14 story
ペンギン →(右)



「テッド、ほらほら行こうよ、さんのところ」
「嫌だよ勘弁してくれよ、俺ああいうのホント苦手でさあ」
「イケメンだから?」
「うんそうアイツなんだかキラキラしてるよな、目がいてぇ……ってちげーよ!」

そんな悲しい理由じゃねえよ! とテッドがテーブルを拳で叩く。さんとテッドの意外な相性の悪さに、私は辟易した。うそだろー、お前らゲームじゃあんなに仲がよかったじゃんよーとか思っても、あれはゲーム、こっちはこっちなのかもしれない。

「だいたい、あいつがどこにいるかなんてわかんねーだろ。それにもうどっか他の街に行ってるかもしんねーし」
「いや。さんグレッグミンスターにいるよ」
「なんで分かるんだよ」

テッドがテーブルの上から、ぐいっと体を乗せる。眉毛がハの字になって、唇がつんととがっていて面白い表情をしていたので、テッドの眉間を激しく人差し指でついてみた。「いてええええ!」「テッド、眉間って人体の急所なの知ってる?」「そうだよ痛えよ! 知ってるならすんなよ!」

私はごめんごめんと適当に謝って、「なんだっけ、さんの場所だっけ」と訊いてみる。そうだよ、とテッドはすねた表情で頭をかきむしった。私はからからと笑う。テッドがすねてても、ただすねてるだけだから、気にする必要はないとこの頃分かってきたのだ。
だってさあ、と私は言葉を区切った。テッドも少しだけ興味があるのか、片耳をこちらに向けて、一瞬ちらりと視線を向ける。「さんの周り、おばさま方が集まるからさー。分かりやすいっていうか」 幻水版ヨン様みたいな。

テッドは、「……ああー」と短い言葉を出して頷いた。彼も納得した部分があるのかもしれない。あれは一種の交通妨害だ。



目の前に人垣ができている。おばさま方が長い列を組み、ほっぺを赤くしながら瞳を期待いっぱいにさせて、みんなでぺちゃくちゃお話をしている。蛇のように蛇行した列の先には何があるのか、だいたいの予想はつく。けれどもテッドの方はわかっていないらしく、「なんだこの列、何売ってんだ?」と頭の上にクエスチョンマークを並べていた。

私はテッドの背中を押しながら、おばさま方の列へと並んで行く。テッドが、「おい、今日は釣りだろ釣り。どうしたんだよ」とあわあわしていたけれども無視だ。夢の中の坊ちゃん(仮)に仲良くしてねなんて言われずとも、私だって仲良くしたい。ついでにテッドも仲良くしてくれたら、これ以上なく嬉しい。そしてこの列の先には何があるのか、とても気になる。

「今日は釣りだろー釣りだろー」とぶーぶーほっぺを膨らませ始めたテッドを知らないふりをして列に並ぶ。テッドの方も、この先に何があるのか次第に気にしてきたようで、そわそわしながら先を見ていた。ちょっとずつ列が進み、先が見えてくると、そこは小さなテントが置いてあった。

「……この中に入るのか?」
「みたいだねぇ」
「なんだか怪しいな」
「怪しいねぇ」
「しかし俺はわくわくしてきた!」
「私もどきどきしてきた」

このチープな感じの怪しさはとても面白そうだ。近所の入場50円のお化け屋敷のようだ。お姉さんたち二人がきゃっきゃと興奮しながらテントから出てくる。やっとこさ順番が回って来たぞ、と黒い布のカーテンをめくろうとしたとき、中から男の人の声が聞こえた。「1回、100ポッチね」 私とテッドは慌てて自分の財布を確認して、100ポッチを手に布をくぐる。

私とテッドはテーブルの向かい側に座っていた、男の子の手に200ポッチを払った。「あれー?」と言いながら、男の人は頭にかぶっていたローブを脱いで、こっちを見る。「あー! お前、こないだの感じが悪い奴!」

今頃気づいたのか、テッドがさんに指をさして、口元をひくひくさせた。「だよ。覚えてね」と彼はにっこり営業スマイルをして、「こんにちはー、ちゃん」と手のひらをひらひらさせる。テッドがむっとして私の首根っこをひっつかみ、「おい、帰るぞ」とテントを出ようとしたとき、「あっれェー? いいのォー?」とさんがむかつく口調で語尾を伸ばした。

「きみ達のお金、もらっちゃったんだけどなー。きみはいいとしてさ、ちゃん可哀そうだよねー。言っとくけど俺は守銭奴だからお金は返さないよ?」

そう言って、人差し指と中指、中指と薬指の間に、私とテッドが渡した100ポッチを器用に挟んでにんまり微笑む。テッドはしばし葛藤したのち、私の首根っこをそのままにずるずるとテーブル前に引っ張って行く。さんがゲラゲラ笑ってテーブルを叩いていた。

「笑うな。おい、何すんだよ」
「あれ、知らずに来たの? ……あー、怒んないでよ。相手するのもめんどいしさー。占いだよ、占い。紋章屋の人に、客寄せ的にしてくれって頼まれてさ。俺は何でも屋だからね、接客お掃除ご飯に占い。なんでもできちゃうよ?」
「幅広いですねぇ……」

占いは何でも屋の範疇なのか。
テッドはぶすっとした表情のまま、さんを睨んだ。相変わらずさんはにこにこと笑っていて、「さてどうする? 明日の運勢? 金銭占い? それとも恋愛占いとかいいかもねー」とへらへらしている。テッドの火山が噴火しそうだ。私は思わずテッドの口をふさぎ、「お勧めでお願います!」と叫んだ。さんは「オッケイ」と言うように指でゴーサインを作る。

「はい、じゃあ右手出して」

そう言って、さんは左の手を出す。手袋をつけた右手はテーブルの上に置いている。
「なんでだよ」とテッドが不満そうな声を出す。さんは気にすることなく、「なんの紋章が一番合うか見てあげるからさー」と言っていたけれど、それはもう占いじゃないよ……と言う台詞は飲みこんだ。

テッドはさっと右手を自分の背中へと回そうとした。けれどもさんは、テッドの動きよりも素早く彼の腕をひったくる。「あらやだ、この子ったらはずかしがってー」と笑いながらテッドの手袋ごと、右手をひっつかんだ。そしてその瞬間、彼はテッドの手を思いっきり振り払った。ぎょっと目を見開いてテッドの右手を見る。テッドも同じように驚いてさんを見た。

私は一人空気について行けず、「あのー?」とこそっと声をかけてみる。さんがハッと顔をあげて、「ん? ああ? 紋章? 水がいいかもねー。そこの茶髪くん、才能アリアリみたいだからさ、どっかで宿してきなよ。もったいない」と、さっきの表情をすっかりおとして営業スマイルをはりつけた。

テッドは右手を後ろに持って行き、さんからそろそろと距離を取る。さんも、笑顔を張り付けながらも、テッドとの距離をはかっていた。なんだこの空気は。
私はさっと彼らの間に入り込んだ。そして「さん、じゃあ次私、いいですか?」と訊く。彼は「あ、うん? うん。いいよいいよ」といつもと変わらない風をよそっていたけれど、やはりどこかおかしかった。

さんは左手で私の右手を掴んだ。そして暫く手のひらを握った後、「土かなー、君は。意外と魔力もありそうだから、茶髪くんとセットで紋章屋に行ってきなよ」と商売精神旺盛に白い歯を見せる。

私はありがとうございます、と頭を下げて、テントの端っこで体を小さくしているテッドの元へと戻った。そしてふと振り返り、気になったことを訊いてみた。

さん、何で右手だけ手袋つけてるんですか?」

さんは、ぱちりと瞬きをして、自分の右手をなでる。そしてほんの少し瞳をふせた後、「昔大きな火傷をしちゃってね。人に見せられた傷じゃないから、こっちだけ手袋をしてるんだよ」と、言っていた。

どこかで聞いたような言い訳だった。




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2011.03.26