天魁星)

はっと見開いた目を、何度かぱちくりと瞬きさせる。
(いや、違う)

随分と自分の目はなまってしまったものだと、ため息をつきそうになった。




私が、はっと息をのんでいる間に、彼女はにっこりと微笑んで、二度目の「薬屋さん?」と問いかけた。作りかけた笑顔を口に貼り付けていた私は、今度こそとにっこりと口元をあげて「ええ、丁度準備も終了しまして」といいながら、準備中と書いて立てかけた札をぺったりと倒した。
「小さいのに、偉いのね」と微笑む彼女に、「なにぶん育て親もいませんで。こうするしか」といつもの調子で口をペラペラと動かした。ごめんなさい、と目を伏せった彼女に、「いえいえ。それよりも、どうです。お一つ」

ちょいちょいと手首を動かして、トントントン。小さく別けられた袋を、彼女の前へと並べる。カサリ。中に入れた葉っぱの音が、静かに聞こえた。

「あら、随分変わったおくすりなのね」
「はい。こうやって、まとめて売った方が、お客さんも楽でしょ。おくすり6、みたいな」
「お一つ頂こうかしら」
「まいどっ」


少しも着飾るものはないのにさらりと流れる髪の毛や、流れるような動作に気品が現われている、と思った。ぱちんっ、と軽い音を立てながら財布の縁を開く音でさえ、彼女にかかればどっかの凛々しい貴族様の行動に見えてしまうのだから、なんだか笑えてくる。くくっ、と声が出そうになった所を、軽く肩が震える程度でとどめておいた(商売人の名が廃るからね)

確かに、と彼女から受け取ったポッチを握りしめた。ありがとう。と、私が詰めておいた袋を、カサカサとならしながら、去ろうとする彼女の横で、また水が、ぽちゃんとなる。



「ああ、お姉さん。ちょっと待って、おまけを忘れてます」

桶の中に手をつっこんで、ぐるぐると回した。現われる波紋に、ふんっと鼻をならしながら、不思議そうな顔をして「おまけ?」と聞こえた声に、「そうそう、おまけ」

「女の人は好きでしょ。占いですよ」
「いえ、私はそういうものは信じないようにしてるから」
「聞くだけ損はないですから、大丈夫。追加料金なんて取りません」
「でもね、きみ」
「それにどうやら、お姉さんは、自分のなすべき事を理解しているらしいから」

きゅ、と綺麗に整った眉がつり上がったのを、私は見た。それを見て、ああやっぱり。なんて思う。ぱっと燃え広がる炎のような、けれども天魁星とはほど遠い、小さな小さな燃え始めた炎の色。水なんてぶっかけたら、今すぐにでも消えてしまいそうなものなのに、面白い事に桶の水は、彼女をおそれて、ぶるぶると小刻みに波紋を広げ続けている(随分変な人だ)


「お姉さん、あなたのような小さな炎は、どっかで消えてしまうだろうね」


あら、と。面白そうに、彼女の唇はにんまりと形を作って、「それで?」と首を傾げた。思わず私も嬉しくなって、「えっとね、」と彼女のように、にんまり。

「でも安心して。お姉さんの炎は消えてしまうけれど、次の炎へと受け渡される灯火だよ。だから見逃さないで、あなたが消える瞬間をね」
「随分と面白いおまけね」
「ありがとう」


褒めてないんだけど。と聞こえた声は聞き流して、ふふっと笑った。「ねぇ、お姉さんの名前は?」「私はオデッサ。宿に泊まっている旅人みたいなものね。あなたは?」「私? 私は、。しがない薬屋ですよ」
この体で、初めて他人へと感触が懐かしくて、また笑ってしまった。おかしな子ね、とオデッサが呟いて、「ええ」と笑う。

「私からも一つおまけよ。、あなたもう少し格好に気を配らないと、まるで男の子よ」


すっぽりと肩をすぼませながらのオデッサの言葉に、苦笑いしか出てこなかった。




2007.11.25