「あ、さんじゃありませんか」
にこり、と何の悪びれもなく、爽やかに手を挙げた、その人に、一瞬目眩、が、
くらり
第21話 過保護すぎる彼と
「ろろろろろ、ローランさっ、アイタァ!」
「ちょっとさん一体どうしたんですか」
「ヒックリのあまり、舌をかんひゃいまひて、」
「すみませんさん、私日本語にはあまり慣れていませんで。何をいっているのか」
つるりと滑る流暢な日本語をまくし立てながら、ローランさんはニコリ、と自分を見つめた。ちょろりと出した自分の舌がヒリヒリして、今の状況が夢ではない事がしっかりと分かる。
ブーブー、びゅおおおん。 近くを通り過ぎた車の音に、そうだ自分はお買い物に出かけようとしていたんだ、という事を思い出した。
(いやいやいや、それよりなんでこの日本に、ローランさん、が、)
「もしや」
「はい?」
「もももも申し訳ありません、自分が、自分が未だ橘剣之助が1人暮らしを決意した理由を突き止めていないから、その事について 」
「いやいや、調査始まってから、まだ一ヶ月でしょうが」
まだ時間に余裕がありますよ、とニコリと微笑むローランさん。そうですよね、大丈夫ですよね「早いに越した事ないですが」すみません、微笑みながら厭味は止めて下さい。
「あの、じゃあ、何で」
恐る恐る口にした言葉を、ローランさんは、意地の悪い笑みをニヤリと浮かべる。ちょ、一体何なんですか、ねえねえねえ!
「新しい依頼の下準備って訳ですよ」
ぱっと待っていた信号が青に変わった。あ、渉ろう。ローランさんさようなら、また会う日まで。にこーっと笑って、パタパタ手を振りつつ、トコトコ道路へと踏み出 す前に止められた。
「ちょっと、さん」
「だって、自分には関係ないですし。依頼を他人に話す事はルール違反ですし」
「何ひねくれてるんですか」
「ひねくれてないです」
ふう、と短くため息を吐いたローランさんに、びくりを身を震わせた。一体、なんなんですか、と彼へと視線を投げかける前に、「しょうがない」と言葉で遮られる。
しょうがないって何なんですか、と問いかける前に、視線で遮られた。
「ホントは秘密なんですよ?」
「秘密って、」
「時田楓が、アナタが今住んでいるマンションへと来ます」
青かったはずの信号はとっくの昔に赤く変わっている。しゅおおお、と隣を通り過ぎる車に、自分の驚きは吸い込まれていった。吸い込まれすぎて、自分が出来る唯一の事は「…え?」と小さく声を振り絞る事だけで、
「なんで、」
「護衛ですよ、護衛」
「うちのマンションにいる、誰かをですか?」
「いえ、違いますが」
コホン、とした咳払いで、一端、言葉を区切る。
「ま、何であのマンションか、分かるでしょ」
若いっていいですねぇ
ちょっと厭味ったらしげだけど、その言葉に、ちょっと泣きそうになった。まったく、楓さんったら、心配性なんですから、と思う他で、ぽかりと暖かい何かが、胸の奥に、響き渡って。
「会うの、楽しみですか?」
「…そうですね」
勝手に緩む自分の口に気づいて、自分は今、本当に、しょうがなく、幸せな気持ちになっていることに気づいて、ちょっとだけ恥ずかしくなった。
(まったく、過保護すぎます)
「まったく、過保護すぎますねぇ」
丁度、自分と同じ事をいったローランさんに吹き出してしまった。
数日後、相変わらずのにっこりとした微笑みの彼と再会する事になる。

2007.03.18
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