暗く狭い天井裏に、ふうと一人ため息を吐いた。
あれは失敗だった、と頭が痛くなった。まさかあんなに簡単に鉄枠がはずれてしまうとは思わなかったのだ。どこもかしこもしっかりと作られているくせに、とぶつくさ文句をいってもしょうがない。失敗は失敗だったけれど、落ちた先に居た少年は、不機嫌とも呆れたともいいづらい顔のままパタパタと手を振る私を見詰めていた。
「見なかった事にしてね」
と捨てぜりふを投げたものの、そんな訳にはいかないことくらい一応理解していた。とにかく彼の部屋の場所から遠い場所へと逃げようと動く度に、ギシギシと音がなる。………ううん、この音ちょっとまずいかもな。
(ネズミか、何かだと思ってくれたら、いいんだけど)
そう上手くいくだろうか。
はぁ、とついたため息に、そういえば少年は銀色のトレーに、美味しそうなご飯をのせていた事を思い出した。食堂か何かあるのだろうか。よいしょ、よいしょ、と体を移動させ、つまりは人が多いところを探せばいいのだ、と気づく。
それだけ人が多ければ、熱気もこもるだろうし、音もたくさん聞こえるに違いない。
ほとんど勘のまま歩き回っていると、この間の少年の部屋と同じ、鉄枠がはめられた場所を発見した。たくさんの調味料の匂いが混じっていて、これはビンゴかな? と、この間と同じ失敗をしないように、そっと鉄枠に手を添えた。
じんわりと明るい、光が漏れていて、そっとのぞくと、茶色い髪でキノコカットの男の人が、せかせかと動き回っている。
(料理人さん、かなー)
青くて清潔そうな服装を見て、忙しそうだなぁ、と呟く。それと一緒に、くるくるくる、と情けないお腹の音が響いた。
「うむ」
丁度男の人が、食堂だかどこかへと料理を運びに消えてしまったとき、ゆっくりと鉄枠に手を添えて、なるべくおおきな音がたたないようにと軽く力を入れる。ガゴンッ
響いた振動と音は、この間とは違い、随分小さかった。(よしよし)
そのまま顔をつっこんで、両足を枠へとひっかけたまま、銀色に光る厨房に乗っかった、赤いトマトへと手を伸ばした。頭に血が上ってしまう前に、よいしょと体を起こして、またまた天井裏へと戻る。
懐から取り出したポッチを、ちゃりんちゃりんと落として。
かぷりとかぶりつくと、甘い味がした。
昼時になると、くるくると脳みその中身が回転しそうなほどに忙しくなる。フンギは軽くため息を吐きながら、額へと浮かんだ汗を、服の裾でぬぐった。
どこも同じような忙しさだ。海上騎士団にいたときも同じようなものだった。
そもそもフンギは他人のために何かをするという事が苦痛ではない。寧ろ誰かにおいしいといわれた方が、やる気が出てくる。うん、と頷きながら、次は厨房に置いておいたトマトを切ってサラダにしないと、辺りを見回しても、たくさん詰まった食材の中に、置いておいた熟れた赤い色は、どこにも見あたらない。
おかしいなぁ、と首をひねっても、トマトが出てくる訳ではないので、しょうがない、と積んであった段ボールへとトマトを取りに行こうとした時だった。
足下にきらりと光る硬貨を見詰めて、手のひらでそれをすくう。
右手で裏と表を返しながら見てみても、なんの変哲もないただのポッチだ。
誰かが落としたのかな、と考えながら、そういえばがネズミが出る、といった言葉を思い出した。ネズミがとるには、いささか大きなサイズかもしれないけれど、もしかしたら、それがとっていってしまったのかもしれない。
「………この頃のネズミは、お金を払うのかなぁ」
呟いた一言は、随分マヌケに聞こえて、気のせいか、天井裏でカサカサと小さな音が聞こえた気がした。
2008.08.28