それから暫くたった頃の話だけれど



17



「この頃女の子らしくなったよね」

そう言われる。



そうか? と俺はぽりぽり自分の頬をひっかいた。自分じゃよくわからない。女らしくなろう、なろう、と前は思っていたけれど、今はそんなに毎日を気張って生きてはいない。なんとなかるんじゃないかな、とぼーっとしてるだけだ。クラスの女の子とも一緒に遊ぶ。案外楽しい。時々、やっぱり価値観が違うなぁ、と思うときもあるけれど、そこは勉強になるな、と思う。

「髪の毛も伸びたわねー。叔母さん安心したわ」

亮のお母さんが何気なく、俺と一緒に夕食を作っていたときにそう言った。「あ、短かったですもんねー、前は」 頭が重いなぁ、とも思うけれど、月に一回散髪屋に行く必要がなくなったと思うとそこらへんは楽だし、金もかからない。

安心したわ、と言われたことに、俺はなんだかそこまで嬉しくはなかった。いや、嬉しいと言えば嬉しい。けれども、あ、そうですかー。という感じで、そんなにとび跳ねるくらいに嬉しい訳じゃないのだ。(変わったのかなぁ、俺)

相変わらず一人称は俺だし、相変わらず跡部には「お前のことなんて認めねぇぞ二重人格女め! しかもこの頃本性丸出しじゃねぇか!」とか言われるし。「まぁなんていうかね、跡部よ。最初の俺はイメチェンをしようとしてたんだよ、高校デビューならず転校デビューと言うやつだ」とか言うと忍足辺りに大爆笑された。今度こっそり眼鏡に指紋をつけてやろうと思う。


「やっぱりねぇ、女の子は恋をすると変わるのよ」


うんうん、と頷く叔母さんに、俺は「コイ……?」とか言いながら首を傾げた。なんだろう。魚……? 鯉ではない。いや、恋か? え、マジで? 恋をすると変わるの?「マジですか?」と言って叔母さんを覗き込むと、「そりゃあねぇ。女性フォルモンがむんむんになるのよ」と納得できそうなできなさそうなことを言う。「はぁ……」と生返事をしたあと、この会話の流れで言うと、と叔母さんを見てみた。

「俺恋してるんですか? どこの女の子に?」
「いやいやちゃん。あなた女の子なんだから、相手は男の子よ」
「あ、そうか」

ときどき、ふとしたときに間違えそうになる。叔母さんはうふふ、と笑った後、「そうだったらいいなぁって思ってるだけよ」と言いながらフライパンの中をお箸でくるくると回した。そうか。恋したら、俺可愛くなれるのか。「ふーん、恋したいなぁ」 それだけ言うと、俺はタカタカ包丁を動かす。叔母さんは「ええ?」と噴出したように笑って「そうねぇ」と呟いた。


「教えてもらったら? 亮とかに」
おばさんお勧め。


そう言われたとき、俺はなんだか人生で初めて恥ずかしくなった。

かーっと顔が熱くなる。ちょっとこんなのは初めてだ。叔母さんは「あら」と面白そうな声を出したあと、「りょーうー! ちょっと来なさい面白いわよー!」 と亮の部屋に向かって大声を出した。

「ちょ、ちょ、ちょ、ま、ま」
「なんだよ母さん、うわ真っ赤。風邪か
「うっせばーか!」
「アア!?」


自分でもちょっと、よく分からない。ちくしょう! と亮の顔面をひっつかんで頭突きを食らわして、その後亮も「ンだオラァ!」と言ってがつがつ二人で頭をつっつき合わせる。そうしたとき、がつっ! ともう一発した瞬間、目測がずれてしまったらしい。亮と鼻と鼻がぶつかった。
またその瞬間、俺の顔は真っ赤になった。そして亮も真っ赤だった。

「お母さんあっち向いとくから、好きなだけ続けてね」
と、気をきかせたのかなんだか分からないような叔母さんの台詞を聞いて、俺達は「「いやいやいや」」と二人して手を振る。何を続けろってんですか。亮と二人で目を合わせて、その後、所在なさげに床へ視線を向けて、「ばーか」と俺が一言。「お前がな」と亮はぴしんと俺のデコにデコピンを一発はなった。そしてそのあと、笑って頭をなでた。


「お、珍しくおとなしいな。どうした」
「うっせ」


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2011.01.05