こんにちは、くんです。
ただ今包丁持って振りかざしています。冗談です。



04


タンタンタン! と軽くまな板に叩きつける音と、見事なまでにスライスされていくごつごつジャガイモを見て、中々に宍戸家の包丁は切れ味がいいなぁ、とちょっと想った。

隣で叔母さんが「あらちゃん上手ねー」と声を掛けてくる。それに俺は「そうなんですぅー。お、…わたし、昔っから家事は手伝ってたんでぇー」……あああああ! 自分の口調に寒気がするぜ!(な、なんで俺がこんな…っ!)そんな俺の葛藤を知ってか知らずか、あらあら、亮なんかとは大違い! といいながらくるくるお鍋の中をかき混ぜる叔母さん。
俺はそれに、“女の子らしく” うふふ、と笑ってみた。きちんと包丁を持っていない方の手を、口元につけて(チクショー!)

テーブルに、所なさげな亮は、俺をじーっと見ている。気のせいか垂れ下がった眉毛にアイツの心の声が聞こえた気がした。『引きつってるぞ、顔』 ……うるさいやい





ふかふかのベッドに、ぼすん、と腰掛けてぐるぐると回る。「うおおーふーかーふーかー」「おい、俺の部屋なんだけど」「ふかふかー!」「聞けよ」

ごろごろ仰向けで寝っ転がった俺の真ん前に仁王立ちした亮に、をじーっと見た。頭が少しベッドから出た状態で見上げる亮は、いつもよりでっかく見える。

「つかさ、お前なんだよ、さっきの」
「さっきの?」
「さっきの……あー…、」

ちょこっといいづらそうに、明後日の方向を向く亮を見て、ああ、と俺は手を打ってみた。「分かった、さっきのぶりっこだ」
きもかったろ、俺。と自分でも情けなく、へらりと笑ってみせると、亮は気のせいかピンクに染まった頬を、腕で隠すようにして、またまた明後日の方向。「…別に」って、小さな声が聞こえた。ん? 何が別に?


「んで、さっきのぶりっこね、ぶりっこ」
「何の心境の変化だよ」
「べっつにー」

嘘だ。ごろごろっと体を転がしてベッドのシーツをぐしゃぐしゃにした後で、またチラリと亮を見ると、仁王立ちのまんまで、じっと俺を見てる。もっかいゴロゴロしてみた。チラリ。「……なんだよ」まだ見てる。

「なんだ、女らしくなろうって考えか?」
「…ん、まぁ、そんなトコ」
「なんで」
「なんでって」
「いきなりすぎだろ」
「やっぱり?」

まぁな、と軽くうなずいて、亮は部屋の端っこからずるずると持ってきた座布団の上に、どっかりと座って、俺に軽く目配せをした。「いってみ」と小さく呟いて、ベッドから垂れ下がってる顔を、ペシペシと叩く。ほんのりした痛みに、亮って、意外と、おばかじゃないんだな、とちょっと失礼な事を考えちまった。悪い。「おら、」「うぇーい」「変な声出してんじゃねぇよ」


ぎゅ、と唇を噛んで、転がっていたシーツを、ぎゅ、と握りしめた。水色の布団に手をついて、むくりと起きあがると、一瞬頭がくらりとする。ちょこちょこ。ちょっとずつ移動して、座布団に座っている亮の前に、足を投げ出す感じで座った。俺の方が、亮の目線より高くなるのは変な感じだ。
じーっと、下から見られる目線に、びくっとして、妙に萎縮しちまう。「」「…ん」

「なんつーかさ、叔母さんって、俺の事保護してる立場な訳じゃん」
「そうだな」
「曲がりなりにも、俺って女な訳だし、こう、女らしくした方が、叔母さんも安心するかな、って、さ」
「それだけか?」


びくり。もう一回、「それだけなのか?」見上げる目線に、ぎゅ、と口を引き締めて、俺は小さく体育座り。「……それだけじゃ、ない」そのままごろんと小さく転がる。「………叔母さん、安心、したら、俺、ここ出て行きやすいかなって、い、イター!」「おっまえまだンな事気にしてたのかよ、バカじゃねぇの」

バカなんだよ、バカだから気になるんだよ。といおうとして、やめた(だって亮はイイヤツだから、きっと怒る)母さんが好きこのんでお前引きずり込んだんだから、別にいいんだよ、と慰めるような亮の言葉に、本気で涙が出そうになったけど、俺はやっぱし首を横に振った。
「俺は、ここを出ていくよ」

一瞬、しんとなった音が聞こえたとうな気さえする。かちっかちっかちっとそれだけ響く時計の針の音を聞いて、俺は目を瞑った。かちっかちっかちっ
「お前、ホントバカだよな」…うるさいよ。

グシグシ撫でられた髪の毛と一緒に、俺の頭が、ベッドの中にこすりつけられた。「もういいっつの。お前バカだし」……またいわれた。
俯せに沈んだ俺はまたごろん、と一回、回転して、ちらりと亮を見た。

亮のため息と、困ったように寄せた眉毛と、何か言いたそうなソイツの唇を見たけど、なぜだか俺は、嫌な気分には、ならなかったのだ(寧ろ、うれしいかもしれない)(心配、されて)(って考えていいのか? 俺)




「そういや、母さんが、明後日からお前学校に行くっていってたぜ」
「え」



  


2007,11,03