この頃、またが変だ。
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元気がないなと思っていたら、また「女らしくなるぞ!」と拳を握って毎日鏡の前で女らしいポーズはとか女らしい言葉遣いは、と練習している。まぁそういう頑張りはいいことかもしれない。まぁいいことだ。やっぱり俺は男なので、可愛い女の子が可愛い格好をしているところを見ると、ああ可愛いなぁ何考えてんの俺激ダサとか思ったりもする。お、かわいい。
けれどもよ。おいよ。
「無理すんなよ?」
「あ? 何いってんだ亮」
そんなのしてる訳ねーじゃん。とカラカラ笑っている。
別にが女らしくならなかったとしても、全然いい。そりゃあ個性ってもんなんじゃねぇの。というか、が女らしくなろうなろうとしているのは、うちの母さんを納得させて心配をかけまいとして、うちの家を出ていく算段なのだ。それはちょっと悲しいんじゃないだろうか。お前は自分のことを迷惑だと思ってるかもしれないけれど、そんなことうちの人間は思ってないんだぞ。なんていくら言っても通じない。
(こいつはなぁ、馬鹿のくせに、妙に気を使うからなぁ)
馬鹿は馬鹿なりに笑ってればいいのに。お前、馬鹿だなぁ、と思う。
(こいつ、学校で大丈夫なのか?)
「忍足、お前マネージャーのと同じクラスなんだろ? どんな感じだ?」
「どんな感じて。なんやの宍戸、なんでそんなん気になるん?」
別に。全然気になってないけれども、ふと思い出しただけだぜ?
そんな風を装ったつもりなのに、忍足は「わかってるでわかってるで」とでも言うようにこそこそこっちに耳打ちしてくる。「いや何がわかってるんだよ、お前」とじろっと睨むと、眼鏡はカチカチ無意味に眼鏡をあげた。おまえ、眼鏡くもってるぞ……
「まあ冗談はさておきな、あんまりよぉないなぁ」
「マジか」
「マジマジ。ちゃんなー、話してみたら案外アホっぽくて面白いねんけどな。はたから見とったらただの馬鹿やからな」
「どっちにしろ駄目じゃねぇか」
アホっぽいと馬鹿とは忍足の中で一体どんなジャンル別けがされているのだろうか。微妙に気になるようなどうでもいいような。
「ちゃ、ちゃうで! アホと馬鹿はちゃうねんで!」とぐいっと拳を握る。「わかったわかった。どうでもいい」 聞いた人選間違えた。
眼鏡を曇らせたまま、アホと馬鹿の差についてこくこくと語る関西弁はさておき、俺はさっさとラケットを握ることにした。パートナーである長太郎におおい、と一声かけてコートに向かう。遠くの向こうで、ぐいっとこっちに親指を向けて、そのあとぱたぱたと手をふるが見えた。
「長太郎、この頃が変なんだよなぁ」
「あ、俺も元気がないなぁ、と思ってましたけど」
「それもあるんだけどな。女らしくなるとか張り切っててよ」
と、言った後、俺は一瞬後悔した。がこの年になるまで、(信じられないことにも)自分を男だと思って育ってきたことは秘密なのだ。いいや、だったら、「そんなもん秘密でもなんでもねぇよ」とか言いそうだが、それでも他人から言っていいことと悪いことはある。まるで他人の個人情報を言いふらしたような気がして、俺って激ダサ。と唾を飲み込んだ。
「そうなんですかー」と長太郎は軽く頷いた。もちろんそれだけだ。誰も、俺が言った言葉で、まさかが自分の性別を勘違いしていた、なんてことにつながる訳がない。はー、と息を吐き出した後、いつも通りにまずはの準備運動をしようとしたとき、長太郎は、ふと「思うんですけど」と呟いた。「ん? なんだ?」
「さんは十分女性らしいですよ」
よっこらせ、と長太郎と柔軟体操をしつつ、「だよなぁ」と俺は頷く。そうそう。「ですよねー」「だよなー」
あとでこの後輩に、ジュースの一本でもおごってやろうと決めたのだ。
(まあしかし、クラスで上手くいっていないのは、気になるような、俺が口出すのは妙なような)
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2011.01.03