その人は、闇夜に光るナイフをギラリとかざした。 >>彼の定義 「やぁ・。殺してあげよう」 そんな事をいわれながらナイフを振り下ろされたものだから、俺は驚きのあまり、ベッドから転がり落ちた。そして電気スタンドの下にちょこんと置かれた万年筆を手のひらで砕き、夜色の長い髪をばさりと伸ばしながら、まるで死んだ魚のようだと思える目に向かって、思いっきりインクを投げ飛ばす。 軽い音と共に、彼が一瞬の目を閉じた隙に、扉の向こうへと逃げ、背中から押し込むようにドアに向かい、手の後ろでドアノブを回す。回そうとした。 注ぎ込んだインクは、おそらく俺ならば痛さで悶え苦しむ程だと思えるのに、彼は平然と瞳を瞑り、見えていないはずの瞳で、俺の頭の真上へと、軽くナイフを投げる。 ぶつかったナイフの振動でその事に気づいた俺は、思いっきり食い込んだナイフを力一杯抜き、彼へと構える。 「………何考えてんですか、イルミ様」 「うん、なんとなく」 「なんとなくで殺されるだなんて、俺本気でシャレになんないんですけど」 ううん、とまるで起き抜けの子どものような声を彼は出し、左手の甲で軽く瞳をこすった。白い肌に、黒いインクの跡が映る。 助けてゴトーさん、この人超恐い。 「深夜の訪問は、もうちょっとお静かに願えますか」 「そうだね、今度はもうちょっと気をつけて殺してあげる」 「や、それホント勘弁なんで」 にこりともせずに呟かれた言葉に、思いっきり首を振ると、彼は(あんまり変わらない表情だけど)不思議そうな顔をした。まるで、ええ、なんで? とでも言い出しそうで、構えたナイフの先が微かに揺れる。 「ええ、なんで?」 やっぱりいった。 「なんでって、俺死にたくないですし」 「だって君って、痛いのスキなヒトでしょ。問題ないじゃん」 「え、ちょっと違いますって!」 「だってキルにいっつも」 殺してくれっていってるじゃん。と淀みなく繋げられた言葉に、そんな事いってないいってない、と今度こそ思いっきり首を振る。 「あのですね、俺はキル様ならなにされちゃってもいいワケですけどね? そりゃあキル様前提でしてイルミ様とはまた違うっつーか」 「もうめんどくさいから殺すね?」 「人の話を聞いてお願い!」 おねがいー! おねがいー! おねがいー! と俺の声がこだまのように響いた。ハーン? 意味わかんなーい! と言いたげなイルミ様に、「わかりました!? ねえわかりましたー?」と確認してみた。「微妙に」「そりゃよかった」はいどうぞ、と彼にナイフを投げると、「あー」と軽く息を吐き出して、人差し指と中指で、チャッチする。「オッケー」 よっしゃ。意思疎通は完了した! 「じゃあ今度は、もうちょっと上手くやってみるね」 それだけいいながら、彼は入ってきたときと同じように、大きく開けられた窓へと体を乗り出し、木々を伝わるように、とんとんと軽やかに去っていく。 全然分かってないじゃん。とどっぷりと疲れた感覚と、あー、この万年筆、気に入ってたのになぁ、と砕けた欠片を拾い上げた。 1000のお題 【80 危険を察知】 BACK TOP NEXT 2008.09.09 |