03She was disappointed by the lack




「かわいい、、かわいい」

シーナはゆっくりと目を細めて、ああ、本当にこいつは可愛いなぁ、なんてことを思っているような表情をした。人さし指と中指をまあるく折った形で、私のほっぺたをゆっくりとさする。「やわらかい」 するすると優しく私のほっぺたをさすって、ぺろりと暖かい舌が、私の耳をなでた。
     うひゃあ!

びっくりした自分の声はきいいん、と耳の奥で響いて、気づけば布団をぎゅっと握りしめている訳で、知らずに熱くなってしまう私のほっぺを隠すように、布団の中へと潜り込み、おまんじゅうみたいに体を丸めた。 (私は、思春期の男の子かー!!!) やばいね。これ泣けるね。




手洗い場の鏡に、高めにちょんとくくった私の髪の毛が見えた。頭を揺らすたびに、ふるふると動く髪の毛は、さながら馬の尻尾。ポニーテイル。
外見に無頓着な私は、自分でも珍しいなあ、なんて思いつつ、馬の尻尾をゆっくりとなでてみた。慣れない手つきでくくった尻尾は、ちょっと斜めにずれている、かもしれない。うー、うー、唸って、直して、また見る。(……かわいい、とか) ぽっ、と頬が赤くなる。(ちょっとくらい、思ってくれるだろうか)

そんな自分の思考に気づいて、ぷるぷる頭を振った後に、ぱしぱし頬をひっぱたいた。違いますから、これただの気分転換なだけですから、この頃ちょっと髪の毛が邪魔かなぁ、とか思ってただけですから。シーナとか、全然、関係ないですから。

そんな風に頑張って思い込まないと、私の足はまったくもって動かなかった。好きな人の前だとかわいくしたい、なんで女子の思考は万国共通なんじゃないの。でもガラじゃないかもしれない。恥ずかしい、すごく。いや、これガラじゃない。すみません。なんかもうすみません、私なんかががんばっちゃってすみません、みたいに世界中に頭を下げてしまいたくなる気分だ。

コトコトと廊下を歩きながら、それでも不思議と愉快になってしまう、矛盾した気持ちに一人で首をかしげた。こんなもん、なんて思いながら、なんかちょっとだけ、うれしい。
(もしかしたら)
      かわいい、
そう言ってくれること、期待してるのかもしれない。

このやろう! ばかちんが! 期待すんじゃねえ!

一人でぶんぶん首を振って、塞ぎ込んでしまうように、曲がっていた背中をしゃんとのばして、胸を張った。瞬間だった。


「あれ、


馬の尻尾が、ぴょんっ、と揺れる。
一緒に、心臓が、どきんっ、と跳ね跳んだ。ジャンプした。
思わず顔を下に向けて、頭の後ろへと、隠すように手を持って行った。隠せる訳ないのに。
「おはよう」 とシーナはなんともなしにいつもの挨拶をして。「うん」と私も頷く。あ、もしかして。(気づいてないのかも)

そんなもんかもしれない。私が一人でわーわー騒いでて、それだけで、実際はそんなもんだ。シーナだったら、もしかして、目ざとそうだし。そんなこと考えてたのに、私にとって、こんなにおっきな変化は、他人にとってはとっても小さな変化な訳で。
きゅっ、と胸が締め付けられる。ふわふわ気分はくしゃっとちり紙のように丸められて、きゅー、きゅー、とどんどん胸が痛くなる。(恥ずかしい)そうだ、これは(恥ずかしい気持ちだ)
一人で勝手に騒いで恥ずかしい。


じゃあね、とそのまま誤魔化すように、足早にかけぬけようとして、今、まさに気づいたような、そんな声で、シーナが「おっ」と声をあげた。「、髪、変わってる」

「変わらんわ!」 かわいげもなく、反射的に言葉が出てしまって、「いやいや髪型」と言い直すシーナの言葉が、ふわふわ情けなくも私の体を軽くした。
きょとっ、と珍しくシーナが視線をふらふらとさせて、ぱくりと唇を動かした。けどやめた。言い淀んだ。んー、とぎゅっと目をつむった。

そんな仕草がなんだかおかしくて、可愛くて、「どうよ」 でもやっぱり、私の言葉は可愛くない。
ぎゅむっ、とつむっていた瞳を、ゆっくりと開いたシーナは、喉の奥で、「かっ」なんて、乾いたような声を出したような気がしたけれども、なぜだか直ぐに怒ったような表情をしたそいつは言った。「似合わねぇなー」

「あっそう」 あんたなんてどうでもいいのよ。無意識に、そんな風なニュアンスを精いっぱい込めて。ぐるりとシーナに背を向けて、にじんだ瞳を誤魔化すように、たかたか速足で、逃げ出した。うるせえな、馬鹿シーナ。(あんたなんかきらい)
胸が、ぎゅううっ、と痛くなる。


  

執筆日 2010/01/02

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