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手に入れたぜマネージャー! やったぜ女のマネージャー!

が知ってか知らずか、部員のテンションはむんむんと上昇する。「やっぱあれかな、女子ってったらドリンクかな、お疲れ様でしたぁー! なんて笑ってくれちゃってさぁ!」「いや全員はフツーに無理だろ」「そっかあ、でも嬉しいなぁ!」 聞こえる部員のセリフに俺は思いっきり溜息をついた。こいつらなんだ。浮かれすぎ。激ダサすぎ。

そんな浮かれた空気にまじって、フンフンと鼻息の荒い跡部が闊歩する。ジロッと一瞥した視線に、部員たちは岩のように固まったあと、こそこそすごすご背中を見せて去っていく。「どいつもこいつも……!」 機嫌が悪い。悪すぎる。「チッ!」 舌うちアピール。

そんな跡部の隣で空気を読めない金髪羊が、「ねぇねぇレギュラー特権でマネージャーにドリンク配られたりしないのー!?」とぴょんぴょんはねながら跡部のまわりをぐるぐる回る。「ネェヨ!」 きれている。激しく跡部はきれている。「ねぇか! ねぇC! うはははは!」 空気を読めない。この男は空気を読めない。


何なんだこいつらは、と俺は窺うように、へと視線を向けた。手洗い場にてごしごしとタオルを洗っている。その隣をたまたま通りがかった部員が手を振り、愛想よく、いつものガハハと大口を開けて笑う表情はどこにいったんだと疑いたくなるほど上品に、は小さく手を振って、にこっと笑う。むかっ。

何故だかその瞬間、思いっきり腹が立った。
別にがぶっている理由はあいつがバカでアホだから何も考えていないだけで、そういうことは多分俺が一番理解してるってのに何故だかむかつく。「あー」 何故だか、叫びたい気分だ。「顔にだまされてんじゃねぇぞ!」

そんな半分やけっぱちな俺のセリフに同調するように、跡部がグッと親指を出した。「よく言った宍戸、フフン!」 別にお前に勝ち誇られたい訳じゃねぇし。
知るか。なんて。人の忠告無視しやがって。もうなんでも勝手にしちまえこのバカ。

そして部員のテンションは上りに上がり、





思いっきり下降した。





「タオルが落ちてたんですけど、これ誰のですかー?」

ぼけっとした声を響かせて入室したはこちら男子を見渡しこくんと首を傾げた。ああ、なんかちょっと幼い感じの仕草が、可愛いかもしんない、と俺が思考にいきつく前に、「う、ひゃあああ!!」 まるで女みたいな悲鳴で男の一人が叫ぶ。「うぎゃあああ!!」 二人目。「マネージャーでていってぇええ!!」 三人目。

俺の上半身は裸だった。

気の毒なことにパンツ一丁だった長太郎はぼんやりとした表情をみるみる真っ赤にさせていき、恐ろしいスピードでズボンをはき、「え、え、ししどさ、え、あれ、え」「落ち着け」 俺は比較的冷静だった、慣れって恐ろしい。
忍足はストライプのトランクスを見せ、「あかんでマネージャーでていきーなー」と朗らかな笑みを見せている。おい堂々とすんな、長太郎を見ならえ。

そんな男臭い状況を、きょとんとした表情で見つめ、まるで「なんでこいつらこんな叫んでんだ」という空気をまといつつ、「じゃあタオルここに置いときますから、後で確認してくださいねー」と真っ白な下地に刺繍のついたタオルをドアのすぐそばに置き、扉をばたりと閉める。

死ぬほど嫌な沈黙が流れ、相変わらず顔が真っ赤な長太郎はガンガンとロッカーに頭をぶつけていた。

、お前はなんでそんなにバカなんだ。
なんで理解ができないんだ。
「…………なんか、あのマネージャー、変じゃね」 誰とも言えない声がぽつりと響き、そして静かに頷いた。「でもかわいけりゃいいんじゃね」 
聞こえたセリフに、俺にとっちゃ、馬鹿な子ほど、だけれどもと頷いた。




  


2009.07.29

氷帝はレギュラーは別に部室があったんだったかな。まあいいや。庶民派氷帝。