09
泣いていいのか、笑っていいのかわからないが、はテニス部に入ってしまった。
マネージャーが入る、と神妙な口で呟いた跡部を前に、レギュラー陣は「おー」と静かに拍手を繰り返す。ぱちぱち。なんだかんだといって、女っ気のなかった部室に、潤いが増えることはうれしいらしい。
けれども俺はそれが誰か知っているわけで、「まぁこれで楽になるじゃん」と向日が頭の後ろへと両手を回しながらにかっと呟いた言葉のように純粋に喜ぶことはできない。寧ろなんか頭痛くなってきた。「宍戸さんどうしたんですか? 顔色が悪いですよ」「………気にすんな長太郎」
「だがしかし!」
びしりと。跡部がポーズを決めた。なんとなくいい位置にいたらしい樺地が、まっすぐと伸ばされた跡部の人差し指に、びくりと肩を震わせた。ちょっとびびったらしい。
聴衆人を前に、はりのいい声を響かせながら、跡部は叫ぶ。
「俺は、あんな女がマネージャーとは認めねぇ! 部長権限でクビだ! クビ決定だ!」
狭い部室の中で木霊する跡部のセリフに、部員たちはぽかんと目を見開いて跡部を見つめた。、お前いったい何やったんだ。何やらかしたんだ。もうすでにアウト一発なのか。ダメなのか。
「………いや、それは無理やろ。部活決めるんは生徒の自由やし」
至極まっとうな意見を呟いた忍足のセリフが、しんと響く。
「です、よろしくおねがいしまーす!」
あまりにもあっさりとやってきたその光景に、俺は帽子の鍔を握り締めながら顔を横へとそらした。視線をそらす瞬間、の隣に立つ跡部が、ずいぶんむっつりとした表情をしていて、それに反比例するようにキラキラと光るの顔がなんだか泣ける。
一生懸命マネージャーさせてもらいますね! とあくまで爽やかに挨拶を続ける。恨みがましげな、「今更ぶってもおせーんだよ」と呟く跡部の声に、うああああと耳をふさいだ。
とりあえずコート整備でもしてこい、と跡部に指示をされたは素直に頷きくるりと俺達へと背を向ける。その時俺は、がんばれの一言もいわなかった自分に気づき、「おい」と声を掛けようとしたのだけれど丁度いいタイミングで、がこちらを向いた。
親指グッ
がんばって、いいおとこ、さがすヨ!
……………嫌な幻聴が聞こえた。
いい笑顔と親指のまま消えたの姿を目で追いつつ、「オイ」と不機嫌そうな跡部の声に、あー、と肩を落とす。「宍戸、お前あいつと知り合いなのか」 周りから集められた視線に、ごほっとせき込み、「………いや知り合いつーか」 帽子を、右の手で、ぐいっと押す。イトコです。
「あいつはやめておけ」
「アア?」
「あいつはやめておけ。今はぶっているがな、あいつはダメだ。お前は騙されている」
「いや騙すって、おい跡部」
「顔にだまされるなアレだけはやめておけ!」
言いたいことを言って満足したのか、さぁ練習を始めるぞ! とバックに薔薇と飛ばしながらラケットを振り回す部長を見つめつつ、あああああと長い溜息を落とすと、隣に立つ長太郎がくいっと首をかしげて、「宍戸さんどうしたんですか? 顔色が悪いですよ」「………気にすんな長太郎!」
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2009/03/04