05Say, now I remember!




忘れないよ。覚えてるよ。何度も何度も思い返す。あのとき、ああしてたら、こうしてたら。そんなこと言ったって、しょうがないのだ。それでも思い返す。あのとき、あいつ可愛かったな、なんて。



汚いガキを拾った。おどおどしているかと思ったら、意外と気が強いときもあって、可愛くない。別に面倒をみる義理なんてないし、じゃあなとどこかで別れてもよかったのに、なんでか俺はこいつと一緒にいる。仮にもこのガキが女だということもあるのかもしれないけれど、自分でもよくわからない。こんなに可愛くないのに。

ガキ(、だっけ?)は、なんでもかんでも申し訳なさそうな顔をしていて、口数も少ない。なので、ときどきイラッとすることはあるけれど、多分、こいつはあんまり器用なタチではないだけなんだろう。そう分かっているのに俺はなんとなく、優しくすることができなかった。なんでだろ? 自分自身不思議だ。「おい」とか、「お前」とか。そんなぶっきらぼうな言葉しか出ないし、必要以上に、俺だって話しかけない。お互い様だな、と気付くほどには大人なつもりだけど、そこに行動がひっつくことができないくらい子どもだった。
まぁそれでも基本的に、どうでもいいかな、とか思っていた。俺にしては珍しい行動は、きっと食指が動かないってヤツなんだろう。


ぴよぴよぴよ、とは俺の後ろをくっついて歩く。ぴよぴよ。雑多な町の中は、にとって歩きやすいものではないらしい。店一つに気をとられたかと思えば、馬車に気をとられている。そしてハッとしたように、俺の後ろを目指してダッシュする。こいつどこまで田舎の出なんだ、とか思うけれど、別にめんどくさいから言っていない。

そのとき着ていた、指の先まで隠れるほどのぶかぶかな服は、俺のもので、胸元あたりまでもぶかぶかだった。身長的にどうしても見下ろす形になる俺は、その気にならなくてもその中を窺い見ることができる、と、思う。けれどもは始終胸元を押さえていて、最初に言ってしまった、「襲うぞてめぇ」がきいているのかと思うと、チッ、とか思う。余計なこと言った。
まったく、色気もないし、可愛くない。サービスくらいしろ。


ふいに、腹が減ったな、と思った。そう言えば昼時だ。「おい」と俺は後ろを振り返って、「腹減ってるか」と訊いてみた。は顔を思いっきり横へと振って、減っていない、と主張する。こいつ犬みたいだな、と思って、そうかと俺は頷いた。減っていないならまぁいいか。

出ていた屋台へと、適当に足を延ばして、一つ分握り飯を買う。その間、は後ろの方で犬のように待っていて、くるりと戻ると、何も言わず、またばたばたと俺の後ろへと駆けてくる。俺は特に声をかけるでなく、ぱくっ、と握り飯を一つ口に含んだ。ぐう。聞こえた腹の虫は、俺の音ではない。

俺は後ろを振り向くと、顔を真っ赤にしたが、口を一文字に結び、誤魔化せてないけど誤魔化すようにばたばた手を動かして、「あ、いや、あの」とか声にならない声をあげている。なんなんだこいつ。

腹が減ってんなら減ってるって言えよ。こいつめんどくせー。

「食う?」

俺はなんとなく食べかけのそれを差し出すと、は思いっきり首を振った。勢いよく。けれどもまた、ぐっ、と腹の虫が主張する。なんだか俺は呆れてきた。「ほら」
俺の呆れ顔に気付いたのか、はおずおずとそれを受け取り、ぱくり、と一口。雀の食べかけくらいに少しだけ口に含んで、返そうとしたそいつに、「全部」 食べろ。
は困った顔をしたけれど、じろっと睨むと、急いでそれを口の中へと詰め込んだ。
ごくん、と最後の一粒を飲み込むのを見届けて、俺は自分の分がなくなったことに気付き、もう一度と屋台へ足を運ぼうとした。けれどもその前に、なんとなく。

「うまかった?」

訊いてみた。
は、ぽっ、と頬を赤く染めて、恥ずかしかったのかな、と思った。けれどもそのあと、困ったように視線をきょときょと動かし、最後に俺を見て、へにゃりと。「……うん」 笑った。



きゅん
(…………あれ)

俺は訳も分からず、自分の胸を、ぎゅっと抑え込んで、うわぁ、と耳の端っこが、赤くなるのを感じた。意味がわからない、なんだこれ。









私は目を覚ました。ベッドの上でパチパチと何度か瞬きを繰り返し、見てしまった夢の内容を思い出すと恥ずかしくって、うひぃ、と思いっきり体を丸めた。馬鹿だ私。なんで好きな男の前で、腹の虫を聞かせにゃならんのだ。もちろん、そのときは違ったけれど。シーナのことは、好きっていうか、恩人っていうか、ありがたすぎて、申し訳なくて、どうしたらいいのか分からなかったのだ。
優しいなぁ、と思うと、胸の底が、ぽっと暖かくなる。優しいな。……大好きだな。

初めから、もっと素直になってればよかった。ありがとう、面倒みてくれて、ありがとう。そうやってお礼を言って、申し訳がってばかりしないで、にこって笑って。
そんな女の子の方が、可愛いに決まってる。こんな風にむっつりしてばっかりじゃ、嫌われても文句も言えない。やばい、嫌われるかも。初めから好かれてるかどうかもわかんないけど。にっこり笑って。そんな女の子の方が、魅力的に決まってる。
頑張れ。頑張れ。自分自身にエールを送った。私、頑張れ。頑張って、シーナに可愛いって思って欲しい。好きに、なってほしい。
面倒を見てもらって、命の恩人なのに、そんなことまで求めてしまう私は、多分とても意地汚い。最悪だと思う。でも、
(私、頑張れ)






久しぶりにいい夢を見た。にこっとが笑う夢だ。あのときの、可愛かったよなぁ、なんて思い返すとニヤニヤする。だって俺の服だ。そんでぶかぶかで、ちょっと恥ずかしげで、頬をピンクにして、にこっ。今じゃあ、頼んでも着てくれないんだろうなあ。

なんであんなにって可愛いんだろうなって思った。そうだ、あれがときめくってヤツなのかもしれない。俺って恥ずかしいヤツめ。
(なのに、似合わないはないだろう)
この間の自分の失言を思い出して、死にたくなった。やばい、嫌われた。ただでさえ、この頃呆れられてるような気がするのに。


コンコン、と部屋をノックする音が聞こえる。誰だ? と思いながら「へいへい」と扉を開けてみると、見覚えのある女の子が、顔を俯かせていた。「……?」 嬉しい。いきなりそんな感情が浮かんできた後に、はっとした。何かあったのだろうか。が、用事もなしで俺の部屋を訪ねてくることなんかない。よっぽどのことがあったんだろう、と喜んだ自分が恥ずかしくなって、「どうした」と硬い声で訊く。

は、俯いていた顔を、はっとあげて、泣きそうなのか、恥ずかしそうなのか、よくわからない表情をした。なんでこんな顔をするんだろう? と俺はよく分からなくなって、「どうした」ともう一回訊いた。ほんの少し、小さな声が聞こえる。「え?」 よく聞こえなかった。「……ごはん」 ごはん?

「ごはん、一緒に、食べない……?」

ぽつり、と間があって、俺はパチパチと瞬きをする。
その間に、は顔を真っ赤にさせて、「やっぱ、ごめん、なんでもない!」と一人で呟き、そのまま背中を見せて、逃げようとした。俺は反射的に彼女の腕を掴んで、「待った!」 と声を上げる。「一緒に行くぞ!」 振り絞った声は、ちょっと裏返ってる気がする。俺って情けない。


そうしたら、は真っ赤で強張った顔を、少しずつ柔らかくして、へにょり、と、笑った。「……うん」


きゅん
(……やべ)

片手で顔を覆いながら、やべ、やべ、と思う。抱きしめたい。やべ。
嫌われて、ないのかな、と思う。期待してもいいんだろうか、と思う。
やばいな、大好きだ。、大好きだ。
(似合わないなんて言って、ホントごめん)
俺、お前のこと、抱きしめたい。

  
執筆日 2010/07/04