基本的に、天魁星に集まる人間ってのは、どっか変わっている変人が多いのだ。私の今までの経験がそう言っている。
船に乗り込んで数ヶ月。体中を埃っぽくさせながら、あいも変わらず私はごそごそと天井を這いずり回っていた。私には使命がある。それを果たすためには、天魁星の、星々の近くにいなければならない。けれども別に、それはこんにちはー、と隣人さんとお話するような近さじゃなくって、距離的に近ければ、全然問題ないのだ。
ごそごそごそごそ。
文字通り、今の私みたいな感じで。
***
「……なんとなーく、ここの住人の名前も覚えてきたような……」
リーダーの名前は。軍師はエレノア。ついでにリーダーと同じく、彼らをまとめ上げているのは、リノ・エン・クルデス。
(……聞いたことがある名前だなぁ) 確か、オベルの国主だ。なるほど。中々の有力者を囲ってる訳ですね。とうんうん頷く。ちなみに、料理人さんの名前を一番最初に覚えた。フンギさんだ。彼はこのごろ、各所にネズミ捕りの設置を頑張っているのだけれど、どうしたんだろうか。台所は私にとって、一番大事な場所である。ご飯は重要だ。ねずみがいるというのなら、なんとも許せない。成敗してつかまつる。
ふと、板の隙間から、声が聞こえた。「テッドくーん」 私はギクッとして体を硬くした。
「……なんだよ」
「一緒にご飯食べようよ! お腹減ったでしょ?」
「後で一人で行くからあっちに行ってくれ」
「今日はさんがマグロを釣ったらしいよ。はやく行かないと、なくなっちゃう!」
「さっさと行くぞ、のろのろすんなアルド」
「うんっ!」
(…………い、行った、かな……?)
私はごろりと体を丸めた。テッド。あの人の名前だ。ついこの間、うっかりゆるい鉄枠に手のひらをのせてしまて、マヌケにも私はあの人のベッドの上に落っこちた。潜入作戦、すでに失敗。なんたることか。とビクビクしていたのだけれど、あのテッドという少年は、『見なかったことにしてね』という私のお願いを、律儀に守っていてくれているらしい。自分で言っておきながら、まさか約束を守ってくれるとは思わなかった。
(……というか、こっちに興味がないのかな?)
さすがに不安になって、彼の周りというか、上付近をうろちょろしていたのだけれど、どうにも彼は他人との接触を極端に嫌がる傾向があるらしい。さきほど聞こえた青年の声
アルドという人は、そんなテッドと関わりを持ちたいらしく、よくよく彼の周りをちょろちょろとしている。(うーん、でも、中途半端なんだよなぁ……) 人に関わりたくない、と言っている割には、どうにも中途半端で、押しに弱い。どちらかというと、関わりたいのに我慢している。そんな感じだ。
私はカリ、と天井の板をひっかいた。「それに、あの気配……」 どこかでかいだことのある、匂いがした。遠い昔のことだ。何かがひっかかる。
おそらく、この天魁星は真の紋章を持っている。
そして、彼も。
(ま、そこら辺の事情を詮索したって、仕方ないかな)
井戸端に集まるおばさん達じゃないのだ。部外者になりたい私が、わざわざ鼻を聞かせて探ることじゃない。うんうん、と頷いて、私はコソコソとご飯を調達することにした。そろそろ、ちゃんとしたお料理が食べたいものである。
「まんじゅうおいしーい」
やっぱりほかほかのご飯はいいですなぁ、とほっぺたいっぱいにお饅頭をつめこんで、ニコニコお腹いっぱい幸せな笑みを浮かべた。やっぱり暖かいご飯はいい。いつものフンギさんの調理場から拝借するときと同じく、誰もこっちを見ていないところを見計らって、こそっと天井の排水口の枠をはずし、よっこらせ、と逆立ち状態になりながら、ひょいっとお饅頭をいただく。もちろん、お金は置いていった。
調理場に比べて、ここは人が多いので遠慮していたのだけれど、案外なんとかなるかもしれない。次からまたここに来よう、ともぐもぐカニ味のするお饅頭をいただいていると、「あらら?」と下で女性が首を傾げるような声を出した。
枠から覗くのは、ちょっと危ない。私は天井にぴたっと耳を当てて、彼らの声を聞く。つまり、お客さんがカニ饅頭を頼んだのにまんじゅうはない。けれどもお金がある。最後の一個だったのにごめんなさい、ということらしい。言い訳するまでもなく、私の所為である。
(ま、まあ、私はお金、払ったし……)
ごめんねー、とカニ饅頭を頼んだらしき、天井越しで見えない男の子に、両手を合わせてへこへこ頭を下げた。瞬間、男の子が、小さく呟いた。「…………饅頭の、匂いがする……」
ぎく、と体が飛び跳ねそうになったのだけれど、まさか私な訳がない。そりゃあ、饅頭の匂いはするだろう。目の前が饅頭屋なのだから。けれどもなにか気になる。どうにも心臓が嫌な音を立てる。僅かな板の目に、そっと瞳を合わせた。ぼんやりと活気だった景色が見える。その中で、赤ハチマキの男の子がじいっとこっちを見上げていた。「…………!!!???」「カニの匂いが、天井からするような……気のせいかなー?」
い、いやいやいやいや。
ないないないない。
どんだけ鼻がいいんだよ! どんだけお饅頭に執着しちゃってるの!
うわあああ、うわあああ、と私はバタバタ暴れるように、けれども音を立てないように、即座にその場から逃げ出した。あの姿と声は、天魁星の。この船のリーダーだ。
おそろしい。やっぱり天魁星は曲者ぞろいだ。うわあああ、うわあああ、と慌ててにげ出しながら、お饅頭をいただくことだけはやめておこう、と私はそっと心に誓った。
恐るべし。天魁星。
2012.01.05
お正月リクエストで、幻水4で4様と小ネタだったんですが、あんまり4様出なかったごめんなさい。