04He felt regret for having been rude




そろそろだ。そろそろがこの時間、この場所を通る時間なのだ。
俺はがいつ起きていつ寝て、いつどこを通って、いつ飯を食べるか、だいたい頭の中に入っている。おいおいどこのストーカーだ? と訊かれたら、ぐっ、と言葉に詰まるけれども、言い訳させてもらいたい。違う。これってあれだろ? 日常生活、における全部のことを、耳をダンボにしながら聴いていたら、結構わかるもんなんだ。だから。そろそろ。会える。偶然を装え。いけ俺やれ俺。

ああ奇遇だなぁ、、今起きたのか、俺も今から飯くいに行くとこなんだ、なぁ一緒にいかね? 頭の中で精密にシミュレートして、なんだようるさいなぁ、なんて顔をするも想像する。ちょっとの可能性も全部想像して、あますところなく想像して。

それだけで、なんだかおなかがいっぱいな気分になり、もひもひご飯を食べるも想像して、ううう、と悶えて死にそう。そんなの何回も見てるのに。
こないだは、ちょっと寝癖がついていた。あのときは、そんなことできなかったけれど、「おい、寝癖ついてんぜ」なんていって、ちょいと髪の毛に触るってのはどうだろうか。「やめろ!」と即座に返ってくるであろう返答に、胸の中がぐっさり痛くなるような気がするけれど、それでも、触りたい。いいだろうか。触りたい。


そんなことを想像している間に、そろそろとすれ違うであろうポイントへとやってきてしまった。思わずぐっと目をつむり、どこどこ体からなる音もしずめて、静かに息を吐き出す。おし俺。今日こそ俺。の前では、いいかっこがしたいのだ。俺、今日もかっこいいよな?

くわっ、と目を見開くと、すぐ近くに
あ、


彼女の頭に、馬の尻尾がはねていた。

「あれ、」 さも奇遇だというように、勝手に体は取り繕って、その間にも、目の端っこは、を凝視する。なにこれ。おはよう、という俺の挨拶に、彼女はぴこんっ、とはねて、それと一緒に髪もはねる。なにこれ。(かわいい)

ちょっと普段と違う髪型をしただけだってのに、なんでこんなにかわいいかわいいと思ってしまうんだろう。このままがばっ、と抱きしめてしまいたい衝動にかられて、こんなシミュレートなかったぞ? と自分でもわかるくらいに混乱した。混乱している。だってかわいい。

え、なんだっけ? 朝飯? さそうんだっけ。ちょっと待って、どうやって誘えばいいの、なんだっけ?

わからん、どうしよう、なんでそんな可愛い髪型してるんだ。いつだってかわいいけど。
いや、無理、撤退。いやいや。


そのままがばっと横を通り過ぎようとする体に、いやいやいやいや。と首を振って、「おっ、、髪、変わってる」 なんて、それが俺の精一杯だった。
もっと他に言いようがあるだろう。ほらみろ、が怒ってる。けど、もしかして、いちいち俺にそんなことを指摘されて、怒ってるのかもしれない。
女の子は、服装とか、髪型とか、かわいいね、なんて言われて喜ぶイキモノなんだって思い込んでたけど、は違うのかも。そうだよな、好きでもない男にいちいちそんなこと言われたら、ウザイだけかも。

しんそこ、の考えを知りたくなった。になって、俺のことどう思っているか、知りたくてたまらない。けれどもどうせ、そこら辺の一般ピーポー(一応命の恩人だから、もうちょい上?)な価値観だろうから、なんて分かってること自分で考えて凹む。へこへこだわ。でもやばい、かわいい。目ぇつむろう。だめこれ直視むり。「どうよ?」 なにが?


考えて、これどうよ? と自分の髪型について訊いてきているんだって分かった。なんだろう、これは、素直に似合ってるって、かわいいって言うべきなんだろうか。「かっ」 いやいや、ちょっと待ってください。え、言っていいの? どんびいた顔しない? いいの? 言うよ、言いますよ、ほら 「似合わねぇなー」 なんで、俺。


これは、一番言っちゃ駄目な言葉だろう、と自分でもわかってた。けれども、勝手に口が動いてた。正反対の言葉を言ってた。
が、見るからに、しょぼくれたような顔をしたのが分かる。そうだろう、似合ってないなんていわれて、すねない女の子はいない。嬉しい女の子もいない。

ごめん、ちがう、間違えた、なんていうべきなのに、何が間違えたんだよ、馬鹿ですか、と自分で考えている間、「あっそう」なんて不機嫌そうな声を出して、くるんと背中を向け、行ってしまった。後悔しまくって、自分の中で、ああしときゃよかった、なんて色んな気持ちがぐるぐる回って、過去の自分の行動を、思い出して、こうしてたら、なんて妄想に入る。だめだ、俺。ああ、もう。


色んなを思い出した。笑ってるとかが主で。それで、俺しか知らないも思い出した。最初、全然しゃべらなかった。行くとこもなくて、ずっと、びくびくしてた







「あ……」

女の子を拾った。小汚いガキだった。あんまりにも小汚かったので、服を買ってきて、宿の床に体育ずわりをしていたそいつに、ほら着ろよ、と投げつけるように渡すと、そいつは(って名前って言ってた気がする)困ったような顔をして僅かに声を出し、視線をきょときょととさせて、投げつけた服をこっちへと突き返すように、両腕を出した。

意外にも白くて細い両腕を見て、なんなのお前、意味わからんのだけど。とじろっと見下ろすと、そいつはまたびくりと震えた。女の子には優しく、がモットーな俺でも、ちょっといらつく。どんな悪さをしたのか、憲兵に追われてたもんだから、思わず助けてしまったけれども、やっぱほっときゃよかったかも。

行く場所がない、なんていうから、思わず宿へと連れてきて、世話をしてしまっているけれども、別に俺はお人よしでもなんでもないので、さっさと追い出すべきなんだろうな、と頭のはしっこで考える。「着ろっつってんだろ、言葉つうじねぇの?」

多少いらつきながら言葉を吐いても、そいつは無言で服を突き返したままだった。(なんだこれ) ぎゅっと唇を噛んでいて、擦り傷だらけの顔をのぞく。おびえたような瞳は見てとれたけれども、それ以上に、意外にも気丈に、唇を噛んでいるそいつは、頑固なのかもしれないな、と気付いて、ふと分かった。「お前もしかして、俺に気ぃつかってんの?」
悪いとでも思ってんの。


返答は分かりやすくその肩がふるえて、あほか、と言いたくなる。もう買ってきてしまったんだ。俺の財布から逃げた金はもどってこない。ちゃっちゃと着た方がお互いのためで、その頑固さは、きっと反対に、俺に失礼だ。
ちっ、と軽く舌打ちして、そいつの両腕をつきだしたままの格好を上から見上げると、破れた服の隙間から、日に焼けてない肌がところどころ除いた。ガキのくせに、ちゃんと発育してんだな、と考えて、

「あほかお前、自分のカッコ見てみろ、襲うぞてめぇ誘ってんのか」

至極本音を口に出すと、ぼがん、と即座に真っ赤になったそいつは、突き出していた服を抱え込むように抱きしめて、ぎろっと俺をにらんだ。

はいはい、と適当に返事しつつ、部屋から出て扉を閉めてやると、あわてたようにばたばた着替える音が扉越しにも聞こえ、少々苦笑しそうになる。
結構本気で言ったのだけれど、どうでもよくなって、やっぱり笑った。



あのとき、もうちょっと優しくしてれば、との状況は違ったんだろうか。
最初っから、かわいいな、なんて言って、優しくして。
(今じゃ怖くて、手なんて出せないもんなぁ)

ちょっと。いやかなり、想像するけれど。
俺、若いし。



  
執筆日 2010/05/05