。俺いてぇの嫌いなんだよ。 響いた地響きのような足音に顔を見上げると、でっかい犬がいた。狐ともいえるかもしれないが、犬がいた。なんだお前、俺を食う気かと微かに動く口で問いかけても、静かにその犬はふせのポーズだ。なめてんのか。 微かに匂う血のにおいに、ゾルディックの人間が殺されたか、それとも使用人か何かか、もしかしたらハンターどもがやられちまったのかもしれねぇなとクックと笑った。ザマァミロ。俺は何故だかその光景を見に行こうと、あいつらがピンピンしてんなら、代わりに俺がゾルディックを殺してやると体を動かした。 鼻はいい方だ。くんくんひくひくと動かすと、ねっとりした血のにおいがこびりつくくらいにはっきりと分かる。 足を動かしていると、飛び散った肉片が所々に現れた。その肉片に手をつっこんで、ぐちゃぐちゃと動かしてみると、ピンク色の表面と柔らかさに、つい先ほど飛び散ったばかりだという事が分かる。そいつをぽいと森の中に投げ捨てて、半分獣道となっている場所を進んだ。肉片の数が増えた。 むせ返る様な匂いの中に、ぽつんと一人のガキが突っ立ってた。真っ赤な髪の毛なのかと思いきや、犬のように首を振ると、真っ赤な血が辺りに飛び散り、元の銀の髪が、ほんの少し見えた。今は色あせてしまっているが、きちんとシャワーにでも浴びれば、また美しく光るんじゃないだろうか。 そのガキは本当にガキで、ついこの間歩き始めたばかりですといいたげなサイズのくせに俺の鼻を折りやがった男の首をずるりと掴んで、ポキン、と軽い音と立てた。地面にはいつくばるようなポーズをしていた男は軽く手のひらを振動させ、またぱったりと土に埋まる。ポキポキ、ぐちゃり。 結構簡単に人間の首って切断できるもんなんだなと俺は感心してしまった。 (そうかアイツがゾルディック) 積み上がった死体の真ん中にぽつんといるガキ。動くものは何もない。 「殺してやるよゾルディック!」 半分つぶれたような、まるでしわくちゃババアの声だったが、ガキはぴくりと耳を振動させ、ゆっくりと俺へと向き返った。そのままトンッと足を動かし、一瞬の跳躍ののちの俺の顔の真ん前へと、その顔を見せる。 ああ、やっぱコイツ、ガキじゃねぇか。 その瞬間だった。そのガキの、あり得ない長さの爪とピクピクと波打った血管の手のひらが、俺の目ん玉めがけて飛んでくる。ああコレはやべぇ、と右へと無理矢理顔の位置を変えると、かすったのか、俺の耳の半分がぶっとんだ。 案外白い色合いのソレが、ぽんっ、と空中に投げ出されているのに思わず手を伸ばそうとしてしまったが、あいにく上手く動かない。ガキがその小さな物体へと手を伸ばし、クニクニといじった後、口の中へと放り込んだ。 「………まずい」 このクソガキ! おい俺の耳返しやがれ! 思わず動く片腕をガキへと振りかざすと、ガキは俺の腕の脇をくるりと、まるでステップでも踏んでいるかのように鮮やかに避けて、そのまま俺の後ろ脇腹へとぐちゃぐちゃ腕を通した。「ぐぁっ」 俺は痛いのは苦手なんだ。俺は地面へと倒れ込んで、人間の間を貫通するのは苦手なのか、ガキは俺背中に馬乗りになるポーズで、ゆっくりゆっくり穴を作る。ぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ。耳の中と体の中に響く音が随分気持ち悪い「ヤメロこのクソガキが……っ」ぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ。 ころりとガキは俺の体をひっくり返して、今度は腹へと、同じようにぐちゃぐちゃと腕を通すように解体し始めた。見えたピンクの大腸を嬉しそうに引きずりだして、俺の体の中身がほんの少しずつ少なくなる。外から引っ張られてるのか中からひっぱられているのか、正直よく分からないような状況に、俺はヤバイ、死ぬ、と考えるのではなく、長く長く俺の腸を引きずり出そうとするガキに「切れたらどうするんだ!」と妙な方向の心配をしていた。 「あらあらキルったら、まだ時間を掛けているのかしら」 ふいに聞こえた声は女のものだった。俺へとかかった真っ黒い影が随分デカイことから、まさか日傘でもしてんのかと考えたけれど、まさかそんな。そうかこのガキ、キルっていうのか。このクソガキ。 目の前の視界はうっすらとしていて、もう半分何も見えない。 「だって、たのしー」 楽しいじゃねぇよ、俺様の体だよ解体すんのがいいんなら、自分のもんでもぐちゃぐちゃやっとけバカじゃねぇのなにかんがえてんの「こんなに面倒くさいなら、門番か何か雇った方がいいかしらね」「べつにいい、たのしー」 腐った親子(なのか?)の会話に、俺は半分嫌気がさして、千切るならちぎっちまえ、と腹の腸を差し出すことにした。和やかなコイツらの会話を聞く事もめんどくさかったが、ふと耳に入った単語に、ぴくりと体が反応する。 「そんなに楽しいんなら、キル、そいつは残しておきましょうか」 「うん、ほしー」 舐めてんのかこのクソ親子! くそガキ殺してやるよ今すぐ殺してやるよ! 今までの俺ならそう考えるはずだった。けれどもあんまりにも腐った会話に体の奥からふつふつと怒りと笑いがこみ上げて、人間は腐ってるって思ってたけれど、さらにその上を行くやつらが存在しやがった! とゲラゲラ笑いが堪えきれない。 こいつら人間じゃないよ、他の何かだよ、生きてないよ、死んでないよ、すっげぇ最高! しきりにガキは俺の頬を叩いて、あそぼうね、と回らない舌で俺へと言葉をかけた。遊んであげるよ、キル様、くさってるキル様、くさってるゾルディック家。大好きだよお前ら。一生愛してやるよ、ああ俺の可愛い可愛いクソガキさま! そのままぽっくりと意識を手放して、その先には体中に包帯を巻き付けた俺とご対面となり、ゴトーさんに執事とは何かと延々としごかれたのを覚えている。 「………ヤァー、あの頃は俺も熱血でしたねぇ」 「熱血ですましていいもんかねぇ」 「若かったんス」 「今も十分若いけどね」 「いちいち話の腰を折らんでくださいゼブロさん」 今でも半分ない左の耳をこりこりとひっかいて、そのまま右手で茶をずるずると啜った。ゼブロさんは俺の顔をじっくり見た後に、うんうんと一人で頷く。「なんスか?」 「やぁ、鼻の骨、ちゃんとくっついてよかったねぇ。あれじゃ見る影もなかったからね」 「うあっは、見せる相手もいねッスよ」 「相変わらず、色気のない兄ちゃんだ」 「やだなぁゼブロさん、俺ったら、」 キル様に愛を注いでおりますから! 1000のお題 【865 表裏一体】 BACK TOP NEXT カナリアちゃんはまだいない時代。 2008.08.11 |