お前か、ここらで薬を売りさばいてる流れのガキってのは」

随分ドスのきいた声だ、と思った。





確実に私の背丈ほどある一本の大きな剣を肩に背負って、ガラの悪い瞳をこっちに近づける。(はぁあ)思わずため息を一つ吐いてしまった。だめ押しとばかりに二、三人にやりとした顔をして、ぞろぞろと続く様は見ていて目に毒だ(失礼ながらね)

「憲兵の方、とかじゃありませんよね」

念のため確認。いつも通りにシートをひいておくすりを売ろうとしていたとき、突然大きな手に掴まれて路地裏へと強制的に移動させられたのだ。こんなマネいくら今の政治が腐ってろうとなんだろうと許されることじゃない。「いいや違うな」 その後ろに立つ男の一人が「ここら一帯は、俺たちの元締めなんでね」予想通りにも行きすぎた答えに、またため息をつきそうになった(つまり、ショバ代を払えって事なんだろう)

「いくらですか」
「5万ポッチ」

(高い…) にやにやとし続ける彼らを見つめて、芸もなくそろって同じものの大剣を三つ(もしかしたらそれが彼らの目印なのかもしれない) はぁ、とため息をもう一つ吐いた。「しょうがないな」「払う気になったか、坊主」「いいや」

「あんた達みたいな人種は、あんまり好きじゃないんでね」


懐のうちに隠すようにして入れていたショートソードをカキン、と音を立てて取り出した。「そんな小さな刃で     !」 いい終わらないうちに振り下ろされたあっちの大きな剣を、ほんの少し斜めにさせた私の刃で、ギリギリと音をたてて受け流す。ほんの少し散った火花と刃に、閉じかけた相手の瞳のうちに、片足をごすっ!(こいつら、大したことないな)

地面にしっかりとキスをした男一人に、残りの二人が大きく目を見開いて、「ガキが…っ!」 調子に乗ってるんじゃねぇよと聞こえた声に、こっそりと「私にとっちゃ、アンタらの方がガキなんだけど、ね」
同タイミングで振り下ろされた大剣に、一歩とんっと身を引いた。ガキンッ! と音をたてて、めり込んだ一人、方向を変えてこちらへと垂直に動きを変える一人。「若いなぁ」 横に振り切った刀は剣が大きな分スピードも威力も落ちる。そのまま左足を横へと伸びる刀の上に    「くっ」

沈み込んだ地面の上に、男が剣を握る両手に、ショートソードと持つ方の反対の手をすっと伸ばした。
「お兄さんソレ、水かい?」
男の返事の代わりに、茶色い土の色にそまった手袋の下からぽっと青い光が灯る。「お兄さん」 ついっと紋章の上をなぞるように 「お兄さん、水の紋章でこんな事が出来るって知ってるかい?」


大きく青の光が目の前を覆う。ぐるぐると何度も不規則な形を作り、大きく、「凍っちゃえ」呟いた声に、答えるように。
がらん、と音を立てて地面へと滑り落ちた大剣。「なんだよ、これ」 大きな氷が腕の周りを覆う。(随分久しぶりなんだけどね)

「お兄さん、今私がお兄さんの両腕を力一杯叩いたら、どうなってしまうんだろうね。氷だけ砕け散るのかな。それともお兄さんの腕ごとかな。試してみようか、ねぇ」


さっさとどっかに行ってくれる? そんな言葉を言外へと込めたのに、残り一人には通じなかったらしい。地面にぐっさりと刺さったままの大剣を、力一杯かけて抜き上げる。そのままこちらへと抜け走る様子を見て、面倒くさいなと舌打ちをする前に、大きな影がその男を覆ったのだ。

「おいおいお前ら。大勢でガキ一人取り囲んでこりゃねぇぜ」

ボサボサの髪の毛で随分大きな体の男は、その駆けだした男の片手をぐいっといとも簡単にひねり上げた。「ああっ」 喉の奥からすりつぶしたような声が聞こえて、ピクピクと動く男のその指先から大剣が、ガラン!
    お仲間連れて、さっさとうせな

にやりと笑った熊のような男に、こっちまでつられて笑ってしまいそうになった。

「何のご用ですかね、お兄さん」
逃げるように(いいや、実際逃げていたけれど)男達が去った後、言葉を選びかねてそいつを見つめた。人の良さそうな顔、朗らかな顔とは言い難いものの、どこか頼りがいのある男といえると思う。(なるほど。この人も星に好かれているね)

「いいや、ガキが一人連れ込まれたのを見たもんだからな。ちょっくら様子見としたら、随分面白い事になってやがったんだ」

豪快に。そう笑った彼に、随分正直な人だ。と、また、こちらまでクックと笑ってしまう。「まぁいいや。坊主、俺は解放軍ってのを探してンだがお前しらねぇか?」

本当に、豪快な人らしい。




2008.02.10