何故だかブックマンとが、向かい合って正座していた。


(カオスさー)
ディックはそう言って唸った。カオスである。はかちんこちんに固まり、ブックマンを凝視していた。そもそも正座自体苦手らしく、ときおり苦しそうな顔をしている。対してブックマンはじっと目を瞑って瞑想していた。おーい、パンダジジイ。そろそろ解放してやれよ。ディックは彼らを見つめながら考える。だってが、そろそろ限界そうな顔してるし。

ブックマンは、すっと瞳を開けた。そしてを見た後、「なるほど、素養はあるようだ」と呟く。何の? 「ただし才能はない」 どっち?
素養はあるけど、才能はないらしい。

ブックマンがそう言い終えた瞬間、はもう無理ですとばかりにへたりと頭を前に下ろした。「うあ、あし、あし、が……」「……かわいそーに……」 さすがのニンジャも、正座は駄目だったか。




ふらふらと生まれたての小鹿のように足を震わせるは、さすがにいつものニンジャモードにはなれなかったらしい。ディックの隣をひいこらしながら歩いていて、さすがに見かねたディックがの腰をひっつかんで二人で黙々と歩いた。途中でディックがさわさわと指を動かしてみたが、特におもしろい反応もなく肘鉄をわき腹に食らった。激しく痛いです。

こちらもこちらでもんどりうちながら、途中でどっかで休めばよかったと気づいても後の祭り。目的地の図書室にやってきたとき、「それじゃあ私はこの辺で」とがシュピッと片手をあげた。「どこに行くん?」「どこって、ほら、図書室ですから」 ね? とが首を傾げる。
暫く前に、図書室はディック一人の時間で、と約束をした。もちろんそんなことくらい覚えている。記憶力のいい自分が忘れる訳がない。でもディックは、ふんと知らないふりをした。

「ほら、さっさと入れよ」
「ええ? あ、はい、はい……?」

さすがにそろそろ治って来たのか、通常モードに足を動かしてはちょいと首を傾げていた。ディックは少しだけ恥ずかしくなって、ふいとから顔を逸らした。



「あ、ルックさん」
がパタパタと手を振りながら、緑の法衣を着た少年の前に滑り込んだ。ルックはほんの少し眉をひそめただけで、再び手元の本へと目を落とす。も特に気にした様子もなく、「ルックさんも読書ですか。勉強熱心ですねぇ」「……」「あ、今日はハルモニアの歴史ですか」「……」「実はお恥ずかしながら、私は文字を読むのは少々苦手なのです」「……」「いいお天気ですねぇ」

なんだかディックは悲しくなってきた。
が一方的に話しかけて、ルックは黙々とページを読み進めている。本当にそれでいいのか。寂しくないのか。おいおい、可哀そうだから、せめて俺が相手になってやろうか……? ディックはちょっぴり涙を流しそうになりながら、本棚から本を引き抜いた。そしてドカッとの隣に座る。

「よ、ひさしぶりー」 一応挨拶をしてみたものの、ルックからの反応はない。ちょっぴり寂しいので苦笑すると、が悲しそうな目でこちらを見てきた。いやいや、さっきまであんた、思いっきり無視されてたさ? そのあんたが何で同情的な目で見てくるんさ? と思うとちょっぴりむかついたので、ディックはピシリとのデコにデコピンを打った。「あいた」

ディックは手元の本を開いて、ぴらぴらとページをめくる。そのときふと、違和感に襲われた。前の文章と、後ろの文章がきちんと合っていない。「ん?」 ディックはもう一度首を傾げて、確認してみる。やっぱりおかしい。本のページ数を確認してみると、一枚ページがぬけていた。ディックはむっとした。悪戯さ?

「……ん」 ふと、緑の法衣を着た少年が、僅かに唸った。「どうしたん?」 ディックは歯抜けの本を諦めパタリと閉じて、少年を見てみる。ルックはじろりとディックを上目遣いに睨んだ後、ぽいと本をテーブルに投げ出した。ディックとは、その本を覗いてみた。その本も、ページが一枚抜けている。

「……あ、誰かが破った後がありますねー」
いけませんねー。悪戯っこさんです。とがプッと頬を膨らます。まったくさ! とディックは同意ついでにの腰を引き寄せた。そしてむにむにわき腹に指を動かしてみた。即座にに平手打ちされたので、ディックはしょんぼりしながら机につっぷす。

「……本は大切にせんとー」 いかんぞー。

まだ見ぬ悪戯っこに思いをはせて、いかんぞー。と呟いてみた。ルックが珍しく、同意だ、とでもいうように腕を組んで頷いていた。





      さて」

は自室にて頬づえをついた。その前にマッシュが細い目をより細くさせ重く口を開く。「いますね」「うん、いるね」 スパイがいる。「どうしたものかね」、はため息をついた。おそらくそのスパイは、内部に食いこんでいる人間だ。誰かは分からない。誰もが怪しく見える。けれども、スパイが誰か。そんなことはどうでもいいのだ。
問題は、どうやってこの城から、情報を帝国軍に届けているかということ。連絡手段だ。

ふむ、とマッシュは唸った。あまりこの軍主の部屋に居続けることは得策ではない。スパイに、あいつらは何か相談しているようだぞ、疑われでもしたらことだ。さて、策が浮かばぬものか、と瞼に指を乗せる。そんな軍師の思考を飛ばすように、は明るい声を出した。

「せっかくだし、そろそろブックマンに活躍してもらおうか」
「は?」



2011.06.05
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