「やあ、ちゃんかわええわぁ、ちょいお兄さんの方にきいな」
「………ヤです」


第27話  そうだ関西弁




侑士は、忍足というらしい。妙なお名前だ。跡部さんと同じ部活の人で、一緒に入ってきた赤毛の小さな人が、がっくん。私の悲鳴を聞きつけたか、いつまでも戻ってこない私を不審に思ったか知らないけれど、その後すぐに駆けつけた跡部さんは、ものすごーく呆れた顔をしていたと思う。曰く、「バカじゃねぇかあーん?」 だよねぇあーん?

忍足さんは、ちょくちょく跡部さん家に来る。こっちも曰く、「だってご飯が上手いんやもん、跡部ん家」がっくんも、それに着いてちょくちょく来る曰く、「侑士一人にしたら何しでかすか俺恐いんだって」ついでにいうと、私だって跡部さん家に、ちょくちょく来る曰く曰く、「フランソワに会いにきたー!」


そんでちょくちょく、顔合わせする。


にこにことした顔を見て、はふう、とため息を吐きそうになった。(忍足さんは、ユーシ、なのかな) ちがう、と思った。耳に響く声が、きっとちがう。けれども、中学生で、男の人で、ユーシで、関西弁なんて、他の人にいるんだろうか。(けれども、やっぱりちがう)

ぐるぐると、頭の中で途方もないような思考回路に、ぐはぁ、とため息を吐きそうになってしまう。フランソワフランソワ、とお腹に顔をつっこんでもひもひすると、ふわんとしたシャンプーの匂いがする。跡部さんだか使用人さんだか知らないけれど、きっと毎週お風呂に入れているにちがいない。きれい好きだ。(なんで、だろう)


なんでこう、うまくいかないんだろう。くやしくてポロリと涙が溢れそうになったけれど、そんな惨めなマネはしたくなかった。違うものは、違う。そうじゃないものは、そうじゃない(そう、はっきりしたらいいだけなのに) こういうのを、しゃくぜんとしない、というだと思う。

隣で、がっくんが、どうしたんだ、とでもいいたげに、ぱりぱりとお口にクッキーを咥えたまま一つ、ふい、と私に差し出してくれた。即座に反応したフランソワに、「おまえじゃねぇよ」とほんの少しの苦笑い。

「ほらほら、跡部のだから遠慮しなくていいんだぜー」
「そうやでぇ」
「お前らなめてんのか」


うははっ、と笑ったがっくんに、そんなことあらへんよ、と忍足さん。今すぐ出て行けと、跡部さん。(うん、)


「忍足さん、忍足さんって、」
「ん、なんやの?」


やわらかく微笑んだままの丸メガネを見詰めて、(忍足さんは小さな頃、赤ん坊を助けた事がありますか)そんな言葉を、私は聞く事が出来なくて、フランソワの体を、ぎゅ、と抱きしめた。






  



2008.06.01