「キルア様が、帰って来られた」 >>お帰りなさいませ ゴトーさんのその知らせを聞いて、即座に反応しかけた俺は、ぐっと我慢した。暇そうに見えたって俺にはお仕事があるし、キルア様一人に仕えている訳ではない。いつも通りな行動を繰り返し、じっと待った。 そんなとき、ゴトーさんがお屋敷からの電話を一本受け取ったのだ。 電話口から微かにくぐもる、高いトーンの声が聞こえる。 「キルの世話をする者を一人頂戴」 手元に持ったトレーの中身は、拷問食にしては中々に豪華だと思った。暖かいパンにスープに、小さなサラダ。緑の上に、ちょこんと乗った赤いミニトマトが綺麗だ。カトン、カトン。革靴から響く金属的な足音に耳を傾け、トレーを片手で支えながら、扉を開き、左の足で静かに押した。 ギギギ。掠れた音をする木の扉を開けてで最初に目が合ったのは、ミルキ様だ。俺が何人かすっぽり入ってしまいそうな大きな巨体をゆらし、細目の目をまた細めながら、「チ」と軽く舌打ちをする。とのとき、彼の右手にもたれた鞭がしなり、俺の顔の、丁度となりを弾いた。「あークッソ、外れた」 外れたらしい。 「なんだよお前」 「奥様から、キルア様にお昼ご飯を、との事で」 「チッ」 また舌打ちされた。 どうしたもんだろうか、と口をつぐんでいると、めんどくさそうに、のすのすと足音を響かせて、彼は部屋の外へと移動する。バタン、と聞こえた音に俺は振り返る事もなく、お久しぶりとなったキルア様をじっと見詰めた。 両の手を天井へとつるされ、その先にはゴテゴテしい機械がある。レバー一つで少しずつ身体を引っ張るであろうそれと、足首をしっかりと固定されている重い金属の光が、暗い室内に反射した。 何の意味があるかも分からない、天井から何本も垂れ下がったフック。その先には乾いた赤く薄い玉のようなものがひっついており、「あーあ」とため息をつきそうになる。 薄くコメカミから血を流し、すっぱりと脱がされた上半身には、青黒い鞭のあと。すり切れた火傷のあとも、所かしこ。元々色素の薄い、彼の白い肌を探す方が困難なような気もした。 「あーららぁ、キル様いいご趣味で」 「お前さーいきなりなにそれさいあくー」 吐いたため息と同タイミングに、彼のお腹から、ぐるぐるぐる、と可愛らしい声が聞こえた。また俺が「あっはぁ」と笑うと、うっせぇなぁ、とめんどくさそうな声がする。 微かに身じろぎをしたのか、カチャリと鎖のこすれる音がする。 「さー、キル様ごはんごはん」 「いらねぇよ」 「えー、でも俺奥様にこれ頼まれてんですもん」 「あーもー」 めんどくさそうに、キルア様はパカリとお口を開いた。俺は「ああ」と軽く頷くと、パンをちぎって、彼の口の中へと放り込んだ。しっかりと固定された状態じゃあ、スプーンも使えない。 ゆっくりと咀嚼する音が聞こえ、また俺はパンを千切る。「おいしーですかー」と聞けば、じろりと睨まれた。 「あ、すんませんキル様、これいわなきゃ駄目だった俺」 「ンだよ」 「おかえりなさいませー」 「バーカ」 1000のお題 【最後の晩餐】 BACK TOP NEXT 2008.10.04 |