「腹でも減ってんのか? お前」
13
よくわからないけれど、いきなり亮にそう言われた。「え? 別に? 俺腹ならした?」と確認してみると、亮は妙な顔をしたまま、「なんとなく」と呟いた。そうか、なんとなくか。じゃあまぁわかんないね。というように終わらせた。そのあと、亮のお母さんにも変な顔をされた。なんでだろうか、俺、何か変なことしちゃったんだろうか。
クラスでもなんだか女の子の態度は変だし、部活でもなんだか変な気がする。もしかして、とか考えてみた。
(俺が中途半端に女だからなのかな)
ばあちゃん、と俺は久しぶりにババアのことを思い出した。忘れようとしてたのだ。この馬鹿孫が、とか言っておたまを振りまわすクソババアに、むしょうに会いたくなった。会える訳ないけれど。
「さんの元気がないからかもしれません」
「え? まじで?」
鳳が優しそうな顔つきを困ったようにへにょつかせる。ぬーっと大きい身長を、ああ羨ましいなぁ、俺ー。とか思いつつのぞきこんだ。鳳は俺の仕事であるはずの荷物を半分持ってくれたのだ。そんなことしなくていいと言っているのに、「さんは女の人なんだから、無理しちゃダメですよ」とぷんぷんしつつ、手伝ってくれたのだ。未だに女と言われるとくすぐったく感じる。
「俺、そんな元気ない?」
「はい。あ、俺そんなさんのこと、詳しいって訳じゃないですけど。でもそんな俺でもわかるっていうか。えっと、イトコの宍戸さんなら、もっと分かるんじゃないかと思うんです」
「イトコってっても、別に俺も亮と会ったばっかみたいなもんなんだぜ?」
あはは、と言うように笑うと、鳳は少しだけ驚いたように瞳を見開いた。「そうなんですか?」という言葉がなんだか純粋だ。俺も少しだけ苦笑すると、そうか、俺元気ないのか、と考えてみた。
(疲れてるのかもしれないな)
そう思ったとき、丁度鳳も同じことを言った。
「疲れてるのかもしれませんね。さん、転校してきたばっかりじゃないですか」
「そうかなー」
「疲れてるときって、案外自分じゃわかんないんですよ」
ね、だからしっかり寝て、しっかり食べて、元気になりましょう。と後輩はきらきらした笑顔を向けてきた。「そうかなー」と俺はもう一回言うと、「あー、自分って疲れてるんだー。とかわかったら、案外それですっきりしちゃうこともあるんですよー」と鳳は胸を張る。
俺はもう一回言ってみた。「そうかなー」「そうですそうです」 なんだかしっかりした後輩だ。俺は鳳に荷物を持ってもらったことに、ありがとう、とお礼を言いながら部室に入った。
すると、部室の中には誰か一人が上半身が裸のままこっちを見ていた。キノコカットというべきなのか、色素の薄い髪の色の少年は眉をひそめたあと、「ノックくらいしてください」とてきぱきと着替えていく。
「ごめん日吉。誰もいないと思ってて。委員会?」
日吉、と呼ばれた男の子は口調からみると鳳と同学年なのだろうか。俺は「わりーわりー」と謝りつつ、ぺしっと日吉の背中を叩こうとした。けれども日吉はその手を素早く避けると、激しく俺を睨んだ。「出て行ってください」
予想以上に冷たい言葉にひるんだ。
鳳が、「日吉、先輩に失礼だよ」といさなめる。俺はいやいや、と鳳に手を振ったのだが、日吉は即座に反論した。「男が着替えているんです。女性は即座に出ていくことがマナーじゃないのか?」
俺はぼんやり考えた後、なるほど、と頷いた。そうだ。「ありがとう、日吉。そうだな。わるい! 日吉が着替え終わったら、また部室に来るよ、それじゃあな!」 鳳に手を振って、他の仕事をと去っていく。そうか、それだ。
(なんか俺、がんばんないとな)
よし、と拳を握る。俺はちょっと常識がないところがある気がする。そうだ、それをなんとかしないと。
俺が部室を去った後で、ふうん、と興味がなさげな顔をしたまま、「変な奴だな」と呟いた日吉に、「日吉、失礼だよ」と鳳が唇を尖らせていただなんて知る由もない。「まぁ、確かにちょっと個性的な人だけどね」「ほらな」
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2011.01.03