今日も元気にゴミ出ししましょう。
第16話 いってきますの前に
ずるずると透明のゴミ袋を引きずって、毎度の如くゴミ捨て場へ。今日は燃えるゴミの日です。別に萌える訳ではないのですが。
ほんの少しだぶだぶのズボンをちょいっと腰まで上げて、さあお家に帰ろうじゃないか。と意気込んだ。
にしても。このズボンちょっとだぶだぶ過ぎたかもしれない。
いくらローランさんが、ぴっちりズボンは足のラインが分かっちゃいますよ! 男の子のフリなんですからね! と叫んでたとしても、ちょっとこれはなぁ、みたいな。
左腕につけた時計に目を通して、只今8時ちょっと前。
ううん、良い天気だ、と空を仰いだその時だった。
「あーーーーー!!!!」
そうだ、思い出してしまった。今日は、今日は、今日は!
「ご主人様の、入学式だ…っ」
こんなほのぼのゴミ出ししてる場合じゃありませんよ!
相変わらずズボンを引きずりつつ、全力疾走の先には
「ちょっと、颯太くんどこよっ」
「それよりも一ノ瀬さん、NO1の!」 「何いってんの、儚げボーイの神城先輩に決まってるわ!」
「華原君、華原君、華原くーん!!」
「橘くんはみんなのものよー!」
え、ナニコレ
「あの、皆さん、と、通して頂けませんか…」
ギラギラと光る野生動物のような女生徒の前に、呆然と立ちつつも、いかん、これどころじゃないのだ、と震える心で勇気を振り絞ってみた。 だって、今日はお弁当はいりませんが、ご主人様の万全を尽くすのが家政婦というもの。忘れ物チェックに制服チェック。やる事はたんまりなのだ。
「あ、あのう…」
自分の声が相手に聞こえるか、かなり不安に思いつつ、それでもぎゅっと手のひらに力を入れる。心なしか汗ばんできた。だって恐い。
「あのう! うひゃあっ」
光った、今この子達の目が光った、ギラリってなった!
(食べられる食べられる食べられる食べられる食べられる食べられる)
恐ろしい程の威圧感が、彼女たちの中から流れ出してくるのが、自分の肌で感じられる。幾分かゆるんできた涙腺を頑張って引き締めて、ぎゅ、ともう一度手を握り直して、前を見据える。
「あの、通してくだ」
「キャーーーーーー!!! 何、この子かわいーっ、すごい涙目ー!」
「ひいっ」
「何、キミ通してくれってここの住人!?」
「は、はい」
「あーもーここレベル高すぎーっ」
「ねえ名前は、ねえ、名前!」
例えるのなら、砂糖に群がる蟻の如く。
(何なんですかこの状況は…っ)
いつの間にか広がる名前コール。ええええ、ちょっと、ちょっとちょっと
「あの自分は、橘、で」
「橘って、剣之助君の弟かな!?」
「(お願いだから最後まで喋らせて下さい)…いえ、そのイトコ」
「何その美味しい設定ー!」
「(お、おいし?)」
増える、人がどんどん増える。こわい、超恐い。こ、わ、い…っ
「「「あー! 逃げたーーー!!」」」
自分には、彼女たちにあらがう力などなかったのだ。
(だから死ぬ気で逃げさせて頂きます)
ご主人様、どうやら外は危険地帯のようですよ。

2006.12.16
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