「わるい、ちょっといいか?」
「し、宍戸くん!?」
15
「さん、移動教室、一緒に行く?」
唐突にかけられた声に、俺は一人ぽかんと口を開けていた。いやぁ、だって。女の子の方から。え? なんで? いやいや嬉しいけど。と思いつつ、彼女たちを見てみると、彼女たちは微妙に嫌そうな顔をしていた。「え、いや、嫌なら、いーよ……?」 無理やりとかやだし。っていうかなんで?
そう言って俺がぱたぱた手を振ると、彼女たちはやっぱり妙な顔した。何言ってんだ、こいつって感じだろうか。もっというなら、拍子抜けしたというか、予想と反応が違うぞ? というような感じである。鳩が豆鉄砲を食らった感じと言ったらいいかもしれない。
「ほら、行くわよ」
不機嫌なのか、そうじゃないのか分からないような口調で女の子の一人は机の上をぱんぱんとはたいた。なんだこりゃ、どういうことじゃ。よくわかんねー、と思っていたとき、「案外普通みたい?」「みたい」と女の子たちがこちょこちょと話しているのが耳に入る。ん? 俺なんかした?
取りあえず彼女たちと一緒に音楽室に行って、そのまま一緒にお弁当を食べることとなった。なんだ、なんだ。なんでいきなり好意的なんだろう。さすがの俺だって、今までちょっと避けられてたことくらいわかる。わ、わからんわからんぞ、と思いつつ、俺は一人弁当に手を合わせて箸を伸ばそうとした。けれどもその瞬間、女の子全員が立ち上がった……!!
(ええええええ、なんでええええ!!!???)
リンチ!? リンチ!? リンチなの!? となぜかガクブルしているとき、女の子たちはさささっと廊下へと去っていこうとする。俺は頂きますのポーズのままかたまった。その瞬間、女の子の一人がこっちをちらりと向いて、行ったのだ。「あれ、さん、一緒にトイレいかないの?」「えっ!!!?」
ご飯の前に、一緒にトイレがルールなの!!??
「という感じでだな、亮。女の子には女の子の独特のルールがあるらしい」
「そ、そうか」
「その他にもトイレに入ったら必ずトイレの鏡で髪型チェックもしなければならないとわかった」
「それは跡部もしてるぞ」
「うすうす想像はついてた」
トイレの中で身だしなみチェックをする俺様野郎はものすごく様になると思います。
ではなく、「亮、俺はやったぞ! 女の子のルールとやらも、俺はわかっていなかったんだな! マスターも近い!」 やったぜ! というように、亮の部屋の机の上に、ダンッ!! と足を乗せる。その瞬間、亮から冷たい視線が飛んできたので、机の上は駄目だよな机の上は……と独り言を言ってごまかしつつ、そそくさと正座しなおした。
亮はポリポリと頭をかいたあと、「よかったな」と笑った。そーだな、と俺は正座でむずむずする足を組みなおしつつ、にかにかした。この調子で俺がレベルアップしていけば、いつか一人立ちできる日も近いだろう。いやいや、カレシなんてものを作ることなく、もうそろそろかもしれない。
いやぁ、いやぁ、いやぁ。頭も頭をポリポリとひっかき、嬉しげな声を出す。そんな俺を、宍戸は「よかったな」ともう一回だけ言って、「さっさと宿題でも終わらせろ」とポンッと俺の背中を叩いたのだった。「おう! 頑張るぜ!」
「いいか俺様は認めないからな!」
相変わらずびしっとこっちに左手の人差し指をさしてクワッと眉間に皺をよせ、バックにバラがはらはら散っている男は俺が無言のまま洗濯かごを持っていると、ビシリともう一度ポーズを決めなおした。今度は右手で人差し指。
「え……えぇ? はいはい」 なんかもうこの頃どうでもいいかなー、とか思っちゃうので生返事である。「このやろうめ、とうとう本性を現しやがったな。俺様は分かっていた、そう! 帝王だからな……!!」「はっはっは。すごいすごい」 ひゅーひゅー
取りあえずお決まりのポーズなのか、髪の毛をさっと手で書きあげた後、「ふふ……。まぁな」とニヒルに笑う我が部長様(ついでにクラスメート)をそのまま無視して去っていこうとすると、「待て、待ちやがれ、ウオラァ!!」 とぶんぶんラケットを振りまわしている。
「ちょ、お前なんなんだよ、いや、えーと。あなたなんなのよー。暴力とか最低よー」
「違うこれはお前と話をしつつ効率的にテニスの練習をと」
「マジで!?」
勘違いしてごめんね!
取りあえずこの部長様は俺に話したいことがあるらしい。せっかくなのでと多少の休憩をしようと思い、俺はどすん、とかごを置いた。ぶんぶんラケットを振りまわす跡部に見習おうと、俺もせかせか新たなかごを出し、その中に他の洗濯をつぎ込んでいく。時間削減である。
片方はラケットを振りまわしつつ、そしてもう片方は洗濯を取り込みつつ見つめ合うという、はたから見るととても嫌な光景が、こうして出来上がってしまった訳なのだが気にしない。でもちょっと跡部はやく用件を言えやっぱり多少いたたまれなくなってきたぞ!!
「え? マジで俺認められねぇって?」
「そうだお前みたいな裏表の激しい女が、たとえ宍戸のイトコであろうともな!」
この王者氷帝には、血筋など関係がない!
クワッ! と目を見開きながら、今度はラケットをこっちへと向ける跡部を見て、俺は待て待て、と手のひらを突き出した。「あーん? なんだよ」
「なんでお前、俺と亮がイトコって知ってんの?」
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2011.01.04