2 story
学ぶペンギン、色々考える
とりあえず戦災孤児としてうちにテッドはマクドール家に保護されたけれど、それはうそっぱちということを知っている。いや、実際彼の村はウィンディ達に滅ぼされている訳だから、正しいと言ってしまえば正しい。知らないふりをするというものは結構苦しい。というか私はこのままでいいのだろうか。テッドなら何か知ってるかな、とこそこそ伺ってみると、彼はテオ様と一緒にまたがっていた馬の上からひらりと飛び降りる。
私はビクッと体をこわばらせた。
(だってテッドって、300歳でしょ?)
とても暗い過去を乗り越えて、色んな人の死も通り過ぎて、苦しくて苦しくてたまらなかったはずだ。きっと笑ってくれすらしなくて、じっと睨まれるに違いない。そう思って体を身構えたのだと思う。「……テオ様の息子?」だから伺うようなテッドの声に、私も思わず尻ごみした。「い、いや娘。」 娘と名乗っていいのか不安だけど。
「そっか、、俺テッド、よろしくな!」
そして彼はにっこり笑って手を出した。あれっと拍子抜けのような気持ちで、彼と握手をしたとき、ふとした違和感に襲われた。そして、あっと声をあげそうになった。
握手が右手ではなく、左手だったからだ。
一番初めはちょっとだまされてしまった。にこにこ笑顔で悩み事もなさそうで、活発でほめ上手でカッとなりやすい。どこにでもいそうな男の子だけれど、自分が戦災孤児だということを語るとき、ほんの少し辛そうに、けれども気にしてないよという風に言葉をすらすら述べていく。お気の毒に、としょんぼり眉をひそめるグレミオを見ながら私は彼をじっと見つめた。
とても嘘には見えない。一瞬そうなのだと信じてしまいそうになるけれど、やっぱり嘘に違いないのだ。
「テッド、手袋ずっとはずさないね」
「うん? ああ、ちょっとひどい火傷があってさ。とてもじゃねーけど見れたもんじゃねーの」
「ふーん、そりゃあ大変だね。ご飯の間もずっとつけてるもんね」
まーな、と笑うけれどもやっぱり嘘だ。嘘にきまっている。けれども「それって嘘でしょ」と堂々と言う勇気はないし、そもそも私のこれはチート的な情報だ。誰も知らないことを私だけ知ってるんだぞ、とほんの少しの優越感を感じなかったと言えば嘘になる。けれどもそんなの一瞬だ。なんとなくテッドに申し訳ないような気持ちになってきて、彼とうまく話せなくなった。
テッドだって嘘んこの笑顔を固めて、悪く言えばマクドール家を利用しているのだ。そりゃあ、ずっと長い間、あの少年の体で旅をし続けることは辛いだろう。だからこそ、一時の羽休めとしてテオ様の誘いに乗っかったのだ。という訳で別に私との仲がうまくいこうといかないだろうとまったく関係ないと思う。寧ろ仲がよくなってしまった方が大変なんじゃないか?
もちろん原作では坊ちゃんとテッドは無二の友人だった。けれど今の私がいくら坊ちゃんだろうと私は私なのだ。性別だって違うし、あんな仲良しこよしになれるとは思わない。テッドにはとても申し訳ないと思うが、他の土地へと行って欲しい。そう、彼と仲良くなってしまえば、見事に原作ルートにひっかかってしまう。真の紋章をゲットして不老になり周りの人間がポクポク死んで、地獄のような日々を送ることになる。幻想水滸伝で誰もが万々歳というエンディングがないのは1のみ、坊ちゃんのみだ。結局何をしても木枯らしが吹き荒れる中、彼は旅立ってしまう。
冗談じゃない。
私の場合、エンディングまでたどり着けるかどうかも怪しい。
(ホントにホントにごめんなさい)
心の中で何度も手のひらを合わせてテッドに謝った。ごめんなさい。私は死にたくないし、あんな辛い出来事に遭いたくないし、主人公になんてなりたくない。モブキャラで十分、いいや十分すぎるほどなのだ。
だから私はテッドを意図的に無視した。
母親代わりのグレミオはもちろんそのことに気付いている。けれども「坊ちゃんは同世代のお友達がいないからか、意外と人見知りですよねぇ」となんだか勘違いをしている模様だ。私は曖昧に笑うことしかできなかった。
だから正直、この状況は色々と困ってしまう。
「坊ちゃん? 何してんだ」
「いや、グレミオが差し入れ持って行けって」
マクドール家が別に所有するはなれの前で私は気まずげに口元をひきつらせた。正確に言うとちょっと違う。さすがのグレミオだってお世話をしている坊ちゃんを顎で使うことなんてしない。忙しそうにてんやわんやとバタバタする彼を見かねて、いつの間にか名乗り出てしまったのだ。
バスケットをひょいっと彼の顔の前まで持ちあげた。中からのぞくパンは作りたてのほかほかで、だからこそ早くテッドの元へと持っていかねばと使命感に溢れてしまったのだ。
テッドはドアを開けた形のまま、パチパチと瞬きを繰り返した。そしてその後、「おっ、ありがとさん」と軽く返事をしながら、バスケットを片手で取り上げる。そしてくるりと背中を向ける。よし、任務は終わったぞ、と気まずい気持ちを喉の奥へとぐいっと呑み込んだ。「そ、それじゃー!」とちょっとだけ喉をひきつらせながら彼の背中を見て片手をあげる。そしてぎくしゃくロボットのごとく方向転換する。しようとした。「おい坊ちゃん」「はいっ」 いきなり呼ばれた名前に勢いよく返事をする。
「ついでに食ってけよ。グレミオさんのパンうまいし。俺一人じゃたべらんねーって」
そう言って片手でおいでおいでの形を作る。
私はたらっと汗を流した。こんなのテッドのキャラじゃない。多分。
断ることもできずにもそもそパンを頂いている目の前では、やっぱり無言のままテッドもパンを食していた。ふわふわもちもち外はカリカリな素敵パンなはずなのに、味がよくわからない。さっさと食べてしまってここから逃げてしまおう! と思いつつも、いやいやそんなに即座に食べ終わるとか失礼じゃないのか? 避けてるってモロバレだぞ? と胸の中で二つの言葉がぐるぐる回る。
会話を、とりあえず会話をしなきゃ、と思うのに何を言えばいいかわからない。これは私が一方的に気まずくなっているだけなのだ、と分かっている。けれども声が出ない。
テッドも無言でもちもちパンを頂いている。ちょっとテッドさん、テッドさん、テッドさーん!
「なあ坊ちゃん」「へ、へいっ!」
「クレオさんって彼氏いんのかなー。お前知らね?」
「…………しらねぇよ…………!!」
何をいってるんだこいつは! とぶはっと口の中からパンがすっ飛んだ。テーブルの上にとびちった食べカスを慌てて持っていたハンカチで拭く。そしてそんな私を、テッドは信じられないようなものを見る目でこっちを見てきた。
「お前の使用人だろ? それくらい把握するだろ普通!」
「そんなプライベートまで把握してどうする!」
「お前男だろ気にならんの!?」
「私は女だー!」
「え、アン? そうだっけ」
そうだったなー、そうだったそうだった、と再びもふもふパンを食べ始めたテッドを見て、こいつ意外と俗世に染まってんな……と私の中のテッド像がガラガラと崩れ始めた。まったくわからん。
2011.02.24
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