20 story
仲間はずれなペンギン
必ずテッドを助けよう。
そう、と一緒に誓った。
夢の中に、変な兄ちゃんが出ることもなくなった。やるべきことがあるということは、とてもありがたいことなのだと知った。何もできないことの方が辛い。どうするべきかと悩んで、相談できる相手がいることは、とても嬉しいしありがたかった。も、多分私と同じ気持ちなんだと思う。まずは、と私たちはこそこそと相談し合った。時間は短い。話すべきことは、それこそやまずみだ。
「とりあえず108の星を集めることが、一番確実な方法だ」
が砂の上に<第一の目標>と、文字を書く。私はうんと頷いた。ゲームを攻略する上で、それは基本中の基本だ。
「彼らが誰か、いつどこにいるか。そしてどこで死ぬ可能性があるか。そこら辺は俺が覚えているから、任せてくれるとありがたい」
「す、すごいね、」
「まあ、何度も繰り返したからね。これくらいは」
ふむ、とは頷いた。「問題はウィンディだ。テッドが彼女に見つからないことが一番ありがたいけれど、流れを変えてしまうと、正直俺には予測がつかなくなる。ある程度基本の流れに沿って、あの人間を操る紋章、ブラックルーンから逃げる方法のみを考えるべきだ」
ウィンディの抹殺も試したことがあるんだけど、あれもあっけなく失敗しちゃったんだよね。とさんはさらりと恐ろしいことをいう。確か一番最初に皇帝に会ったとき、ウィンディとも対面したはずだ。その瞬間を狙ったんだろう。初めからラスボスが分かっているストーリーほど情けないものはない。っていうか想像すると怖い。
「、その、思うんだけど、テッドは私に紋章を渡すよね? でも今、ソウルイーターが……えっと」
「三つある。俺とちゃんが一つずつ、テッドも一つ」
「……えええーっと……」
真の紋章が複数に分かれる場合は確かにある。とうか、2の話はその典型だ。だったら私たちのソウルイーターもそうなってしまったのか、といつの間にか自分の右手にうっすらと浮かんでいる死神の姿を思い出して首を傾げた。すっかり手袋が入用になってしまった。
うんうん唸っている私を見て、は苦笑して、「これは俺の仮説だけど」とまた地面に丸を二つ描く。「こっちが俺とちゃんのソウルイーター。もう片方がテッドのソウルイーター」そうやって指をさしたあと、今度はそれら二つの丸をいっぺんにかこった。
「うん……色々ややこしいんだけど、この世界では、全部をひっくるめて一つのソウルイーターの扱いになっているんだと思う。紋章が複数に分かれる分、力は小さくなるけど、呪いは頭数で割られるから軽くなる」
さんの語尾が少しだけ小さくなった。申し訳ないと思われているのかもしれない。私は気付かないふりをして続けた。「だったら、テッドからソウルイーターを渡されたら、どうなるんだろう。私たちのソウルイーターに吸収されちゃうのかな」「その通りだ」 うん、とは頷きながら地面に書いた文字を足で消した。「でも、今回は受け取らない」「え?」
「ちゃん」とは声を落として、私の耳元に話しかける。それだけ重要な話と言うことだろう。「テッドから紋章は受け取らない。多分それが一番いいと思う」「で、でも……」 さっき、基本的な流れに沿うようにしよう、と言ったばかりじゃないか。
彼は私の台詞をくみ取るように微笑んだ。
「まあね。でも、多分これが一番いい」
「テッドは? どうするの。一緒に逃げる?」
「いや、捕まってもらう。言ったろう。テッドと一緒に逃げたことがあるって。あれも結局ウィンディに捕まった上に、いつも以上の悲惨な結果が待っていた。テッドはグレッグミンスターで捕まってもらわなきゃならない」
の言うことは、テッドを助けようということと矛盾している。けれども、言いたいことも分かる。けれども頭の中で、ふとした文句が浮かんでしまった。「でも、そんなことしたらウィンディにソウルイーターが盗られちゃうよ。絶対駄目ってレックナートさんが言ってなかったっけ」
そんなことくらい、彼にだって分かっているはずだ。不安げな私をよそに、寧ろよくぞ
聞いてくれたとばかりには「チッチッチ」と人差し指を左右に振った。「そこがミソなんだな。ちゃん、今は君がいる。俺達みんながソウルイーターを分け合っている。だったらもしテッドがウィンディに捕まったとして、あっちに渡るのは、一体どれくらいの力だ?」
まあ、簡単な計算だ。「……三分の一だね」「だろう? 俺とちゃんを合わせれば三分の二。ほら、こっちの方が多い」 明るい顔付きをするだけれど、はたしてそんなに上手くいくのだろうか。こっちの方が多いと言われても、その片割れはしょせん私だし、あっちは覇王の紋章と門の紋章の半分のセットだ。どう考えたって負けている。
いやあさん。それ、無理ですって。
自分に見事なアイデアがない分、はっきり口に出して否定はできないけれど、無理なものは無理だ。
じっとりを見つめていると、「ちゃんちゃん」とにやにやした顔のが、再び私の耳に口元を寄せた。なんだかまだ重要なことがあるらしい。
「うん、俺も無理だと思う。だからさ、俺、テッドと一緒に捕まるよ」
「…………テッドと一緒につらわるよ? なるほど、ツララを破壊して回るってことだね?」
「どう考えても違う。現実逃避しないで」
一体それはどんな状況だ。とが真顔で突っ込んだ。「俺もテッドと一緒に捕まる。時期を見てテッドと逃げ出すつもりだし、ブラックルーンもなんとかするから心配しないで」 ね。とはポンと私の肩をたたく、まあよくよく考えれば、彼は私なんかが思いもよらないような長い時間を生きていらっしゃるので、心配なんてする方が失礼な話なのかもしれない。私は鷹揚に頷いた。(…………あれ)
ちょっと待っておくれ、と背筋がぞっと寒くなる。「あの、」「ん? 何?」「が、テッドと一緒に行くってことは」「うん」「わ、私は……」 どうしたら?
口をパクパクさせながら、彼に切実な心情を伝えてみた。はうんうん、と私の感情をくみ取ったかのように頷く。そして、今度は両手で私の肩に手を置きながら、にっこりとほほ笑んだ。
「解放軍の方は、ちゃんに任せたからね!」
「ああ、はい、うん任されました……?」
・
・
・
いやいや
「えええええそれないってほんとないって任せたからねってぇええええ!!?」
この人何いっとーとー!? と混乱のあまり自分でもよくわからない方言を出す私に、さんは「大丈夫」と力強く頷く。いやぁ、頷かれましても! と叫んでも、「ちゃんなら大丈夫だ」とまったく根拠のない台詞でおためごかしだ。
「まあほら、一応こっちの世界に来て、ちゃんの運動神経やらなんやらは俺のスペックと同じはずだし、108星を仲間にするタイミングとかは全部俺が書いて渡すから。ね?」
「ね、ねって言われても……」
「俺は帝国側に、ちゃんは解放軍に、これが一番いいんだ。大丈夫、もし失敗したとしても、次の手は考えてある」
「おお、さすが……」
「それが最終手段になっちゃうんだけど」
「……ちょ、ちょ!!?」
責任が重大すぎる。ぶんぶん、と思いっきり首を振ると、「これしかないんだ」とは切実な表情と声で語りかけた。「お願いだ、一緒にあいつ救うって、約束してくれたろう?」
そんなことを言われてしまえば、私はもう何もいうことができない。ぐっと唇を噛んで、覚悟を決めた。大丈夫と思わなきゃやってられない。大丈夫じゃない。でも大丈夫にならないといけない。静かにうつむいた私を見て、は「よし」と頷いた。「とりあえずまとめるけど、テッドからは紋章を受け取らないこと。けれども基本的に話に沿うこと。俺は帝国軍に。ちゃんは解放軍に」
いいね? と首を傾げる彼に頷く。「あのう」と最後に一度だけ彼に確認した。「テッドに、言ったら信じてくれるんじゃないかな……」 これこれこういう事情で、これから大変なことになるんだけど、一緒に協力して欲しい。こんな風に伝えた方がいいにきまってる。と私のソウルイーターを見れば、最初は驚くかもしれないけれど、納得してくれるはずだ。
はほんの少し口元を寂しげに上げた。そして首を振った。駄目だと言う意味らしい「……何で?」 私が彼に尋ねると、は困ったように唸った。
「あなたが死ぬから協力してくださいなんて、俺にも君にも、言える訳ないじゃないか」
もしかしたらテッドは、自分は明日死ぬかもしれない。明日が大丈夫でも、明後日死んでしまうかもしれない。そんな風に考えて毎日を生きているかもしれない。命からがらで助かったということも沢山あると思う。全部ただの想像だし、案外何も考えないようにしているのかもしれない。
けれども、「あなたは某日、ソウルイーターに魂を喰われて死にますよ」なんて言われて、ああはいそうですかー。なんて思えないに決まっている。きっと不安になって苦しくなる。
(……普通に考えてそうじゃんか)
なんでに言われなきゃ気付かなかったんだろう。私は自室の椅子に体育座で座り込み、はー、と長いため息を落とした。そういえば、この頃テッドに会っていない。
そう思った瞬間、こんこん、とノックの音が聞こえた。グレミオだ。「坊ちゃん、テッドくんが来てますよ。お部屋に上がってもらってもいいですよね?」「ん、ああ、うん、いいよ」
そう返事をしたと同時に勢いよく扉が開いて、「ー!」と見覚えのある茶髪くんが突撃してきた。扉の向こうではグレミオが苦笑してドアを閉める。「う、わ、テッド!」「おいこらてめぇおらこのやろうおらこんちくしょう!!!」「うおおお、何やら立腹していらっしゃる!?」
一体どうした! と彼に叫ぶと、テッドを見つめて一瞬固まった。そうした後に、ひくひくとコメカミに青筋を浮かべがら、「お、ま、え、なあ……!!」 と、ずかずか私へ近づき、両の拳でぐりぐりと私の眉間を攻撃してきた。「いいいいいいたああああ!!!」 てっど の ぐりぐり こうげき! なんて頭の中で台詞が浮かんだのも一瞬。ボケるタイミングすらも忘れるほどにこれは痛い。痛い。痛い。「いたいよー!!!!」 無心にぐりぐりし続けるテッドが恐ろしい。
冗談ぬきで涙目になった私を見て、テッドが少々申し訳そうな顔をした後、手を放してぼすんとベッドの上に座った。むっつりとした顔をしている。よくわからない。なんでテッドはこんなに怒っているんだろう。
なんでだろう、なんでだろうと困惑するたびに、テッドの機嫌が悪くなっている気がする。私が、彼が何に怒っているか分からない、ということこそが怒りの原因でもあるらしい。ツンと唇を尖らして、明後日の方向まで向き始めた。これはまずい、と私は立ち上がった。
「テッドテッド、今日晩御飯食べてくよね? ほら私、グレミオにマグロ丼のリクエストしてくるよ!」
いや食べもので釣るってどうよ? と思うけれど、テッドの機嫌は大抵これでよくなるので問題ない。テッドにぐりぐりさせられた所為で、未だにずきずきする頭を抱えて椅子から立ち上がった。けれどもテッドは相変わらず不機嫌な顔をして、じろりと私を見つめた。私はいそいそと椅子に座りなおした。そして理由もわからず頭を下げた。「ご、ごめんなさい……」
取りあえず、多分本当に私が何かしでかしてしまったんだろう。テッドは時々不機嫌になるけれど、理不尽に怒ることはない。結構、激しく、怒っていらっしゃった。ぺこりと下げた頭を、恐る恐る上げてみた。テッドは不機嫌というよりも、ほんの少し眉尻を下げて、口元ととがらせていた。
ほんの少しの沈黙の後、「さぁ」とテッドがゆっくりと口を開く。指先でベッドのシーツをいじいじとしている。「この頃お前、変だよなあ」「うん?」
テッドが、私をちらりと窺った。「前にさ、とそろって約束してたのに来なかったことあるだろ? まあ、あれくらいかな。お前、このごろとこそこそしてるしさ」「そんなこと……」ある。
こそこそしてる。テッドを誘える訳ないじゃないか。
テッドはじっと私を見つめた後、「お前ら、なんか隠してるよな。なんだよ、パーンの髪がヅラでも、俺驚かないぜ。ほらほら言ってみろよ」「パーンは地毛だよ……妙な噂を流さないで上げてよ……」「グレミオさんが女で実はの母親でも俺ぜんっぜん驚かねーから」「むしろそれは私が驚くよ」
誤魔化すなよ、とテッドが悲しげに眉をひそめた。私は椅子の上にぎこぎこ座ったまま、うつむいた。長い沈黙の後で、テッドがふとため息をついて、「まあ、言えないことならしょうがねえな。人間、言えないことの一つや二つ、あるもんな」と小声で呟く。
「気が向いたら言ってくれや。じゃあ今日はマグロ丼な。ほら、グレミオさんに頼みに行こうぜ」
「う、うん、行く。……行く!」
必要以上に問い詰められなかったことにほっとしたけれど、これはただ、テッドの好意に甘えただけだ。もうちょっと上手く誤魔化せたらよかったのに。私って馬鹿だなあ。と、わざとらしいくらいにニコニコ笑って廊下をばたばた走るテッドの背中を見て思った。
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この頃との様子がおかしい。特には分かりやすい。何故だか俺と会話をすれば、ちらちら目線を逃がして露骨に避けるし、前まで「さん」とさんづけしていたくせに、気づけば「」と呼び捨てだ。
別に、仲間はずれにされたからって腹が立つくらい、狭量じゃないし(多分)これでも長生き中の長生きなので、色々悟っていると思う。二人に隠し事をされているのが気にならないと言えば嘘になるけど、きっと何か理由があるのだろうからしょうがない。と思えるようになりたい。
(まあそれに、隠し事なんて俺の十八番だしな)
グレミオさんのマグロ丼を頂いて、「相変わらず美味いっす、サイコーっす!」と叫びながらも、俺はぼんやりと心の奥がむなしくなった。隠し事だらけの自分が、他人に隠されて腹を立てるだなんて、なんだか恥ずかしい。(いや、別に自分がしてるからって、他人にされてもいいとか、そういうのは変か?)よくわからん。ずっとそういうことは考えないようにしていたのだ。
「テッド、あんまりがっつくと体に悪いよ」と呆れたように苦笑するの目が、一瞬見ることができなくなった。けれどもごくりとグレミオさんの美味しいご飯を飲みこんで、精一杯笑ってみる。「いいんだよ、俺の胃袋は頑丈だから」 何を言っているんだ、とカラカラ笑う彼を見て、(……あれ、彼だっけ)俺は自然と笑ってしまった。気まずいなんて思わない。
俺は手袋越しの右手を、テーブルの下でひっそりなでた。そしてがつがつと、腹にマグロ丼をため込んで、「よし」と頷いた。
決めた。
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テッドの機嫌がよくなってくれてよかった。じゃあ帰ろうか、といつも通りに彼を玄関まで送ると、「、なあちょっと」と言いながら、テッドが私の腕をひっぱった。彼はきょろきょろと辺りを見回した後、うんと頷く。「あのさあ、驚くなよ」「何が?」「何がって、そのう」
テッドの唇が、ぶるりと震える。「いきなりで、信じられないかもしれないけど、ホントのことだからさ。信じて欲しい」
「俺、真の紋章を持ってるんだ」
2011.04.29
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