「放課後、屋上に来い」


第24話  オリキャラ登場! その名も、




    随分、」

直線的になったね、とでもいいたげに、海堂くんは硬いイスに腰を掛けたまま、ちらりと私を見た。だよねぇ、と例によってな紙をピラピラと遊ばせると、海堂くんが、こくん、と首を傾げて、行くの? と一言。

「おうともよー! 売られたケンカは、かうもんねー!」

おいっしゃー! と腕を振り上げて、ぶいん、ぶいん! 海堂くんといったら、ふうう、と小さなため息をついた。なんかコレバカにされた気がするぞ! ぐぐっ、とそんなため息一つに負けるちゃんじゃない、ちゃんとした目的が、私にはあるのだ!

「私のことが気に入らんなら、気に入らんで、きっちりけっちゃく、つけてくる」

いい加減、ちょこっと飽きてきた。最初の方なんかは、下駄箱に手紙がポロリと入ってるもんだから、何だこれ何だこれみたいにドキドキワクワクしてたけれど、ぽーん! と一言人をバカにしたような台詞を書かれているなんて楽しくもクソもありません!(あ、ちょっとお下品かしらー!)

ふんっ、ふんっ、と鼻息が荒い私を、海堂くんは、じーっ、と見詰めながら、ぽつり。「行かない方がいいんじゃない」
机にほおづえをついたままの体勢で、ぐぐぐ、と体を低くさせる。「行くよう、なんでぇ」まったくこの人は、敵地へと去る友人に激励もないのかい、とかちょびっと思ったり。
機嫌が悪いのか、元々厳しい目つきを、もっと厳しくさせて、息を吐く。

「行かない方がいいよ、告白とかかもしれないし」

はき出すように呟いた言葉を聞いて、思わず「それはない!」 手を横に、パタパタパタ。
そのまま私もほおづえを着いて、イスに足をバタバタさせた。

「そんな訳で、おーえんしてね!」
「行かない方がいいってば」
こいつまだいうか!




そんな海堂くんの抵抗も空しく、私はきっかりチャイムが鳴って終わりの会も終了した後、だっだっだ! とランドセルを背中に駆けだした! 掛けた給食袋がカチャカチャ鳴って、中の教科書もガタガタいうけれども、人を待たせるのは、きっとよくない。
うん、たとえおーとりゆずたでも、駄目だ。敢えていうならばアイツよりも1秒でも、何秒でも早く屋上へとたどり着いて、「オーホッホッホ! 人を待たせといて何てゆうちょーな登場なんでしょー!」とか高笑いできるぐらいが理想だ。

そんな訳で、ガタガタガタ! と背中の音が酷くなったけれども、勢いよく階段を上った。一段とばし、二段とばしには、ちょっと足の長さが足りない模様。くっそういつかにょっきり長くなってやるもんね!

目の前の、硬い鉄の扉が、ででんとそびえ立った。随分前に壊されたような鉄の錠を、ほんの少し触ると、さびた匂いと、指が赤茶色に染まる。ようし、開いているな。

「オーホッホッホ! 人を待たせといて何てゆうちょーな登場なんでしょー!」

予行練習だぜ! と叫びつつ、バターン! と扉を開けた。真っ青に広がった空が、とっても広くて、ピカピカした逆光に、ほんの少し目が細まってしまう。ぴかぴか。ぴかぴか(別にぴっぴかちゅうじゃないけど!)
その中に、ぽつんと、銀色の光が、目に入った。


?」


あ、なんかいる。





銀髪の鳳柚太は、何故だか妙な顔をしていて、相変わらずちびだった。ちびかった。眉をぐぐっ、と曲げたままのそいつを見て、今朝の海堂くんの台詞が、頭の中を、ほんの少し、よぎる。『告白とかかもしれないし』 ………いやいや、それはないって。頭の中でもう一回。「?」

てこてこてこ。鳳柚太が、一歩一歩、私に近づいた。なんだいいいたいことがあるならはっきりしろ! と睨み付けてやる。(………そうだ、そもそも私は、こいつと決着をつけに来たんだった!)
パクパクと、何故だかいい辛そうに動かす口元を見て、それならば、と、私が先に動く事に決めた。

「おーとりゆずた、お前なんで、」
「何で、がここにいるんだ?」

「んん?」




バターン! 音が響いた。思わずほんの少し体を飛び退いてしまって、ばばっ、と反射的に振り返る。さっきまで大きな口を明けていた屋上のドアが、ピッタリと面白いぐらいに閉まっていた。ぐぐっ、と力をいっぱいに入れて、引っ張ってみたけれども、ガチャガチャと音がするだけで、びくともしない。耳を澄ませてみれば、女の子達のクスクスとした笑い声が聞こえる。

    え、あれ、なんで」



声が聞こえる。何人いるんだろう。え、え、と面白いぐらいにうろたえた私の後ろで、鳳柚太が、「なんだこりゃ」と一言。思わずばっ、と私よりも小さな身長のソイツを見て、アンタが呼び出したんじゃないの、と訊いてみた。ぐ、と眉を寄せて、何いってんだ、といわれた。
(あれ、これって、もしかして)

「あの、下駄箱とかに、手紙で、悪口とか、かいてたの、あんたじゃないの?」
「はぁ? なんで俺がそんな影でコソコソしなきゃなんねぇんだよ」
「っていうか、なんでここにいるの?」
「放課後に、俺がどうしようと勝手だろ」


ふつ。ふつ。ふつ。嫌な予感が、ものすごく。
(あれ、あれ、あれ、これって、これって)


女の子の、声が聞こえる。随分楽しげに響いて、うああ、と頭を抱えたくなった。「レッツ、かんちがい……っ!」 オウ、ノウ!(あああチクショウ、こんな事なら来なきゃよかったー!)

女の子特有の甲高い声で、せーの、と声が聞こえた。
「青学レギュラーに、近づくなー!」 

え、ちょ、まじで!
複数に重なった声が、イラつきを通り越して、焦る、もの凄く焦る。
ガチャガチャガチャ。押しても引っ張ってもびくともしない。これってもうホント締め出しですかモオオウ! とか叫びたくなったけれども、鳳柚太が、ぽかーん、とした顔でこっちを見てたからやめた。っていうか巻き込んでごめんね鳳柚太ー!

もう一度、近づくなー! と重なって叫ぶ女の子達の声を聞きながら、もうあの人気者さん達めー! と寧ろ私が叫びたくなった!








「そうだ乾、鳳柚太って知ってるかい、うちの初等部の」

一方部室にて。着替え終わったユニフォームを、きっちりと畳みながら、不二は相変わらず細い目を細めたまま、見てるのか見てないのか分からない表情で、乾を見た。
きらり、と光るメガネの奥で何を考えているのか不明だけれど、くいっ、と口元を上げた表情が、案外顕著に表れている。「知ってるよ」

「で?」 言外に、説明を。と問いかけるような口調に、乾はふむ、とほんの少しの声を上げたけれども、特に気分を害した様子もなく、部屋の片隅に邪魔にならないようにと置いておいた鞄へと手を伸ばした。すい、と取り出したB5サイズのノートを、ぺらりぺらりと捲る。

「鳳っていったら、やっぱりアレなの?」
「アレって?」
「氷帝の。弟?」
「いいや違う、従兄弟だそうだ」

なるほど。不二は、そうじゃなければ、別々の学校に兄弟を送り出すなんて不自然な状況にも納得がいった。従兄弟なら、それもあるに違いない。もっとも、青学も氷帝も私立ではあるけれど。

「それで? 他にないの」

問いかける口調に、ほんの少し乾は肩をすくめる。「不二、俺の事をなんだと思ってるんだ、初等部の生徒のプロフィールまで事細かに調べているとでも?」思わず頷きたくなる台詞を、取りあえず聞き逃した。

「そう、特にないんだ」
「いいや、ある、一つだけ」

なんだい。不二は、耳を傾ける。








「どけ、

ガチャガチャガチャ。何度も何度も引いては押すを繰り返す私を、ぷっぷ笑っちゃうぜ! とでもいいたげに、女の子達のクスクス笑いが、大きくなる。むか、むかむかむか。色んなものがピークになっているときに、がっ、と鳳柚太に肩を掴まれた。「え」と呟く間もなく、ばっ、と後ろに力をかけられて、ものすごーく簡単に、ドアの取っ手から、私の手がぽろりと離れる。

「え」

もう一回、そう呟いたとき、ぶん! 風を切ると音がして、鳳柚太の足が、綺麗に円を描く。
ガシャーン!

もう学校中に響くんじゃないかって大きな音が、耳の中をじーん、と通った。思わず私はおマヌケさんにも、ぱっくり口を明けたまんま、屋上のコンクリートな地面におしりをぺったりとくっつけて、鳳柚太を、見上げてしまう。ちびを見上げるのは屈辱だ、とかほんの少し思ったけれど、今はそんな場合じゃない。扉の向こう側なんて、私が見える訳もなかったけれど、きっと、女の子たちも、今の私と同じ状況に違いない。


「なんだお前ら」

呟いた柚太の声は低い。


「顔が見えないからって調子のってんじゃねぇぞ!」

その声は、もの凄く、大きかった。ひえっ、と呟く声は、私の声だったのか、それとも女の子達の声だったのか、ちょっと不明だ。
思わずぺたりと腰が抜けてしまったまま、ぼけーっ、と柚太を見ていると、そいつは取っ手に手をかけて、ギイイ、とひいた。今度はしっかりと動いたドアに、はっとして階段の奥をのぞいてみたけれど、バタバタとたくさんの人たちが、逃げるような足音しか聞こえない。

取りあえず、

ちゃん、ぴんちだっしゅつ……」

一人じゃなくて、本当によかったと思う。後一歩間違えたら、もうフェンスの向こう側へと大脱出しか方法がなかった気がする。後は土下座か泣き脅しだけど、流石にちょっと、想像しただけでも泣けてきた。うわわん!


「っていうか、なに、あいつら」

呟いた柚太の声を聞いて、多分、あのひと達って、無駄にお顔がいいからなぁ、とほんの少し考えてみた。いい迷惑だちくしょうめ。かおるちゃん以外下座しろちくしょうめ。

ポケットの中につっこんだままの、別名ラブレターの呼び出し書を、カサリと取り出す。そういえば、柚太が使うには、ほんの少し可愛すぎる便せんと、可愛らしい文字だったかもしれない。「ごめん、ゆずた」

ぽとん、と声が落ちた。何がだよ、相変わらず見下ろしたまんまで、柚太はいった。「ごめん、これ、柚太からの嫌がらせだってずーっとおもってた」

めんどくさそうに、ふん、と鼻をならした柚太を見て、思わずこっちまで、ふん! とかいってしまいそうになる気分になる。「でも、柚太も悪いんだ、勘違いするよーなこうどうとるし!」(そうだ、よく考えたら、今日はハッキリさせよーってんで来たんだった)

ぐっと、立ち上がる。柚太の首もとを、ひっつかむ。


「アンタ、なんで私にちょっかい出してくるんだ」





乾の、メガネが、またきらめいた。
「鳳柚太、アイツはただのツンデレだよ」





がっ、とイキナリ真っ赤になった柚太の顔を見て、なんだこいつゆでだこかたこさんか、オクトパスか! とか思った。「お、おまえに、ちょっかい、って」「ちょっかいだよ、ちょっかい」
忘れたとはいわせない。あの水風船は、ビックリしたんだぞう!


「は、はなせ!」

真っ赤になったままの顔で、ぱちん! と私の手をはじく。そのまま、だー! と逃亡した柚太を目で追って、ポリポリと頭をひっかいてみる。「ああああ」真っ青なお空をじーっと見詰めて、

「あ、部活いかなきゃ真知田ちゃんが待ってるやい」

なんかもう、どうでもよくなったかもしんない






  

2008.05.29