10 story
ペンギン変な兄ちゃんに戸惑う



テッドが死ななければならないと言うのなら、彼が死なないようにすればいい。だって彼は生きている。私の目の前で笑って、元気で、ガツガツご飯を食べている。テオ様だって、グレミオだってそうだ。「グレミオさん、俺本当に、生きてて、よかったです……」 テッドがほろりと涙をこぼした。その涙をグレミオがエプロンの裾でぬぐってやる。「テッドくん……そんな……」

「料理人名誉につきちゃいますよ! もう!」
「マグロ丼超うめー!!」

クレオが真摯な表情でテッドを見て、マグロ丼をきゅっと両手で握りしめた。
「パーン、あれほどまでにマグロで幸せになれるとは幸せなことだと私は思う」
「いや、俺に話を振られても」

うむうむ、とテオ様が激しく納得したように頷いていたのがよくわからない。「うむ、グレミオの料理はうまいからな」「あ、そこなんですかお父さん」





「そうそうフレフレ! テッドを救え! がんばーれ!」
ひゅー!

ぐいっとこちらに親指を突き出した黒髪兄ちゃん。(学ラン)を、私は自分の教室の席に座ったままじっと見つめた。夜寝れば、またこちらの世界である。誰もいない教室の中に、この黒髪兄ちゃんがテンションをあげている。

初めこそミステリアスだったがもう駄目だ。「がんばれがんばれ」私は暇つぶしにと机の中に入っていた教科書を読む。「テッドを」おお、やっべ全然わからねぇ。ずっと長い間こっちの世界の勉強にさわってないもんなぁ「すーくーえー!」「うるせー!」 ばしこんと教科書を地面に叩きつけた。

それでも叩きつけた教科書は私の大切なパートナーであるので、床に手を伸ばしてパンパン埃を叩いた後に机の中へとインさせてもらう。「あのねえお兄ちゃん」 何度見てもイケメンカッコイイ、不思議な兄ちゃんをじろっと睨んだ。しかしながらお兄ちゃんはニコッとほがらかに笑い、こっちの意図を理解してくれない。とりあえず、そうとりあえずだ。と私はビシリとお兄ちゃんを指差した。


「あなたはどなたさんでしょうか?」
「はっはっは。そんなそんな」

君はボケっとしている子だなあ、とお兄さんは私の頭をぐりぐりなでる。会話が通じていない。そうだ名札があるはずだ! とお兄さんに頭をぐりぐり押さえつけられたまま、彼の胸元へと目を向けても、あるべきはずの名札がついていない。ただの黒いポケットがあるだけだ。ちゃんとつけろよ校則違反だぞ!

むっきー! と腕を振り上げると、お兄さんは「おっとと」と言いながら軽やかなステップで私から離れた。そしてほんの少し悲しげに笑いながらじっとこちらを見る。

「俺は君がテッドやみんなを救いたいって思ってくれていることが嬉しいんだ。すごくありがたいと思ってる。君にとっては、ただ理不尽なだけな状況のはずなのに、本当に俺の思い通りに動いてくれている。その気持ちを、絶対に忘れないで。もちろんテッドだけじゃない、他の人も救って欲しいと思っている。けど、きっと駄目だ。俺が駄目だった。だから」

「だから、せめてテッドだけでも」と、お兄さんは消え入りそうなくらい微かな声を出した。何でこのお兄さんはテッドが死ぬことを知っているんだろう。他の人って誰だろう。グレミオや、テオ様や、オデッサさんのことだろうか。
色んな疑問が頭を傾げたけれど、わかったこれは夢の中だからだ。現実の私の葛藤が、夢の中まで影響して、こんな変なお兄さんを見るんだ。

納得するとすっきりした。
お腹の辺りをぽんぽん、と叩いて、さーあさっさと目を覚ますぞ、と気合を入れたとき、お兄さんはまたのこのこ私の近くに移動してきて、机の上に手をついた。「いつか俺を、よろしく頼むよ」

意味深な台詞である。




「テッドってさー、弓矢とか使えないの?」
「使えるぞ? 俺こそ弓矢の申し子だね」
「やっぱり。テッドと言えば弓矢だよねー」
「え? なにそれ俺そんなワイルドなイメージありましたかね」

あれー? あれー? とテッドは首を傾げながら家の納戸へと足を運び、その中から弓を取り出した。準備万端なことにも鉄の弓矢も何本か筒にいれている。「じゃあ今日は狩りにすっかー」 そんでグレミオさんに食糧持ってって喜ばそうぜー。

おしおし。そうしようか、と私も私で家に棍を取りに行き、「グレミオ、今日の晩御飯は豪勢だからね!」と力いっぱい報告してきた。「それじゃあグレミオはお腹をすかせて待っていますからね。頑張ってください」とお昼ごはんと共に送り出してくれたのだった。



ぶっちゃけ言うと、私に出番などはありはしなかった。「あらよっ」とか「ほらよっ」とか、気合の抜けた掛け声だというのに、テッドはビシビシと獲物に弓矢をヒットする。目の前を素早く通り抜けようとした兎が、テッドの弓矢で木の丸太に縫い付けられた。兎は僅かに痙攣して、そのままくったりと力が抜ける。「お、おお……」「どんなもんさ」

テッドは兎の躯に軽く手を合わせ矢を引き抜き血抜きする。処理もさっさか終えてしまい、おおー、すげー、と私は目をぱちくりさせるばかりだ。もしかしてですが。「テッド、すごく強い人だったりする?」「はあ?」

何をいきなり、と言いたげなテッドの顔を見てごくっと唾を飲み込む。その上彼はソウルイーターを持っているのだ。ぶっちゃけ最強だ。「そりゃ長く旅をしてるしな。なんてったってさんびゃ」「あー! あー! あー! なんだか唐突に叫びたくなっちゃったなー!?」

テッドがやべやべ、と言う風ゴホゴホせき込んだ。いやいや、一体何をしているんだろうか。
それにしても、テッドはこれだけ強くても、ウィンディに捕まった。ということは、捕まったらおしまいなのだということだ。絶対軍の任務中にソウルイーターを使わせてはいけない。というか、絶対彼を軍に連れて行かせてはいけない。いやいやそもそも私が軍の任務をばっくれた……ら……

「あ」
「どーしたさーん」
「いやいや、思いついちゃったんだよ」

何を? と彼は不思議そうに首を傾げた。「秘密だよ」と丸太の上に腰を乗せて笑うと、「なんだなんだ、気になるなあ」と拳でぐりぐり私の頭をなでてくる。
そりゃあ、言えないよ。なんてったって、テッドが一番安全な方法は



彼が私から離れることだと気付いてしまったからだ。


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2011.03.05