いつぞやと反対の状況
第13話 それでもありがとう
「…おい、大丈夫か」
「はい、自分、頑丈ですから」
そんな細い体で頑丈なんていわれても、説得力のせの字もないって事に、コイツは気づいてるのか。俺が開けてしまった鉄の板に、思いっきり頭をぶつけた家の家政婦は、こさえてしまった大きなたんこぶに氷と水が入ったビニールをくっつけている最中だ。
ちらりと部屋の端の時計を見てみると、6時ちょっと過ぎ。
たんこぶが痛いのか、痛くないのかって事が分からないくらいへらへらと笑い続ける少年に、ほんの少し俺はため息を吐いた。
(…少し、悪いことしたかもしんねぇな)
確かに邪魔だった事は事実だし、お陰でケーキ作りに没頭できないってのも色々だ。
けれども、6時まで帰ってくるなは言い過ぎだったかもしれない。 (いっておくけれど、俺が6時ぴったりにドアを開けてしまったのは、中々帰ってこない家政婦を心配した訳じゃない。いいか、心配した訳じゃないんだ)
こほん、と軽く咳を吐いて、その場を立ち上がると、お目当てのものを取りにキッチンへと向かう。1人暮らしにしては(いや、家政婦入れて2人暮らしか?)大きめな冷蔵庫の蓋を勢いよく開けて、大きな皿と、その上にのってあるソレを、両手で取り出す。ひんやりとした感覚が、指先へと伝わった。
「ごしゅじんさまー…」
「(だから剣之助だ)」
今だけ。今だけ大目に見てやろう、と。
家政婦の座っているソファの目の前にあるテーブルへと、俺の手にあった物を、がちゃん、と大きめな音をたてて、乱暴に置いた。
「ケーキ、ですか?」
「そうだ」
「ご主人様が、買ったんですか?」
「…いや、姉貴が、作りに来た」
「あの、6時まで帰ってくるなって」
「…まぁ、姉貴が、ソレをつくってたんだ」
「そうなんですか」
(つーか、言い訳が苦しすぎたか…?)
ただ、ケーキの一点を見つめて、何にも喋らなくなった少年が
「甘いモンは食えねぇのか」
思わず訊いた問いに、ブルブルブル、と首がすっとんでしまいそうな程、家政婦は大きく振って。
「…ありがとうございます」
本当に、嬉しそうに。
顔をほころばしたのを俺は見た。
(部屋の端にある大きな買い物袋が、コイツは家政婦なのだと主張する)

2006.10.4
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