子狐、こんこん




浦飯が妙なことに首をつっこんでいるだなんて、結構だれだってわかる話だ。



ぷちぷち虫祭りも終了し、相変わらずボロボロになってベッドの上ででかい鼻提灯と寝息を立てる浦飯の頭を複数回殴打して、まったくちっとも起きようとしないねぼすけやろーの鼻を、ぶひっと押してみた。ぐごお、と寝息ばかりが響いている。反応がないと、案外つまらん。
「うらめし、お前なにしとんの?」


人間のことなんて、正直あんまり興味が無い。でもまあ浦飯とか、温子さんとか。南野家とか、そこらへんはどうでもよくない。人間という種族にはキョーミがないけど、好きなやつならときどきいる。妖怪もおんなじだ。まあ浦飯は人間なのか魔族なのか、俺にはちょっとよくわからんので、どっちがどうというわけじゃないけど。

そんなわけで、俺は結構浦飯には世話になってるとおもう。「……お前、なにしとんの?」 だからもっかい訊いてみた。返事なんてないのは知ってるけど。

「おれ、なんかできるなら、手伝ってやろうか?」





   ***



「ちょっくらヤボ用で外に出てくる」 いつもみたいにそう言って、荷物をひっさげながら消えていった浦飯に、螢子さんはほっぺをふくらませていたのはちょっと前のことだ。

「ぼたんさん、幽助、またレーカイって探偵事務所の任務に行ってるの?」
「いやはやいや……」

ぼんやり聞こえた会話に、のそりとソファーの上から体を起こした。ぼたんさんと螢子さんの声だ。ときどき二人は浦飯の家にやってきて、きゃっきゃと女の子同士で楽しくしている。くあ、と俺はあくびを繰り返して、こそこそと彼女らを伺った。話す会話の内容に、ぴくぴくと耳を震わせる。「いやまあ、そうなるのかねえ、でもちょっと違うかもで下っ端のあたしにゃちょっとねぇ」「ふうん」


レーカイ。霊界。(探偵事務所?) 螢子さんは何かを知ってるらしい。そんでぼたんさんもだ。(あー?) 別にいいかって思いながら、やっぱりちょっと気になった。ぴくぴく耳ばかりが動く。「螢子ちゃんほらお茶、ぼたんちゃんもどーぞー」「ああ、ありがとうございます……ってこれお酒じゃないですか!」「あら飲まないの?」

たははー、と笑う温子さんの声が聞こえる。俺はくんくん、とまた鼻を鳴らした。ぼたんさんからする、死んでるような、生きてるような、よくわからないにおいのことを考えていたのだ。それから、レーカイ、という言葉をきいて、ああそうか、とやっと気づいた。「ぼたんさん、水先案内人ってどんな仕事してんの? 浦飯の仕事もそっち系なんだろ?」 俺に背中をむけたまま、ふふん、とぼたんさんは笑ったみたいだ。

「そりゃま、死んだ魂のご案内さ。幽助もね、もとはあたしの客みたいなもんだったんだけどさ。コエンマ様の紹介で、今は妖怪退治っていうかね、次はちょっとしたトーナメントに……うん?」
「え?」
「おう?」

三人がぱちくりと瞬きするさまを、俺はソファーの背中にのっかって、にまっと笑った。「ぼたんさん、どういうこと?」「いやあの」「うちのバカがまたなんかしてんの?」「そのあの」 あうあう、と両手を振るぼたんさんが、ぐるりと俺を振り向いた。返事代わりと耳をぴこぴこ動かしてみたけれど、よくよく考えれば、見えない返事に意味なんてない。ぼたんさんが俺に問いかける前に、螢子さんからの追求にたじたじとなる彼女を見て、まあまあなるほど、と俺は自体を認識した。


霊界探偵、それが浦飯幽助の正体なのである。



   ***


「あーもー、こんなぺろっと口をすべらせちまって、その上トーナメントに連れてけだなんてコエンマ様におこられちまよう」

すっかり秘密をあけっぴろげにしてしまって、ひんひん泣いているぼたんさんに、俺はケラケラと笑った。「笑い事じゃないよ。そもそも、なんできつねくんはあたりが水先案内人だってわかったんだい?」「においでわかるよ」「いい鼻してんだねえ」

お姉さんびっくりだよ、と鼻を押されて、ちょっとだけびっくりした。「ぼたんさん、俺もトーナメントってとこに行くからよろしくな」 妖怪のくせに、人間界で試合だなんて変な話だ。頼んだぜ、と親指をつきだして、むんっと胸をはってみた。ぼたんさんはきょとんと大きな目を見開いて、「あのねえ」 またぶひっと鼻を押された。

「暗黒武術会ってとこは、それまだこわーい妖怪たちがたくさんいるんだ。あんたみたいなちみっこが来ちゃいかん場所なんだよ?」
「問題ねえよ。俺も妖怪だもん」
「こりゃまた」

冗談が下手くそなおこちゃまだねえ、とぶひぶひ鼻を押され続けた。失礼なねーちゃんだった。