さん!」
私は拳を握りしめながら、直談判の台詞を叫んでいた。目の前では、我らがリーダーが片手のんきにお茶を飲みながら、もう片方の手ではさらさらとペンを動かしている。部屋の端っこでは、マッシュさんも同じくペンを動かし、本を読み進めていた。器用な人達だ。「……ん? どうかした? 」「どうもこうもないですよー」

分かっているくせに、知らないふりをする我がリーダーだ。どうせ何を言ってもそしらぬふりをされるだろうからと、私はあえて単刀直入に言わせてもらった。「ディックさんの護衛です。私、どうにもディックさんに嫌われてるみたいですし……というか、そもそもディックさんに護衛がつく理由が分かりません」

私だって、彼への監視なんじゃないかとはうすうす気づいている。けれども、ああもあからさまに警戒されては意味がないだろうし、そもそも、監視をしろとなんてさんやマッシュさんから、何の指示も受けていない。ただ、護衛しろとだけだ。こんな宙ぶらりんな状況では歯ぎしりもしたくなる。

「……それで? 俺にそう言ったところで、は何がしたいの? 嫌だから他の人に代わって下さいって?」
「そ、そういう訳じゃ……」
「うん、違うだろうね」

さんは、ちらりとこちらを見ることもなく苦笑した。いくら理不尽な命令とは言え、リーダーからの指示だ。ただ、このままで大丈夫なのだろうか、と不安だ。ブックマンとの亀裂が、自分によってなされてしまうとしたら。「まあ、が何を考えているかは、ある程度察してるつもりだ。でもね、俺はきみが一番適任だと思うから、頼んだんだよ」

さんは、ふと書類から顔をあげた。そしてにっこりと綺麗に微笑みながら、「君なら大丈夫。頑張っておいで」




そんなことを言われてもなあ、とため息をついてしまう。
四六時中見張られてたら息がつまる、ということで、さんの許可を得た形で、ディックさんが図書館にいる間は、彼の自由を保障することにしている。その間は司書のユーゴくんがこっそりとディックさんを窺っていることだろう。正直覗き見みたいで、あんまり気が進まないけれど、しょうがない。
さんにも、何か考えがあってのことだろうし)

ディックさんとの約束の時間まで、はー、とため息をついてふらふらすることにした。ディックさんと、あんまり上手くやれる自信がない。どんどん情けなくなってくる。「……もっと、可愛い子とかの方が、ディックさんも嬉しいんじゃないかなぁ……」ビッキーさんとか。

「…………いや、ビッキーさんは、無理かな……?」
時々テレポートに失敗して、自分から湖の中に落っこちているので、護衛どころではないかもしれない。


「……お前、何さっきからぶつぶつ言ってるんだ?」
カツリ、カツリと階段を上がっていると、ふと、後ろから声をかけられた。位置が私の方が高いものだから、いつもは見上げる彼を見下ろしていて、なんだか珍しい。フリック兄さんが、呆れたような顔をしてこっちを見ていた。

「え? いやその、へへへ」
「へへへじゃない」
ぽかり、と軽く手の甲で、私の頭をなでるように叩く。私はケラケラと笑ってしまった。兄さんが、「何を笑ってるんだ」と口元を笑わせながら、今度は大きな手のひらでぐしぐしと頭をなでる。

そして、最後にポンッと頭を叩いた。「まあ、お前も戦士の村の子なんだから、しゃきっとしろ」そう言って、ニッと口元を上げながら去って行った。彼の腰にさしたオデッサが、僅かに揺れた。
(兄さんは、強いなぁ)

彼は自分の実の兄じゃない。戦士の村の子と言っても、私は拾われっ子だ。小さなフリック兄さんが、村の入り口で、オギャアと泣いていた自分を抱きかかえて、自分の家へと持って帰った。とてもとても、感謝している。
よし、と私はほっぺをひっぱたいた。





「ディックさん、お迎えにまいりました!」
「あれ、なんであんた来たの?」
「約束のお時間ですので」

ぴらぴら本をめくりながら、ディックさんはニコッと笑った。訳すとさっさとどこかに行けと言う意味である。あはははー、と私は思わず苦笑しつつ、頭をひっかいた。「まだお読みになられますか?」「お読みになられますよー。って訳で邪魔だからどっかに……おっと、本音が出そうになったさ?」「もう大半出てますけどね」「おっとと、俺としたことがー」

ウフフフー、アハハハー、とお互い笑いながら、ディックさんは「シッ! シッ!」と片手をパタパタと私に向けて振っていた。ちょっと傷つく。




2011.05.29
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