案外いいひとだったらしい、海堂兄さん。
ごめんなさいと、よろしくおねがいしますと、言葉をかけて


第21話  ゆーしに、ついて




「それで、なんでがいる訳」

ぐいっと帽子のつばを、頭に押しつけて、片目がちらり。ぱっかーん! と黄色いボールが混じり合う音と、じゃりじゃりがりがりな地面に、足をつけて、「リョーマに用があるんじゃないもん。かおるちゃんとあそぼーと思ったんだもん」 おいしょっとハイジャンプ!「ぐえっ」

見事にぶらりんとひっさがる体勢になりながら、リョーマにあっかんべー。「か、かおるちゃんって」気のせいか、何かいいたげに目線をそらしたガキンチョに、「そんなことも分からんのかばーか」

「……、離れろ」
「ええー、かおるちゃんなら、これぐらい軽いでしょー」

そういう問題じゃねぇよ、と声が聞こえた気がしたけど、そのまま首もとをひっつかんだまま、ぎゅ、と握りしめたら、また「ぐえっ」という声が聞こえた。うわこれちょっと面白い「ぐえっ」もう一回「ぐえっ」あらよっと「ちょ、やめぐえっ!」


ちゃんちゃん、俺の方においでよー」
「やです」
「えええぇー! 海堂だけずるいー!」
「……(そんな事いわれても)」


さっさとれんしゅうに、戻ってくださいよにゃんこ先輩。と、じろっと睨んでみると、「休憩中だよん」と先輩はにやっとして、手に持ったラケットを、ぶうん! と振った。「じゃあさっさと、どっかできゅうけい、しといてください」 私はかおるちゃんと、遊ぶんですから!

ふー、と軽く聞こえたかおるちゃんのため息に、取りあえず私も「ふー」 おらよ、といいながら、おんぶの形で、ぐいっと持ち上げられて、「かおるちゃんやさしー」「うるせぇ」

「………随分、仲がいいみたいッスね」
「あれ、おチビやきもち?」
「あ、先輩、足と手がすべりました」
「ちょ、いったー! なにすんのォ!」


てこてこてこ。かおるちゃんが歩くたびに、ほんの少し体が上下して、ちょっとした乗馬気分だ「ハイヨー! かおる号! ちょ、いや落とさないでェ!」 ちょっと焦った!
かおるちゃんは、器用に片手で私を支えたまま、もう片方で、ボトルをごくり、と「のませてあげよーか」「………遠慮しとく」



かおるちゃんの隣におろされたベンチに、ふっと、影がかかった。「楽しそうだね、ちゃん」 そいつは、何を考えてるか分からない糸目で、口元はにこやかなまま、私とかおるちゃんを見つめて、僕も仲間に入れて欲しいんだけど。とまたまた朗らかな口調に、ぺっ! と唾を吐きそうになった(でも我慢した!)(偉いぞう!)

「ざんねんですけど、いとめは、めんばーに入れないって決まりがあるんです」
「オイ」
「ふふ、それは残念だ」
「……オイ」


じゃあどうしたら仲間に入れてくれるのかな、と腰を曲げて、私の目線にしっかりと合わせた糸目は、「僕って案外情報通なんだよね」と呟いた。乾ほどじゃないけど、と聞こえた声に、思わず誰だよ、と呟いた疑問は、隣のかおるちゃんが「逆光メガネの人だ」とこっそり教えてくれた。なるほど逆光。

ねぇ知ってる、と聞こえた声。「君って跡部の」     あとべって、なんだ? 「だからね、ちょっと興味があるんだ」
ほんの少し、開いた糸目の先に、思わずごくりと唾を飲んで、「情報通ってのならおしえてください」
ぎゅ、と握りしめた手のひらは、真っ白に染まって、


「あなたと同じくらいの年で、関西弁のゆーし、ってしってますか」


はき出した言葉は、案外すっきりと耳に響いた。ほんの少し目を開いたままの先輩は、くいっと、どこかの悪役みたいに口元を上げる。「おーい不二ー、ちゃーん、かいどー!」 向こう側のコートで、大きく手を振る、にゃんこ先輩の声が聞こえた。「ああ、」 言葉を咀嚼するように、糸目は小さく呟いて、

「知ってるよ」


はっと、飲み込んだ息は、そのままごくん、と音を立てて、私の中へと入っていく。どこか嬉しそうな糸目、不二を見つめて、「知ってるよ。もちろん」 もう一度、ごくん、と飲み込んだ。
「いとめ、」「でも、僕が教えると思う?」

     やっぱり、こいつは好きになれない。





  


2008.02.08