「オデッサさん、ちょっと南に行ってきます」

ローブをはおい、いそいそと準備をして彼女へと告げた。少し目を開いた彼女は、「………何故?」 首を傾げる。ポーチの中にちょいちょいと必要なものを入れ込み、さっと私は立ち上がった。
「薬草を採りに行ってきます」


解放軍は、金がない。なので薬の材料も買えない。だったら直接採りに行くか、安く売られている場所へと足を伸ばした方がいいに違いない。気候的な問題だろう、あちらの方が質もいいし、値段もいい。余れば北へと売ればいい。保存が利くものにすれば、何の問題もないだろう。

旅費の方はお気にならさず、と彼女へと声を掛け、そそくさと薄暗い水路へと足を伸ばそうとしたときだった。「ちょっと待って」せっぱ詰まったような彼女の声が聞こえる。

「………一人で?」
「え、はぁまぁ、一人で」

沈みかえった空気に、暫く彼女と見詰め合っていると、オデッサは腕を組んだまま、ううん、と首を傾げた。そして背後の扉へと振り返り、「フリック、フリックいるかしらー!」

何を、と眉をしかめるのも数秒、あわただしく無理矢理に石畳へとたてつけられた扉が開き、「どうしたオデッサ!」 青いマントとバンダナが姿を現した。慌てたようにおっぴろげられていた彼の口元は、私を確認した途端にとり作ろった如くだまりこみ、しゃんと背筋を伸ばした。

「ちょっとね、彼女について行ってくれないかしら」
「は、ちょっとオデッサさん」

護衛かなにかのつもりなのか。そんな事で副リーダーを連れて行く程の事でも何でもない。ぎょっと目を飛び出して、いやいやいやと手を振っている私の向こう側に、それ以上に混乱したような顔をして、呆然と立ちつくしているフリックが目に入る。話についていけないとでもいいたげパチパチと瞬きを繰り返した。「こいつと?」という一歩前の体勢で、指をぐいっとこちらに向け固まった状態なのが、なんとも泣けてくる。


「お、オデッサ」

やっとこさ非難めいた声を上げた彼に、オデッサは軽く片目を瞑った。
ウィンク、ぱちり。


「南に、行くそうよ。丁度アナタも用事があったじゃない」

          ………なんの?

今度はこっちが閉口する番だった。





ひゅるり、と流れる風は寒い。私は自然の法則のように、ローブに顔をうずくめ、「おー、さむいさむい」と口元を小刻みに震えさせながら呟いた。隣にちょんと並ぶフリックは、心なしかしかめっ面で寒くないのか、背をしゃんと伸ばし、じぃと目の前を見詰めている。
一瞬、ぶるり、と腕が震えたのが見えた。やっぱり寒いらしい。
南に行くのなら、多少は暖かくなるだろうか。

予想外にも、何の文句も付けず、地下から宿屋へ、宿の店番に、「いってらっしゃい」と見送られ、それにちょいと会釈した程度で、彼を街中を歩いてきた。
目の前を通る馬車へと向かい、橋の、ちょいと影になっている道へと私たちは歩く。
(乗るのだろうか?)

けれどもすぐさま彼はその隣を通り抜け、一瞬足をゆるめた私は、「あっ」と慌てて腕を動かし、彼の背中へと向かう。
そして彼はピタリと足を止め、ぐるりとこちらへと向き直った。

「………馬車は、使わないぞ」
いいか、と念押しするような問いかけと、それでもいいのかとほんの少しの疑問を投げかけるように彼は呟き、私は即座に「はい」と首を縦に振った。
元々、そのつもりだったのだ。

「そうか」
そして歩くフリックの後を、小走りで私は追いかけ、腰に付けた道具が、ガチャガチャとならした音が勢いよく響いた。





2008.11.01