9 story
ペンギン同士、もっと仲良く


「おーい、ー」
「へーい、テッドー」


私は玄関から聞こえる声に、窓から顔を出して、「ちょっと待ってー」と声をかける。「30秒で用意しろ!」「お、お前はどこぞの海賊か!?」「あん?」 いやいや彼が知っている訳がない。というか30秒はどう考えたって無理である。

急いで服を着て顔を洗って、笑いをこらえているようなグレミオから朝ごはんを受け取って、全速力でダッシュする。ドアを叩き蹴るような勢いで飛び出し、腰に手を当てて、ふーん? という勝ち誇った表情でこっちを見ていた少年に、「はっはっは」と笑った。そしてすぐさま腰を折る。「寝坊しましたごめんなさい」「素直でよろしい」


「今日は午後から骨董屋の方の手伝いだからなー、あそこは暇で暇でしゃーないんだ。今のうちに遊んどくぞ!」
「おー!」

いつの間にか、テッドがマクドール家へと向かえに来るようになった。
いつの間にか、テッドが私のことを坊ちゃんと言わなくなった。
(そしていつの間にか)
テッドが、グレミオと話すようになっていた。

自分から話すし、自分から夕食に呼ばれに行く。と言ったらずうずうしい言い方かもしれないけれど、一人分増えた食事にグレミオは、「テッドくんの好きなものってなんでしょうねぇ。坊ちゃん訊いてきて下さいよ」と嬉しそうにタカタカ包丁を動かしていたので、「取りあえずマグロですぜ、マグロ!」と言っておいた。なるほどわかりましたよー! と気合を入れるグレミオを見ると、なんだか私まで嬉しくなった。

「もー釣りは飽きた! 街いこーぜ街」
「テッド下手だもんねぇ」
「言っとくがな? 俺は本気をな? 出したらすごいんだぞ」
「すごいすごい」
「いっつも俺の釣りぼけーっと見てるお前に言われたくねぇ!」

それはすいませんなあ、とテッドのおでこにコツンと拳をぶつけた。「なんだコノヤロウ」とテッドも拳を握ってコツン、と私の額をノックする。私の頭は扉じゃねえぞう、とケラケラ笑っている瞬間、ふと心がどん底に落ちていく。踏み出した足の先がなくて、すぽっとどこかに体が落っこちてしまって、目の前が真っ暗になる。



あ、テッドって死ぬんだ。




「…………?」
「いや、なんでもないよー」
「いや嘘だろ」

う、嘘じゃないですよー、とふらふら瞳を動かすと、300歳のおじいちゃんは「そういう顔してるやつってさー、なんか心配事があったりするんだよなぁ。それでそのこと考えちゃうから、一瞬思考が止まるんだぜ」と自慢気に胸をはった。

どうやら隠しごとは無理らしい。けれども、誰が君が死ぬことを考えているんだよ、なんて言えるだろうか。「うんまあね、色々あるけどね」「言えないことか」「うん」 だったらしょうがねえなあ、とテッドは簡単に頷いた。言えないことがあるんなら、言わなくたっていい。そんな風に慰められたおかげで、ちょっとだけ胸が軽くなった。けれどもテッドは死ぬ。



***


「俺さあ、あそこの家、いっつも気になってるんだよな、なんかこう……」
「けばけばしいですなぁ」
「そうですなぁ」

家にこれほどか! さあこれくらいか! もっとか! と主張するごとく、薔薇の枝がぐるぐると巻きついていて、見事なる大輪を咲かせている。街を歩く人々は、「まあさすがミルイヒ様のお宅、美しいですわ」「綺麗ですわ」「すばらしいですわ」と言いながら扇子をはためかせ消えていく。「テッド美しいらしいですよ」「さんすばらしいらしいですわよ」

グレッグミンスターの人達って、こう、ちょっと感覚が違うのかなぁ……とテッドと一緒にぼんやり玄関を眺めていると、唐突にその扉が開き、何やら毛むくじゃら一人と、普通の男の人が一人が出てきた。全身に毛むくじゃらを巻きつけモコモコしている。そしてかぶる帽子にはこれまた見事な孔雀(……らしき?)羽を乗せ、フワサ……フワサ……とこれだけの距離でも耳に音が響いた。隣のテッドを見てみるととても真顔で表情がぶっとんでいた。どう考えてもあれはミルイヒである。オッペンハイマーである。

隣の普通の男の人は、きっと付き人だろうなあ……とテッドと一緒に固まっていると、しゃなりしゃなりと近づくミルイヒは「……ん? そこにいるのはマクドール家のご子息ではありませんか」

いやご子息じゃないです。という突っ込みは心の中でし飽きたので、「こんにちは、ミルイヒさん」と頭を下げた。ん? お久しぶりですとかの方がよかったのかもしれない。いやあ、でも私自身としてはまったくもって面識のないお方だし。

はいこんにちは、と彼はにこりと微笑みながら頷いた。フワサ……帽子につけられた羽根が、隣の従者の顔を優しくなでた。従者は無表情の無反応であった。さすがである。「こちらは?」ミルイヒがテッドへ興味を移すと、テッドはどこぞに飛ばしていた魂をはっと口の中に吸い込んで、「あ、お初にかかります、坊ちゃんの友人のテッドといいます」「ほう、テッドくん」

「マクドール家のご子息は、それこそ赤ん坊のころから存じています。よき友人となってあげてください。おっと、私はそろそろ城に向かわなければなりませんので。失礼します」

そう言って軽やかに去っていったミルイヒをテッドと私は呆然と見つめながら、「え、なんだっけ、薔薇将軍だっけ」「いやテッド、孔雀将軍じゃないかな」「派手将軍だった気がする」「……なんかこう……近い!」 それだ! と二人で指をさし合ったけれど、のちのち花将軍だったと気づき、派手将軍って「は」しか合ってないよね。いや文字数同じだしと二人でちょっと反省した。

「ところでテッドさん、今日のお夕食はマグロだそうですわよ」
「マジで……!? 俺ちょっとグレミオさんに土下座してくるからちょっと待ってろ」
「え!? そんなに嬉しいんですか!?」





BACK
TOP
NEXT


ペンギン書きながら、テッドと主人公、こいつら仲いいなぁ……と書いてる本人ながら思ってしまいました。掛け合い書いてるととっても楽しくてニヤニヤしてしまう。

2011.03.04