「キルア様が逃亡した!」
ええいなんだって!?



>>キルア様ご乱心



あまりにも剣呑な空気を漂わせながら本邸から執事室へとかけられた、一本の電話。「誰かキルを止めてぇえ!」 まるで喉からこぽこぽ血が出るかのような叫び声は、電話回線を通してなお、しっかりと奥様だという事が理解できた。

「あークッソ、キル様ったらやんちゃさんなんだからぁ」

試しの門への配置はゴトーさんを中心に、俺たち下っ端は、ぽろぽろと周りの外壁を守るように立たされていた。なんでも聞くところによると、暗殺者なんてやってらんねー! とキル様ぶちぎれちゃって、ミルキ様のぶよぶよしたお腹と、奥様の綺麗なお顔をぶっさしてしまったらしい。丁度イルミ様シルバ様がお出かけ中に、なんて事だ。ちなみにゼノ様はお昼寝中だ。起こすな危険、殺される。


「………俺的にはキル様が、どっか行っちゃうのは寂しいけど、」
しょーがないかも?


「じゃ、ちょっと通してくんない?」

呟いた台詞に、まさかまさか返事が返ってくるとは思わなかった。はっとして、一歩下がると、背後に佇む銀の髪の少年に、ハハハ、と口元を嫌な感じに上げてしまう。「アッハ、そういう訳にゃあいかないんですよね」

ぐっ、と右の拳を、前へと突き出して、体半身を前へと出す。思わず随分昔、キルア様にめたくそにやられてしまった記憶がよみがえって、ぶるりと体が震えたが、いやいやそれって本望じゃん! と唇を噛みしめた。

「なんだよー、は俺の味方だって思ったのに」
「味方ですよう。でも奥様から、キル様逃がすなっていわれてんです分かってくださーい」
「あーあ、最後の挨拶してやろうと思ったのにさ」

マジで。超感激です! といおうとした言葉を、ごくりと飲み込む。その代わり、もう一回にかりと笑って、彼へと言葉を投げた。


「ここ通るんなら、俺の屍こえてってくださいな」


彼の首根っこを押さえるように、空気の膜をぶちこむように、伸ばした左手の付け根を、彼は痛いくらいに握りしめて、「うん、じゃ、そーする」

ふっとびました。




「あー………ゴトーさんここどこー」
「執事室だ」
「キルさまはー」
「外出なさった」

顎の骨が、妙な感覚がする。口を動かす事が少々困難で、おそらく俺が考えているであろう台詞と、実際に聞こえる言葉は全然違うだろうけれど、ゴトーさんは表情を変えずに、メガネをきゅっ、と人差し指で押し上げる。

寝っ転がっている所為で天井とゴトーさんの顔しか見えない。
ああ、キル様いなくなっちゃった、と寂しすぎて俺泣きそうだよ、と考えながら、痛いという感覚を飛び越えて、周りの肉をぎゅっ、と引き寄せたような感じに不思議に思い、指を伸ばした。

ざらざらとした包帯を、ちょこんと押すと、何か固いものが指先に当たった。いつもなら、軽い弾力があるはずが、どこにもない。「肉がそげ落ちている」と呟いたゴトーさんの声に、なるほどー、一層伊達男になっちゃいましたー、と軽口を叩いた。
思わずぽろりと溢れた涙を、ぎょっとしたようにゴトーさんは目を見開いた。

「ど、どうした、流石のお前でも、顔は駄目だったか」
「………ゴトーさぁん」
「なんだ」
「キル様ったら、独り立ちなんて立派になっちゃってぇ」

流石俺のキル様すげぇ、と呟くと、すっとゴトーさんは立ち上がり、大きく足を振り上げる。「すまん、足が滑った」 ぎゃあ!


1000のお題 【27 びびでばびでぶー】


BACK TOP NEXT

2008.09.09