「お前さ、いつまで寝てんだよ」
うっすらと開けた瞳の先には、いつもと変わらないように、それでも出会った頃よりも、格段に動くようになった表情で、少年はゆらりと笑った。
ざらりとした茶色い地面の上に、薄い布を開いて、一つ一つ道具を確認していく。「目ぇさめたかー」
ぺしりと叩かれた手のひらを、じっと見詰めて、ああそうだ、私は彼と旅をしていたんだと気づいた。
「あのさ、何度もいうけどね、私と一緒にいない方がいいよ」
「なんでだよ」
「だから、呪い」
分かってるでしょ、と首をこきりと動かして、彼を見詰めた。彼はふん、と鼻で笑うと、「ンなの今更なんだよ、俺には」
すっかりと目が覚めた私の前へとずかずかと近づき、手袋を外した右の手でぐっと私の頬を掴む。そこの部分だけ、ほんの少し暖かくなったような気がして、少し恥ずかしかった。
「今更なんだよ。分かる? 俺はお前と一緒にいたいんだって。何度いえばいいんだよ」
頬を捕らえられたまま、近づく彼の顔を、じっと見詰めて、「俺は」こそりと。耳に囁かれた言葉に、肩を震わせた、そして
「いつまで寝てんだー」
野太い声が聞こえた。
久しぶりの柔らかいベッドの真ん前には、ぼさぼさした髪のおじさんがこっちをじっと見詰めていた。「………テッドが、おじさんに」「ああ?」
何いってんだ、と首を傾げられて、頭の中で、はっきりと、意識が保ってきた。夢オチだなんてひどい。掴まれた頬の部分が、今更ながらにドキドキしてくる。
「さっさと出るぞ」
必要なものはこの身一つだといいたげに、腰へと差した大きめの剣をガチャガチャと差し込んだ後に、髪の毛をかきむしっている。(………あー)
「熊さん」
「ビクトールだ、坊主」
「です、ビクトールさん」
急いでベッドから飛び起きると、商売道具を背中のリュックへと詰め込み、ビクトールと同じく、ぼさぼさの頭のままに飛び出した。いちいちといでいたら時間がかかるし、坊主と思われていた方が都合がいい。
先払いをしていたので、宿の店主からは「いってらっしゃい」と軽く手を振られるままで、出発した。大きな体を持つビクトールの隣を、私はちまちまと歩く。
「どこに、行きましょうか」
「解放軍がいるところだな」
「分かれば苦労しないんですけどな」
「ホントになぁ」
ビクトールは、ぼりぼり、ともう一回頭をひっかいて、本当に困っているんだろうか、と思わせてしまうような、あくびをひとつかきながら、私と道を進んだ。
(本当に、テッドはどこにいるんだろう)
2008.08.27