「俺はあいつのことが嫌いだ」
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「あいつって誰やねん? 跡部」
自分でも分かりきった台詞だなぁ、と忍足は考えた。「決まってるだろ、だ! あーくっそ、なんであんなのがマネなんだ!」 と言いながらガチャガチャとロッカーをいじる姿を見つつ、忍足は苦笑した。まぁそうやなぁ、と取りあえず口だけで肯定して考える。(よくあらへんな)
状況がよくない。
「そうやな、女のマネなんて俺らが知ってる限りでも初めてやもんな」
その言葉の意味は、忍足はうすうす気づいていた。よくないこと。
(人間関係って難しいねんでぇ、ちゃん)
なんで今までマネっていなかったんだろ?
俺は部員分のタオルやらドリンクやら、部室の掃除やらに追われつつ考える。これだけの人数がいるのだ。マネの一人や二人がいてもおかしくねぇんじゃねぇの? と思いつつ、単純作業に日が暮れる。
宍戸の家にいつまでも厄介になっている訳にはいかないから、イイオトコを見つけて、それを彼氏にして一人立ちする。そんな計画があるってのに、早々に頓挫しているのだ。あー、ちくしょう! なんてイライラしつつも、単純作業は好きだ。面白い。男の友達だってここならたくさん作れるかもしれない。
「あ、さーん!」とパタパタこっちに手を振ってくる、銀髪の後輩が可愛らしいのだ。「おー、鳳ー! ちゃんと水分補給してるかー?」「はいー!」 いやあ、亮はいい後輩を持ってるなぁ、と羨ましくなる。にこにこしつつ、また洗濯に戻った。
だからあんまり色んなことに気付いてなかったのだ。
「あ、わり。俺今日、日直なんだけど、何したらいい?」
にこにこ笑ってクラスの女の子に話しかけてみた。別に誰にって訳じゃない。誰かに話した。そうしたら、親切な奴が教えてくれるかもしれない。けれども誰も反応しなかった。
おかしいな、とちょっと思ったのだ。なんとなく、クラスの男子も遠巻きにこちらを見ていて、何の反応もない。「あのさ、悪いんだけどさ、教えてくんね?」今度は近くの女の子に向かって、話しかけてきた。女の子は一瞬うっとうしそうに眉をひそめた。ような気がした。そして視線を合わせないまま、「日誌をとってきたらいんじゃないかな?」と言った。「日誌って? どこなのかな」「わかるでしょ、それくらい」
会話はストップだ。俺はポリポリと頬をかいて、職員室かな、と大きめの独り言を言いながら教室を出る。まあ、先生に聞いたらいいか、と思ったのだ。
なんだろう
よく分からないけれど、胸の中がちくちくする。なんだろう、今の会話は、ちょっと変だったような気がする。俺の思いすごしだろうか。俺って鈍いからなぁ、多分。と考えつつ廊下を歩く。途中亮にすれ違ったから、へらへら手を振って挨拶した。そしてそのまま職員室に向かった。
学校でに会った。氷帝はマンモス校であって、結構でかい訳だからこういうことは珍しい。へらへら笑いながらこっちに手を振ってきたもんだから、俺も軽く目配せした。よくわからないけれど、なんだか妙だった気がする。いつもなら手を振るだけじゃなくて、「おーい! りょー!」と言うように辺りも人目も気にすることなく駆け寄ってくる気がしたのだ。
妙な違和感が気持ちが悪い。後で家で確認してみよう。まぁ多分俺の気の所為だろうから、別にいつもと変わらなく馬鹿みたいに元気なんだろう。
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2011.01.03