「ビクトールさん、食べ過ぎです」





たらふくつまれた酒場の皿とカップの数に、思わず私は眉をひそめた。「ケチな事いうんじゃねぇよう、坊主」と上機嫌なビクトールに、それを払うのは、全部私なんだからな、と叫びたくなってしまう。
けれども、宿泊代そして食事代を払うという条件で護衛を頼んだのは、私だ。

「ケチっていいますかね、金銭面の心配をですね」
「大丈夫だろ、解放軍にまで行きゃあ、なんとかなる」
「その解放軍の場所がわかんないっていうか……」

ビクトールさんが堂々と座り込むカウンターの隣へと、よっこらしょと短い足を頑張って動かして、ちょこんと座り込んだ。ギシギシとなる質の悪いイスへと頑張って座ったっていうのに、テーブルの高さはやっぱり高い。板へとついた模様が、しっかりと見えてしまう。「あ、すみません私ジュースで」


やっぱり当てもなくフラフラと探し回るのは駄目なのだろうか。そもそもビクトールも私も流れの人間で、ここら辺の地理にはそんなに明るくない。地図でもあれば、と考えても、このご時世にそんなたいそうなもんを持っているのは、国を統治している人間達くらいだ。手に入れるのも難しい(地図職人、なんてここらにいないよなぁ)

「まぁ歩きまわっているうちに、分かってくるさ」

とゲラゲラと笑う彼は、ただいまとても酒くさい。始めのうちは我慢でもしていたのか少しは遠慮をしていたが、今では半径1メートルにも近づけば、ぷんぷんと匂いをまき散らす。酒に強いというところが、唯一の救いどころで、私のお財布の中身が減る原因だ。

「………やっぱり、首都かなぁ」

各地でちょこちょことせこい動きをしているもんだから、ある程度そこいらに散らばっていると見た方がいいだろうな、と考えていたというのに、中々頭が回るのか、尻尾のしの字も見せやしない。

「そんな帝国のお膝元にいるもんかね」
「よくも悪くも、情報は集まりそうなもんです」

たぶん。ふう、とほおづえをかいて、「あいよ、ジュース」と渡されたオレンジの液体を、ごくごくと口の中に飲み込んだ。
同じくとなりでごくごくとビールで喉を潤すビクトールが、ちらりと私を見詰める。
「で、首都ってったらどこにある」「………どこなんでしょー」

ううん、とひねっていると、「あ、ビール追加」となりで陽気に聞こえる声に、勘弁してくださいな、といおうとした声を、また飲み込んだ。
そんな姿を、店員が妙な苦笑いで見詰めながら「お客さん、お子さんそろそろ眠いんじゃないの」

そういえば夜の蚊帳も落ちている時間帯だ。そうなのか? とビクトールは私へと向き合って、多少は眠いが、我慢できない事もない、と首を振った。

そんな私へ、ビクトールは、ぽん、と頭へ手のひらを乗せると、「ガキが遠慮するもんじゃねぇな」と地声のまま低く呟き、「じゃあ宿行くか」
もちろんお金を払うのは私なのだが、大きな手のひらで、ぐしゃぐしゃと撫でられて、なんだかどうでもいいような気分になってしまう。

店員に、こっそりと「酒豪なお父さんで大変だ」と耳打ちされて、はは、と乾いた笑いが響いた。


2008.08.27